せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

それでも世界は、途方もなく美しく

2008-10-25 11:08:42 | テイルズ
(原作に沿ったり外したりするので注意をば)



「僕も大好きだよ、マルタ」

それは最後の言葉だった。霞み滲み遮られ、マルタがそこに居たという証すら残さずに空間は遮断されてしまう。振り返った時リヒターさんに話しかける僕は既に僕ではなくて、精霊ラタトスクでしかない、ただ一つ人間でもエルフでもない異質な存在だ。
 ―、例えば世界が俺たちのために在ったとして、幸せで居られた確証なんてものどこへ行ったって見つかりっこない。猫箱と同じ、そう言うのなら不幸だったという確かな理由もないのだ。馬鹿馬鹿しくて首を振る、どうやら俺は、あの甘ちゃんを受け入れてからひどく女々しくなったらしい。別れを譲ってやったというのに、未だめそめそしてやがる。けれどそれはきっと、―紛れもない、俺なのだ。

「儀式は終わったのか」
「ああ…。これで俺とお前は、この部屋から出ることはできなくなった」

俺が言うなり、リヒターは自嘲気味に笑った。

「永遠の地獄、か。世界を破滅させようとした男の末路にはふさわしいな」

その言葉に、俺自身皮肉だと笑った。よく響くこの部屋は、すぐに俺とこの男の心を壊してしまうだろう。「随分な嫌味だな」それでも口にするのはせめても償いのつもりなのか、それともただの自傷なのか。人間を受け入れても、人間を完全に理解することはまだできていなかったらしい。

「そんなつもりで言ったのではないがな。付け加えればいいか?魔族に魂を売った男、だ」

もう何度見ただろうか、癖なのか眼鏡を上げながらリヒターは言った。小難しく寄っていた皺は今や解かれ、自嘲気味な笑みに変わっている。だが嘲りの色を深く刻み込んだそれは、既に笑みと言うのも可笑しかったろう。ただ在るだけの表情に過ぎない、誰の記憶にも留まることのない"形状"だ。
ふと、頭を過ぎる声。そうかなら、お前が答えを出してみろ。永遠の地獄を和らげる方法が在ると言うなら。しばらく黙祷のように目を閉じた。
―なら。

「―僕の力を使って、リヒターさんを眠らせるんです。その間、世界に理を引いたら…辛くないですよ、」

やっぱり俺は、とんだ甘ちゃんらしい。俺は眠りに着くことは無い、そうすればリヒターを目覚めさせる事などできないのだから。消える寸前の力を振り絞ってまでこの男を助けてやるなんて、以前ヒトを滅ぼそうとした俺では考えられないことだ。

「フ…俺にそこまで気を使わなくとも構わない。永遠の地獄を覚悟していた俺には蚊に刺された程度の、」
「目を閉じろリヒター、次に目覚めるのは千年後だ」

是非など問うてはいない。手を翳せば血の粛清の時のように、リヒターの額に赤い爪あとのようなものが表れる。ラタトスク・コア。この男が今の今まで呪い続けたそれが体内に取り込まれようとは、なんていう皮肉だろうか。ああ、馬鹿馬鹿しい。
呪詛のように笑みを浮べて、ゆらりと傾いたリヒターを一瞥しては同じように目を閉じる。空気中に取り込まれていくような感覚。もう"俺自身"という存在は無く、ただ思念として在るだけの存在になったのだ。

「これで良かったのですか、ラタトスク様」
「ああ。…リヒターは償いなど要らないとは言ったが、報いは当然受けるべきだ」
「……それがラタトスク様の意思ならば」

アクアの声が遠くで響く。リヒター様は私に任せて、さっさと終わらせて下さいよ。テネブラエと共に地上へ降り立てば、そこから本当の『世界再生』は始まる。ギンヌンガ・ガップの魔物から、海から、ヒトからエルフから、ハーフエルフから全てのマナを取り上げる。魔術も使えなくなるだろう、けれどそれが、本来あった世界の姿なのだから。それを悪いとは、マーテルも言わないはずだ。


(エミル)

声が、聞こえる。

(エミル、私、頑張るから。きみもずっと私のパートナーで居て、そしてこの世界を守ってね)

響くその心を、俺は信じよう。


全てのものからマナを取り上げ、千年が経ったその時、リヒターを開放し俺は消える。それでこの世界は救われる。そして償いも終わる。次に生を受けるその時こそ、あいつらと同じように意思を持ったヒトとして生まれたい。
だから今は、地獄の責め苦を噛み締め思念体として存在していくだけだ。ここは永遠の牢獄。触れもできない、最高のパートナーの傍。



それでも世界は、途方も無く美しく


―――
(それでも世界は、途方も無く美しく)


トゥルーエンドにしようとは思いましたが、
「それでも」は否定系に近いのでバッド方面。
エミルは優しいので、こうしたんじゃないかな…と。
ラタは責め苦を自分で背負ったんじゃないかな…と。
どっちもマルタ大好きですから、ね。