せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

さよならクラレット

2008-10-07 23:10:28 | テイルズ
遠くで"ロイド様"の笑い声が響いた。
「いい声」
ワイングラスを傾けるたび、悲鳴、悲鳴、怒声、爆音。視覚がないだけで感覚は全てが研ぎ澄まされるものだと、無人の酒場の中でひとり物思いに耽る。傍らに積み上がった死体は、既に硬直がはじまっているのだろうか。明後日の方向に折り曲げられた手首が、音の振動に振れることはもう二度とないようだった。
目を閉じるだけですこしだけ尖った耳が炎の燃え上がる音を、弱い者たちの悲鳴を、命乞いを、全て届けてくる。耳を塞ぐだけで黒煙が吹き上がる匂いが、風に紛れて吐き気がするほど甘い甘い"中身"の匂いが感じられる。パパ。真っ赤に咲いた花を思い出す。まるで薔薇。ママ。引き裂かれてローズダスト。真っ赤に真っ黒に染まった私のパパとママ。
怖いなんて、どうして想うだろうか。滑稽で、そしてとても綺麗。物言わぬものほど綺麗なものなんて、この世界にはないのだ。揺れるワインのように、そう。綺麗なのは、赤だけ。私の目の色と同じに、全て染まってしまえばいい。
隣の家が崩壊したのだろうか、がらがらと土砂崩れのような低い音が机を揺らした。『ロイド様』の怒声が響く。酔いが回ってきたのだろうか、世界が一度揺れる。
ころりと床に転がり天井を仰いで、込み上げてきた笑いの衝動に身を任せた。世界。私の大嫌いな世界。世界が私に不幸を押し付けるなら、私が世界に不幸を押し付けてやる。燃え上がれカーマイン。紅蓮に紅蓮に、この街を世界を焼き尽くしてしまえ。
「アリスちゃんとペットとあんた、誰が先に壊れるかしらね!」
悲鳴にヴァンガードの悲鳴が混じりはじめる。予定調和のようにワイングラスを投げ捨て身を翻すと、そこには元の姿に戻った"下僕"の姿があった。名前を呼ぶだけで全てが伝わる、煩わしい言葉をわざわざ投げかける必要なんてどこにもない。投げたグラスが死体の山にぶつかって割れる。血と飲んでいたクラレットが混ざって、透明な、この世で一番の美酒のできあがり。
ねえ、大嫌いなカミサマ。アリスちゃんが世界を壊すまで、勝手に壊れちゃ嫌よ?




さよならクラレット


―――
(さよならクラレット)

題名は一応クラレット色です。クラレットはワインの名前です。
ローズダストもカーマインも色の名前で、両方とも赤系統。
ちなみにクラレットも色の名前、であり、ワインの名前。
色の名前で何か小説を書きたいなあ、と思ってこれは第二弾。
第一弾はセレストブルー。…最初が気に入ってたのに…(ちーん)