制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

後期高齢者医療制度改革会議が初会合

2009年12月02日 09時42分13秒 | 高齢者医療・介護
11月30日に、後期高齢者医療制度に代わる新たな医療保険制度を議論する「高齢者医療制度改革会議」が開催された。
明らかになったことは、これまで報道されてきたことが中心だが、改めて整理しておきたい。
スケジュールだが、

2009年度
・後期高齢者医療制度改革会議の立ち上げ
・基本的な方向性を議論
2010年度
・夏までに基本的な方向性を提示
・年末に最終取りまとめ
・1月に新制度の法案提出
2011年度
・新制度の法案成立
・施行に向けた準備
2012年度
・施行に向けた準備
2013年度
・新制度の施行

となっている。
同時に提示された「6つの原則」は、このブログでも取り上げたものそのままである。

・後期高齢者医療制度は廃止
・高齢者のための新たな制度の構築
・医療制度を年齢で区分するという問題の解消
・市町村国保などの負担増に十分配慮
・保険料の急な増加や不公平感を生まないようにする
・市町村国保の広域化につながる見直しを実施

今回は、事務局からの説明と委員によるフリーディスカッションが中心だったため、「75歳=年齢で区分するという問題を解消しつつ、高齢者のための新たな制度を構築すること」についての議論は、十分ではなかった。新制度のアウトラインがみえてくるのは、まだまだ先になりそうである。マニフェストに掲げられているとおり、民主党は、市町村国保の広域化を進めて「地域保険として一元的に運用する」ことを基本的な構想として持っており、その上に、75歳で前期と後期を区別しない新たな高齢者医療保険制度を乗せようとしているのではないかと思われる。

ここで問題となりそうなのは、今からの1年間で議論し、基本的な方向性としてまとめあげることができるかということである。高齢者の医療・介護を社会全体でどのように支えていくべきかというビジョンも明確でないし、新たな制度のアウトラインを提示できていない状況なのだから、相当にタイトなスケジュールになることは間違いない。

この会議で方向性を提示できたとしても、ステイクホルダー間の調整は難航するだろう。
例えば、後期高齢者医療制度を「廃止」して、前期高齢者医療制度に統合すると、被保険者の多くが市町村国保になだれ込む。ただでさえ、市町村国保の財政状況は逼迫しており、これ以上の負担を求められない。そのため、6原則に「市町村国保の広域化」が掲げられているが、同一都道府県内の市町村でも、財政状況はそれぞれであり、保険料もそれぞれ。広域化によって保険料が上がる(財政的に健全な)市町村国保からの反発は避けられそうにない。
また、市町村国保を広域化したとしても、今後も伸び続けると思われる高齢者の医療費を支えることはできないだろう。被用者保険と市町村国保間の財政調整も強化されることになり、赤字に転落する被用者保険が増えることになる。収支をバランスさせるために被用者保険の負担を増やす=保険料を上げなければならなくなると、被保険者からの反発は避けられない。協会けんぽの保険料を上回ってしまたったり、財政的に立ち行かなくなった被用者保険を解散させ、地域を単位とする新たな保険者に統合する方針を打ち出したとしても、2011年度からの2年間でどこまで進捗するかわからない。協会けんぽの財政状況も悪化し、国に財政支援を求めることになるだろう。
市町村国保と被用者保険を統合して「地域保険として一元的に運用する」に至るまでには、さらに多くの時間を要する。今回の改革から始まる中長期的なスケジュールが示されることになるだろう。


高齢者医療制度改革会議での「あるべき姿」の議論と並行して、現実的にできることを探り、ステイクホルダーとの話し合いを続け、理解を得ていかなければならない。ステイクホルダーからの同意が得られないと、「基本的な方向性」ですら記述が定まらないからである。このタイトなスケジュールで本当にできるのだろうか、というのが正直な感想である。