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自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

介護保険の事務手続き見直しの意見募集中

2010年02月05日 09時51分49秒 | 高齢者医療・介護
厚生労働省は、介護保険制度の事務手続きを見直すための意見の募集を始めた。期間は2月3日から3月31日まで。電子メールまたは郵送・FAXで、厚生労働省老健局振興課に。

介護保険制度に係る書類・事務手続の見直しに関するにご意見の募集について
http://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/iken/p100201-1.html

介護保険最新情報 Vol.130
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/NR/rdonlyres/FCEF71E9-6D80-41AF-A2F7-B36B16617FA0/0/ki_v130.pdf

今回の意見募集の背景には、長妻大臣が今国会の予算委員会で「申請する書類が大変だ」という介護事業者の声を紹介し、見直しのための意見を募集する意向を示したことがある。意見は分析・検討したうえで、具体的な見直し策に反映させる方針。厚生労働省は、介護保険制度上の提出書類に記載する項目や様式、書類の提出頻度などの見直しを想定しているとのこと。

介護保険の事務手続き見直しで意見募集―厚労省
http://news.goo.ne.jp/article/cabrain/life/cabrain-26182.html

2000年度の介護保険制度の施行前から、提出しなければならない書類の様式の多さや煩雑さはわかっていた。以下ような構造になっていて調整がつかなかったこと、施行前だったため「現場が大変になる」という意見に説得力を持たせることができずに「見切り発車」となった経緯がある。法改正や細かなルールの改正の積み重ねで複雑さが増し、さらに事務が肥大化しているのも確か。様式の廃止や項目の見直しといった小規模かつ現実的な見直し(現場の負担軽減につながる見直しなら歓迎なのだが)に留まることなく、大胆な見直しにも取り組んでいただきたい。

複雑さ、煩雑さの根本には、保険制度として必要になる事務処理(報酬の請求に必要なもの)と、ケアマネジメントから始まる利用者の自立生活支援に必要となる事務処理(ケアプランやサービスを提供する事業者間でやりとりされるもの)が混在していて、切り分けられていないことがある。
保険制度なのだから、被保険者が介護を必要としていて、サービスを利用することが適切であると認められなければならない。そのための専門職として介護支援専門員がいて、作成したケアプランに基づいてサービスが提供されるという構造になっている。この基本構造は崩すことはできない。
事務手続きが煩雑だからといって、サービスの質が低下するような見直しでは駄目。サービスの選択権を利用者に渡す(利用券方式)などの見直しを行い、この構造を崩してしまうと、サービスを利用・提供する目的が不明確になり、サービスの質=得られる効果・便益は低下してしまう。やはり、この構造を基本として、いかにスムーズに情報を流すかを考えるべきだろう。
例えば、介護報酬の請求は、基本的にIT化されている。しかし、事業者間のやりとりは、依然として紙とFAX、電話であり、標準化がなされていないためにIT化できない。介護報酬系とサービス提供系の事務が連動していないために、紙台帳をみてコンピュータに入力していたり、標準化がなされていないために、市町村や事業者ごとに作成する様式がばらばらだったりする。思い切って事務処理を見直すとともに、事業所ごとにばらばらに作成している書類・情報項目を標準化する取り組みに着手してはどうだろうか。そうすれば、一般企業がすでに実現しているEDIのノウハウを介護保険分野に取り入れられる。かなりの事務効率化が期待できる。日々のやりとりで蓄積されるデータから、介護報酬の請求に必要なデータが作成できるようになれば、多重の管理は不要になる。

電子データ交換
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%AD%90%E3%83%87%E3%83%BC%E3%82%BF%E4%BA%A4%E6%8F%9B

また、ケアマネジメントの理論において、サービスを提供するにあたっての目標を明確にすることはとても大事なこととされているが、実際の現場は、そうでなかったりする。ニードがあり、目標があり、それらを実現する方法としてのサービスがあるという順で考えるよりも、利用したいサービスがある、サービスを利用することで充たされるニードがあると考える「サービスオリエンテッド」が実際には残っている。理論と実際が離れすぎているために、情報項目の枠を埋めること(手段)が目的化してしまっている。現場に役立つ現実感あるものとし、少しずつ「ニードオリエンテッド」に近づけるような戦略性があってもよいと思う。