制度改正Watch

自立支援法・後期高齢者医療制度の「廃止」に伴う混乱を防ぐために

障害者の「情報保障」 その2

2009年09月24日 16時43分15秒 | 自立支援法・障害
第十一条の「障がい者が国及び地方公共団体の事務に関する情報を容易に入手できるようにする」とは、具体的にどのようなことだろうか。自立支援法の施行前後の「混乱」を繰り返さないためにも何ができるのかを考えていきたい。
自立支援法が成立してから、サービスの利用方法や自己負担額の算出方法を始めとする事務の検討がなされ、情報の提供がなされてきた。しかし、施行の直前になって「こんな法律は知らない。認めない」とばかりの運動がなされたのは、それらの情報が「届かなかった」、あるいは届いたとしても、自分たちに向けられた情報でないために「どのようなことを意味しているのかわからなかった」からである。
確かに、厚生労働省が省令や通知を出したとしても、ホームページにすら掲載されない(現に、検索しても何も出てこない)、都道府県や市町村を通して情報は流したといっても、それらを「自分たちのこと」と受けとめられるように言い換えたり、具体的な例をつかって考えたりするような工夫がなされていたかというと、かなりの疑問が残る(施行日の前にならないと決まらないことも多かったし、「役人向けの言い回し」は一般の人にはわかりづらい)。

厚生労働省には、自立支援法の反省を踏まえ、「情報を容易に入手できるようにする」ために、どのようなことをすればよいのかを考えていただきたい。

このブログでは、厚生労働省に任せきりになっている「制度設計」や「成文化」に直接的な利害関係者(障害当事者など)が参画できるように支援していきたい。いくら当事者団体が声を大きくして厚生労働省と折衝したとしても、事務をどのように回していくのか、法律の条文や省令・通知に何を書くのか(あるいは書かないのか)の検討と決定はすべて厚生労働省にお任せ。最後の最後になって「こんなはずじゃなかった」と気づいても手遅れ、となっては困る。「このような条文にしたい」「通知で流す前に当事者団体で問題がないかの検討をしたい」ぐらいまで踏み込みたい。

障害者の「情報保障」 その1

2009年09月23日 08時51分47秒 | 自立支援法・障害
民主党の「障がい者制度改革推進法(案)」の第十一条から、本人が必要とする「情報」をいかに届けるかについて考えてみたい。

第十一条(情報の入手、利用等)
 障害の種類に応じた方法により、障がい者が国及び地方公共団体の事務に関する情報を容易に入手できるようにするとともに、障がい者に対し公共分野におけるサービスの利用に係る情報を積極的に提供するための措置を講ずるものとする。

自立と社会参加を実現するためには、実に様々な「情報」が必要となる。しかし、「情報」が本人や家族などに届かなければ、ニードを充たすために利用できる支援やサービスがあると気づかない。つまり、「情報」が得られるようにする仕組みは、自立と社会参加を支える社会基盤になる、ということである。
国や市町村がホームページから公的な支援やサービスを始めとする「制度情報」を提供する(あとはご自由にどうぞ。必要なサービスを見つけられない=お使いにならないのは「自己責任」です)は、「情報保障」としては十分ではない。「公共分野におけるサービスの一覧表」では、本人の「必要なサービスを利用する(ニードを充たす)ためには、どうすればよいのか?」との問いに答えられないからである。提供者側の視点から、利用者側の視点へ。情報提供のあり方を考えると、きちんとニードをきき、必要かつ適切な情報を提供する。本人が利用するか否かを決められるように支援するという、本人に寄り添った「情報保障」が求められる。

サービス利用までの手続き方法について

2009年09月22日 11時00分47秒 | 自立支援法・障害
民主党の「障がい者制度改革推進法(案)」の第十四条の三から、サービス利用のあり方を考えていきたい。

第十四条(障害福祉サービス等)
三 障がい者に対する給付の支給決定に関する手続について、障がい者の意思が真に尊重されたものとするとともに、当該給付の内容について、障がい者が地域社会において自立した生活を営むのに十分なものとすること。

支給決定にあたっては、「障がい者の意思が真に尊重されたものとする」と、本人の意思が第一に、「障がい者が地域社会において自立した生活を営むのに十分なものとする」と、自立した生活に必要な種類と量を確保することが第二に掲げられている。
支給を決定する市町村は、生活の全てに渡る広範なアセスメントをして必要な情報を集め、分析し、根拠に基づいて必要なサービスの種類と量を決める必要がある。つまり、支給を決定する前に「本当のケアマネジメント」をすることが必要になる(行政職員にできるだろうか?)。
高齢者介護の分野でケアマネジメントの考え方が導入されているが、障害者分野においては、介護サービスに限らずに生活全体を見て、様々な社会資源間をコーディネイトしなければならないこと、障害ごと・本人ごとの違いが大きく一般化された基準を適用できないことから、ケアマネジャーには高いスキルが求められる。

いかに手続きを見直したとしても、行政職員や民間のケアマネジャーのスキル向上と必要量の確保が伴わないと機能しない。

「社会参加カード(仮称)」を前提とした事務のあり方

2009年09月21日 19時06分30秒 | 自立支援法・障害
民主党の「障がい者制度改革推進法(案)」の第十四条にある「障がい者に対する給付の支給決定に関する証明書」が「社会参加カード」であるとして、どのような利用方法になるか考えてみたい。

第十四条(障害福祉サービス等)
二 現行の障害の種類ごとの手帳制度を廃止し、障害の種類にかかわらず、障がい者に対する給付の支給決定に関する証明書を交付する制度を設けること。この場合において、現行の手帳制度からの移行が円滑になされるようにすること。

サービスを利用するにあたっては、社会参加カードが前提になること、障害の種別によらず交付されるカードであることから、カードの表面には最低限の情報のみを記載、詳細情報はICチップ内に格納する方法が考えられる(ICカード)。
プライバシーを確保しつつ、ICチップの読み書きができる事業所などでは詳細情報を利用できるようになる(例えば、公共交通機関の割引のために、詳細情報を晒さずに済む)。
サービスを利用したい、手帳を所持したい場合には、市役所に申請してカードの交付を受ける(障害種別などが書き込まれる)。サービスを利用する場合は、ICチップに利用するサービスの種別や給付額などのデータを書き込む。ケアマネジャーや事業所などは、ICチップ内のデータにアクセス(照会・追記)してサービスを提供する、といった運用方法になる。
社会参加カードをうまく使うと、認定情報の履歴を管理したり、事業者間の申し送りができるようになる。

住民基本台帳カードや「社会保障カード(どうなるかわからないが)」と共用したいところだが、カードの表面だけで障害者手帳と同じように「社会参加カード」とわかる必要があるので、カードは専用になる。読み書き装置を共用としたいので、ICチップの仕様は他のカードと同じにすることになるだろう。

「社会参加カード(仮称)」のあり方

2009年09月21日 11時02分43秒 | 自立支援法・障害
自立支援法の「廃止」に続き、障害者手帳を見直して「社会参加カード(仮称)」とする方針が出されている。
現在、身体障害者には「身体障害者手帳」、知的障害者には「療育手帳」、精神障害者には「精神障害者保健福祉手帳」が交付されているが、これらの「手帳」が「カード」化されることになる。

現在の障害者手帳の制度には、

・手帳を持つことに抵抗感がある、持つことで得られる利便が魅力的でないなどの理由から、申請していない者も多く、「障害者=手帳の所持者」でない
・手帳を交付した後の管理が十分になされていない(手続きがなされないとわからない)、住民基本台帳と連動していないため、市町村が管理している交付データと実際が一致していない
・ゆえに、市町村は、地域で暮らす障害者の実数を把握できない

などの課題がある。
紙の手帳をカード化するだけでは何も変わらない。かといって、「障害者=手帳の所持者=サービスの利用者」とし、市町村が交付データを管理し、自立支援法のデータと連動させるような制度とするのは、「改正」よりも「改悪」だろう。

自立支援法の改正か、新法・新制度か

2009年09月20日 17時40分40秒 | 自立支援法・障害
新聞記事では、自立支援法を「廃止」し「新法」を、とされているが、現行法に手を入れるだけでも十分だろう。
例えば、「社会福祉法」は「社会福祉事業法」を改正・改題した法律である。


社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律

(社会福祉事業法の一部改正)
第一条 社会福祉事業法(昭和二十六年法律第四十五号)の一部を次のように改正する。
 題名を次のように改める。

   社会福祉法


まったく新しい法律に変えると、市町村やサービス事業者の業務設計からやり直すことになる。その結果として、サービスの申請や利用の方法が変わったり、自己負担や上限の考え方が変わったりする。何よりも、新法を書き上げるまでに時間がかかる。
現行法を改正して「応益負担」にするなど、できることから着手しておき、その間に本質的な議論をすればよいのでは、とも考えられるが、いかがだろうか。

支給限度額のあり方を考える

2009年09月20日 16時52分10秒 | 自立支援法・障害
自立支援法の改正にあたって、利用の上限をどうするかについては十分な議論がなされていない。障害者が「自立」するためには上限を取り払うべきとの考え方があるのに対して、現実的な問題として、(1)「青天井」にした時の財源をどのように確保するのか、(2)地域の社会資源が限られているなかで上限を取り払うと、利用者間の格差が大きくなってしまうのではないか(24時間・365日のサービスが利用できる人も、サービスを利用するために空きを待っている人もいる)といった問題に取り組まなければならないからである。

上限は、障害者自立支援法の第二十二条(支給要否決定等)の4、

4 市町村は、支給決定を行う場合には、障害福祉サービスの種類ごとに月を単位として厚生労働省令で定める期間において介護給付費等を支給する障害福祉サービスの量(以下「支給量」という。)を定めなければならない。

が根拠となっている。残念ながら、「改正法案」には、この条文の改正は盛り込まれていない。

実質的には、応能負担。条文を実態に合わせればよい?

2009年09月20日 16時34分13秒 | 自立支援法・障害
障害者自立支援法における「応益負担」の根拠は、第二十九条(介護給付費又は訓練等給付費)、第三十条(特例介護給付費又は特例訓練等給付費)にある。
具体的には、

第二十九条
3  介護給付費又は訓練等給付費の額は、障害福祉サービスの種類ごとに指定障害福祉サービス等に通常要する費用(特定費用を除く。)につき、厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額(その額が現に当該指定障害福祉サービス等に要した費用(特定費用を除く。)の額を超えるときは、当該現に指定障害福祉サービス等に要した費用の額)の百分の九十に相当する額とする。

の「百分の九十に相当する額」しか給付しない、つまり、残りの1割はサービスを利用する本人が負担するとの条文である。
これが、廃案になった「改正法案」では、

第二十九条
介護給付費又は訓練等給付費の額は、一月につき、第一号に掲げる額から第二号に掲げる額を控除して得た額とする。
一 同一の月に受けた指定障害福祉サービス等について、障害福祉サービスの種類ごとに指定障害福祉サービス等に通常要する費用(特定費用を除く。)につき、厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額(その額が現に当該指定障害福祉サービス等に要した費用(特定費用を除く。)の額を超えるときは、当該現に指定障害福祉サービス等に要した費用の額)を合計した額
二 当該支給決定障害者等の家計の負担能力その他の事情をしん酌して政令で定める額(当該政令で定める額が前号に掲げる額の百分の十に相当する額を超えるときは、当該相当する額)

となっている。利用したサービスの合計額から「家計の負担能力その他の事情をしん酌して政令で定める額=応能負担」と「百分の十に相当する額=応益負担」の低い方の額を引いた額を給付する、つまりサービスを利用する本人は、「応益負担額と利用料の1割の低い方の額」となる。「応益負担」を「応能負担」に変えるだけなら、廃案となった改正法案をそのまま通せばよい(準備は整っている)。

厚生労働省は、「応益負担」の運用に近づけているので、根拠となる条文に手を入れて実際に合わせた、と言うかもしれない。

障害者自立支援法を「廃止」する?

2009年09月20日 16時26分15秒 | 自立支援法・障害
障害者自立支援法を「廃止」して、利用料の1割を負担する「応益負担」から、所得に応じた「応能負担」に変更するとの方針が打ち出された。
政権交代に伴う大きな前進と捉えることもできるが、実際には、国会解散により廃案となった「障害者自立支援法等の一部を改正する法律案(平成21年3月31日提出)」の見直し・再提出となるかもしれない。

厚生労働省が今国会に提出した法律案について
第171回国会(常会)提出法律案
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/171.html

障害者自立支援法を本当に「廃止」するとサービスを利用できなくなってしまうので、実際には、現行法を生かして改題する、改正に伴う急変・混乱を避けるための移行措置をしっかり整えるという意味だと理解したい。