メール強要15分に1回、職場に怒号電話も…軽すぎる日本のストーカー罰則 メール強要15分に1回、職場に怒号電話も…軽すぎる日本のストーカ http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/snk20140418528.html へのリンク 2014年4月18日(金)12:13
(産経新聞)
「束縛癖」の強い男だとは感じていた。
兵庫県内に住む30代女性は平成9年ごろ、一人の男と出会い、交際を始めた。「会社に着いた」「今から昼休み」…。携帯電話メールの普及に伴い、自分の行動を逐一報告するよう要求された。
連絡を怠れば、怒鳴り声を上げて勤務先に電話してくる。メールの頻度は15分ごとに増えた。連絡を絶つと実家や祖母の入院先にまで押しかけてきた。
限界を感じた21年10月、わらにもすがる思いで県の相談機関に連絡。一時保護施設(シェルター)にかくまわれた。女性の携帯電話に1週間で40回以上連絡してきた男は翌11月、ストーカー規制法違反容疑で逮捕された。
安心したのもつかの間、3カ月後に下った判決は懲役6月、執行猶予5年。すぐに男は野に放たれた。
予想を裏切る軽い罰則。迫り来る男の“影”への恐怖に身震いした。
■軽犯罪法以上、刑法未満
ストーカー規制法は、21歳の女子大生が元交際相手の男らが雇った男に殺害された埼玉県桶川市のストーカー殺人事件(11年)を受け、12年5月に議員立法で成立、11月に施行された。
通常の罰則は懲役6月以下か50万円以下の罰金で、公安委員会の禁止命令に背いた場合は懲役1年以下か100万円以下の罰金。懲役刑でもほとんど執行猶予が付くのが実情だ。
なぜ、罰則が軽いのか。
被害者を街角で待ち伏せて見つめ続ける。ふられてもあきらめず、交際を迫る。こうした個々の行為は一般的に犯罪としてとらえにくく恋愛との線引きも難しい。だが、反復・継続すれば被害者の平穏な生活を害する犯罪となる。
この場合、「拘留または科料」と罰則の軽い軽犯罪法で取り締まるだけでは不十分だ。一方、刑法で対処する脅迫などの事件や殺人などの凶悪事件に発展してからでは遅すぎる。
法案作成の中核を担った元警察庁キャリアの松村龍二元参院議員は、専門家の間でストーカー事件は「軽犯罪法以上、刑法未満」といわれていたとし、「罰則案は法務省が軽犯罪法を基準に出した」と明かす。罰則は軽犯罪法の延長線上に位置づけられていたのだ。
松村氏によると、当時は警察が警告などで関与すれば大半のストーカー行為は収まると考え、規制を求める世論を受けて急ピッチで成立させたという。罰則の軽重は特に着目されず、国会審議でも警察権限の拡大などを懸念する声がわずかに上がるだけだった。
悪質なストーカー殺人事件が相次ぎ、昨年6月に約13年ぶりに初めて実現した法改正でも、罰則が議論された形跡はない。
■世界では拘禁10年以下も
諸外国はどうなのか。
米国では21歳の女優がストーカーに殺害されたことを機に1990(平成2)年、カリフォルニア州で初めての反ストーキング法が成立。94年までにほぼすべての州で成立した。
世界のストーカー制度に詳しい常磐大大学院の諸沢英道教授(被害者学)によると、米国の罰則は州ごとに異なる。再犯を重ねると重くなるケースが多いが、最初から重犯罪として3~5年以下の拘禁刑を科す州もある。オランダは拘禁7年以下、オーストラリアも州によっては拘禁10年以下だ。
諸沢教授は「日本の罰則は軽すぎる。これでは実刑になりにくく、罪を犯すことへの恐怖も少ない。罰則に抑止力がなければ、犠牲になるのは被害者だ」と語り、こう提言する。「被害者を守る立場から法のあり方を考え直すべきだ」
■悪行の「応報」
兵庫県内の女性へのストーカー行為で執行猶予付き判決を受けた男は、幸いにも再犯には及んでいない。
それでも女性は判決後、恐怖のあまり地元を飛び出し、県外の福祉施設を渡り歩いた。親のそばに戻ろうと地元に帰ったのは24年秋。逃避生活を始めてほぼ3年が経過していた。
今も実家から少し離れて暮らし、男の“影”におびえる。女性の心に刻まれた深い傷を思えば、罰則を犯罪抑止効果だけでなく、悪行の「応報」としても考える重要な視点に行き着く。
女性は言う。
「あいつが裁かれた罪なんて、私の苦しみの何万分の一に過ぎない」
昨年1年間で警察が認知したストーカー被害は2万1089件で、ストーカー規制法が施行された12年以降最多となった。昨年、初の法改正は実現したが、抜本的な見直しが必要だとの声は強い。被害者を守るための法制度を考える。
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【ストーカー規制法】 特定の人に対する恋愛や好意の感情、それに端を発する怨恨の感情を満たすため、つきまとい等の8行為を反復する行為を「ストーカー行為」として規制する。被害者が加害者を告訴すれば、罰則は6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金。また、被害者の申告を受けた警察は、つきまとい等をやめるよう加害者に警告することができ、警告を無視すれば公安委員会による禁止命令を出すこともできる。禁止命令に違反すると1年以下の懲役か100万円以下の罰金。
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