http://news.goo.ne.jp/article/sankei/nation/snk20131126509.html 2013年11月26日(火)09:05
(産経新聞)
東日本大震災の津波が巨大化したのは、海底地滑りが一因だった可能性が浮上している。地震の揺れなどで海底の斜面が崩落する現象だ。日本を含む世界各地で過去の爪痕が見つかっているが、発生メカニズムや津波との関係は不明な点が多く、専門家は調査の必要性を訴えている。(黒田悠希)
海底地滑りはさまざまな原因で発生するが、日本周辺では地震が主な引き金だ。海洋プレート(岩板)が陸側プレートの下へ沈み込む日本海溝や南海トラフなどで多くの痕跡が見つかっている。過去に起きた場所は将来も起きやすいと考えられる。
プレート境界で地震が起きると、陸側が跳ね上がって海側にせり出す。この地殻変動や地震による揺れ、海底堆積物の液状化などが地滑りを引き起こすとみられる。
地滑りは地盤が馬蹄(ばてい)形に崩れることが多い。発生場所では海底が陥没し、崩れた泥が積もった場所は逆に盛り上がるので、海水が上下に動いて津波が起きる。津波はプレート境界地震だけでも発生するが、急激で大規模な地滑りが同時に起きると、地震の規模の割に大きな津波が押し寄せることになる。
■明治三陸沖と類似か
マグニチュード(M)9・0の東日本大震災でも、海底地滑りが津波を巨大化させた可能性があることが分かってきた。
大震災では周期が長いゆっくりとした津波と、周期が短く急激に高くなる津波が重なって被害が拡大した。短周期タイプは津波巨大化の主因だが、どこで発生したのかは分かっていなかった。
海洋研究開発機構の市原寛技術研究副主任らは磁場変動の観測から、短周期の津波が岩手県沖の日本海溝付近で発生したことを突き止めた。ここは震源から北東に約150キロも離れており、震源に近い宮城県沿岸よりも、北側の岩手県中部沿岸に高い津波が襲った謎を解明する成果として注目されている。
興味深いのは、この場所が明治29(1896)年の明治三陸沖地震(M8・2)で起きた津波の推定発生源と重なることだ。30メートル超の大津波が起きた明治三陸沖は、海溝付近の浅い場所が滑る津波地震とされているが、巨大な海底地滑りを伴ったとする説もある。
市原氏は「大震災と明治三陸沖の津波発生メカニズムは関係があるのかもしれない。どちらも海底地滑りが津波を巨大化させた可能性がある」と指摘。海洋機構はこの海域を来年度にも掘削して詳しく調査する方針だ。
■南海トラフに痕跡
海洋機構の金松敏也技術研究主幹らは平成22(2010)年から23(11)年にかけ、紀伊半島沖の南海トラフで斜面を掘削調査し、約100万年間の地層から海底地滑りの痕跡を6層見つけた。この海域ではM8級の東南海地震が約100~150年周期で起きているが、海底地滑りは約30万年前以降、1層しか確認されなかった。有史以前の地滑りはM8級を超える巨大地震で発生したのかもしれない。
海底地滑りは陸上の地滑りよりも調査が困難で、地震や津波との因果関係を調べるのは容易ではない。金松氏は「掘削地点を増やし、地層を詳しく調べて謎を解き明かしたい」と話す。
■被害想定に生かせ
海底地滑りは大津波を招く危険性があるにもかかわらず、国の南海トラフ巨大地震の想定などには反映されていない。産業技術総合研究所の池原研副研究部門長は「地質調査を進めて過去の地震や津波と関係する証拠をつかみ、津波の正確なシミュレーションや被害想定に生かしていくべきだ。想定外にすべきではない」と話す。
気象庁の津波警報は、地震波から津波の高さを計算して第1報を出している。海底地滑りによる津波増幅は初報段階では考慮できないため、予想津波高が過小評価される恐れがある。
山口大の川村喜一郎准教授(海洋地質学)は「海底地滑りで津波が起きたとされる例は多い。大津波は大地震だけで起きるのではない。リアルタイムで津波を観測するシステムを充実させ、早期警戒すべきだ」と訴えている。
■世界各地で発生、米西海岸に大津波の予測も
海底地滑りは世界各地で津波との関連が指摘されている。西太平洋のパプアニューギニアでは1998年、M7.1の地震の後に約15メートルの津波が押し寄せ約2000人が命を落としたが、この津波は海底地滑りが原因とされる。2010年のハイチ地震(M7.3)では、沿岸の海底堆積物が地滑りを起こし、局地的に大きな津波を発生させたという。
ハワイ諸島周辺は海底地滑りの地形が多数あることで知られる。ハワイ島南東部では大規模な海底地滑りが懸念されており、発生すれば米カリフォルニア州沿岸に30メートル超の巨大津波が押し寄せるとの研究もある。
ノルウェー沖には幅約300キロ、長さ約800キロの巨大な海底地滑りの痕跡がある。8000~4000年前に発生し津波も起きたとされる。原因は地震のほか、海底下のメタンハイドレート融解による水圧変化との説もあり、はっきりしていない。