2020年9月 14日(月)晴 23℃ 64%RH am8:00
童話と絵本の会の準備をしています。 お気に入りの童話や絵本があれば教えてください。
ゴルゴーンたいじ(1~4) の続きは別の機会ににしてください。
今日の絵本
_金魚うり=小川未明 え深沢紅子
__赤い鳥 二年生 赤い鳥の会 代表 坪田譲治 与田準一 鈴木珊一
___1980 株式会社小峰書店
_____私の蔵書
たくさんな 金魚の 子が、おけの 中で、 あふ あ
ふとして およいで いました。からだじゅうが すっ
かり 赤いのや、白と赤の まだらのや、 頭の さきが、
ちょっと 黒いのや、いろいろ あったのです。それを
まえと うしろに 二つの おけの 中に いれて、か
たに かついで、おじいさんは、春の さびしい 道を
あるいて いました。
この おじいさんは、これらの 金魚を なかがいや、
おろしやから、かって きたのでは ありません。
じぶんで たまごから ようせいしたので ありますか
ら、 ほんとうに、じぶんの 子どものように、かわいく
おもって いたのです。
「これを うらなければ ならぬとは、なんと かなし
いことだろう。」
こう おじいさんは、おもったのでした。
春の風は、やわらかに ふいて、おじいさんの 顔を
なですぎました。道ばたには、すみれや、たんぽぽや、
あざみなどの 花が、ゆめでも みながら ねむってい
るように さいて いました。 あちらの のはらは、 か
すんで いました。
いろいろの おもいでは、おじいさんの 頭の 中に
あらわれて、 わらいごえを たてたり、また かなしい
なきごえを たてたかと おもうと、いつのまにか、あたら
しい、べつの くうそうが、顔を だしたのです。
人家の あるところまで くると、おじいさんは、
「金魚やい、金魚やい ―――」と、よびました。
子どもたちが、その こえを ききつけて、どこから
か たくさん あつまって きます。 その 子どもたち
は、なんとなく らんぼうそうに みえました。 金魚の
およいでいる 中へ ぼうを いれて かきまわし か
ねないように みえました。 おじいさんは、そうした
子どもたちには、うりたいとは おもいませんでした。
「きれいな 金魚だね。」
「ぼくは こいの ほうが いいな。」
「こいは かわに すんで いるだろう。」
「いつか ぼく、つりに いったら 大きな こいが、
ぱくぱく すぐ ぼくの つりを している まえの
ところへ ういたのを みたよ。」
「赤かったかい。」
「黒かった。すこし 赤かった。」
「うそでない。 ほんとうだ。」
その らんぼうそうな 子
どもたちは、もう 金魚の
ことなんか わすれて しまって、
ぼうを もって せんそうごっこを
はじめたのです。
おじいさんは、わらい顔を
して、子どもたちが むじゃきに
あそんでいるのを
ながめて いましたが、やがて
あちらへ あるいて いきました。
村を はなれると、 まつの なみきの
つづく かいどうへ でたのであります。
その 松の木の ねに こしを かけて、じっと おけ
の 中に はいっている たくさんな 金魚の すがた
を ながめていました。 こうして、おじいさんは、じぶ
んの そだてた 金魚は、のこらず めの 中に、はっきりと
はいっていたのです。
ながい 道を おじいさんに かつがれて、しらぬ
町から 町へ、村から村へ いく あいだに、金魚は、
じぶんの きょうだいや、ともだちと わかれなければ
なりませんでした。
そして、それらの きょうだいや、
ともだちとは、えいきゅうに、また いっしょに
くらすことも なければ、およぐことも なかったのです。
もとより じぶんたちの うまれて、 そだてられた
こきょうの 小さな いけへは かえることが なかった
でしょう。
金魚は、なにも いわなかったけれど、おじいさんは、
よく、金魚の こころもちが わかるようでした。 あまり
ながい、まい日の たびに ゆられて、中には、
よわった 金魚も ありました。 そんなのは、 べつの
うつわの 中に いれて、みんなと べつに してやりました。
なぜなら、 たっしゃで、げんきの いいのが
ばかにするからです。 そのことは、ちょうど 人間の
しゃかいに おけると ちがいが ありません。
よわいものに たいして、あわれむものも あれば、
かえって、それを あざけり、いじめるようなものも
ありました。
おじいさんは、おけに はなを うたれたり、また
ゆられたために よわった 金魚を いっそう
かわいがって やりました。
ある日のこと、おじいさんは 金魚の おけを
かついで、
「金魚やい、金魚やい―――」と、よびながら、小さな町へ
はいって きました。
そのとき、十二、三になる 少年が、とある 一けんの
家から とびだしてきて、いきいきとした 目で
おじいさんを あおぎながら、
「金魚を みせておくれ。」と いいました。
おじいさんは、おとなしい、よい子どもだと おもいましたから、
「さあ、みてください。」と、こたえて、おけを おろして
みせました。
少年は、二つの おけの 中に はいっている 金魚を
ねっしんに みくらべて いましたが、おじいさんが
べつにしておいた、 よわった 金魚へ、やがて
その 目を」うつしたのです。
「この まるい、おの ながい 金魚を くださいな。」
と、 子どもは いいました。
「ぼっちゃん、この 金魚は、 いい金魚ですけれど、
すこし よわっていますよ。」と、おじいさんは、
目を ほそくして こたえました。
「どうして、よわっているの?」
「ながい たびをして、頭を おけで うって つかれ
いるのですよ。」
おじいさんは、やさしい、いい子どもだと おもって
みていました。
「ぼく、だいじにして、この 金魚を かって やろう
かしらん……」
「そうして くだされば、 金魚は よろこびますよ。」と、
おじいさんは いいました。
子どもは まるい おの ながい、赤と白の まだらの
金魚を かいました。 そのほかにも 二、三びき
かって 家の 中へ はいろうとして、
「おじいさんは、 また、こっちへ やってくるの?」と、
少年は ききました。
「また、らい年 きますよ。そして、金魚が じょうぶで いるか、
お家へ いって みますよ。」と、いいました。
少年は、うれしそうにして、金魚を いれものに いれて、
家へ はいりました。 おじいさんは、 かわいがっていた 金魚のゆくすえを
おおいながら、人のよさそうな 顔に わらいを たたえて、
にを かつぐと 子どもの はいった 家の ほうを みかえりながら さったのでした。
「金魚やい、金魚やい--」という こえが、だんだん とおざかって いきました。
おじいさんは、それから、いろいろの 町を あるき、また 村を まわって、
春から、夏へと よびあるいたのです。 こうして、じぶんの そだてた 金魚は、
ほうぼうの 家へ かわれて いきました。
おじいさんから よわった 金魚を かった 子どもは その金魚を
いたわって やりました。 金魚は、 きゅうに みんなから はなれて、さびしくなったけれど、しずかな あかるい 水の 中で、二、三のともだちと いっしょに おちつくことが できたので、だんだん げんきを かいふくして きました。
そして、五日たち、七日たつうちに、もとの じょうぶな からだと なったのであります。
★★★★★★★★★★★つづきはここから★★★★★★★★★★★
金魚は、水の 中から、 にわさきに、 いろいろの さいた 花を ながめました。
また、 ある夜は やわらかに てらす 月の ひかりを ながめました。
じぶんたちを かわいがってくれた、 おじいさんの 顔は ふたたび みることは
なかったけれど、 少年は まい日のように、 水の 中を のぞいて、 えを くれたり、
あたらしい 水を いれてくれたり、 しんせつに してくれたのであります。
金魚は、 だんだん おじいさんの ことを わすれるように なりました。
夏が すぎ、 秋が ゆき、 冬と なり、 また、 春が めぐってきました。
ある日のこと、 少年は、 そとにあって、
「金魚やい、 金魚やい―-」と、 いう よびごえを きいたのです。
「金魚うりが きた。」と、 いって、 かれは、 すぐに、 家のそとへ
とびでてみました。
こころのうちで まっていた、 きょ年 金魚を かった おじいさんで ありました。
顔を みると おじいさんは にっこり わらいました。
「ぼっちゃん、 きょ年の 金魚は たっしゃですか?」と、 ききました。
おじいさんは、 この子どもが、 よわった 金魚を だいじに そだてようと
いって、 かったことを わすれなかったのです。
「おじいさん、 金魚は、 みんな じょうぶで、 大きく なりましたよ。」と、
少年は こたえました。
「どれ、 どれ、 わたしに みせてください。」と、 いって、
おじいさんは、 やまぶきの 花の さいている にわさきへ まわって、 金魚の はいっている 大きな はちを のぞきました。
「よう、 よう、 大きくなった。」 と、 いって、 おじいさんは よろこびました。
少年は、 おじいさんから、 二ひき 金魚を かいました。 おじいさんは、 べつに 一ぴき いい金魚を くれたのです。
「おじいさん、 また らい年 こっちへ くるの?」と、 わかれる じぶんに 少年は ききました。
「ぼっちゃん、 たっしゃでしたら、 また、 まいりますよ。」 と、おじいさんは、 こたえました。 けれど かならず くるとは いいませんでした。 おじいさんは、 年をとっていたから、 もう こうして あるくのは なんぎとなって、 しずかに、 こきょうの はたけで、 ばらの 花を
つくって くらしたいと おもって いたからで あります。
(おわり)

御来訪ありがとうございます。