文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

赤塚ワールド随一のいじられキャラ ベラマッチャの登場

2021-12-21 19:11:27 | 第6章

本作『レッツラゴン』最大の人気キャラクター・べラマッチャが登場するのは、第三話となる「独立の精神」(71年39号)からである。

ある日、ゴンは、宿題を放り出し、親父と一緒に山にキャンプへと向かう。

道中の山道では、落石に気付いても、素知らぬ顔をして、親父を大石の下敷きにさせたり、親父は親父で川の水で喉を潤すゴンを尻目に、上流に立ち小便をしたりと、二人の鍔迫り合いは、とことんまで続く。

山頂に着いても、親父はテントを張って一人で眠り、ゴンは、樹幹の枝に鳥の巣状の寝床を拵えるという、遊びに行った先でさえも、あくまで別行動に拘る二人だった。

夜、親父のテントに熊が忍び込む。

初めのうちは、熊に襲われる親父の慌てふためきぶりを面白がって見ていたゴンだったが、一〇〇〇円をあげるから助けて欲しいと、命乞いする親父を救うべく、得意の喧嘩術で熊を捩じ伏せ、金太郎宜しく自らの子分として服従させてしまう。

以降、熊は、ゴン一家に草鞋を脱ぎ、同居するようになるものの、人間語が全く喋れないため、謂れのない誤解を招くなど、悲惨な目に遭ってばかりいた。

だが、第一〇話「言葉の学習」(71年46号)で、『もーれつア太郎』を盛り立てたニャロメ、ケムンパス、べしのトリオに言葉を教えたという、仙人然とした髭面の放浪者と遭遇。「赤塚マンガにでていて、話せないと困るだろう。わしが言葉を教えてやる」と言われ、男から日本語のレクチャーを受けることになる。

そして、言葉をマスターした熊は、「タンキューベラマッチャ」など、何を言っても、必ず語尾に「ベラマッチャ」と付ける口癖から、いつしかベラマッチャと名付けられ、赤塚ワールド随一のいじられキャラとして、その存在感を屹立させてゆく。

最初のうちは、ゴンや親父から被虐の対象として扱われ、ゴン達に対し、憤怒の河を渡っていたベラマッチャだったが、次第にマゾヒストとしての性癖がせり上がり、話数を重ねるごとに、苛められることに歓喜する、所謂いじられキャラへと変貌を遂げる。

袋叩きに遭ったり、包丁で手足を切り落とされたり、果ては、首を切断されたり、ライオンの餌にされたりと、目もあてられない仕打ちを受ければ受けるほど、そのキャラクターは生き生きと輝きを増してゆくのだ。

因みに、このベラマッチャが専売特許としていた一発ギャグに、驚いたり、肩透かしを喰らったりした際、目玉を剥いた形相で、両手を挙げ、「アジャパー‼」と叫ぶ、ボディーアクションがある。

『おそ松くん』の「シェー‼」、『もーれつア太郎』の「ニャロメ」、『天才バカボン』の「これでいいのだ」等のフレーズとは異なり、コマーシャリズムとの接点を持ち得なかったものの、この「アジャパー‼」もまた、作中多用され、評判を呼んだ赤塚ワードの一つだ。

「アジャパー‼」は、ベラマッチャ以外の登場人物達も、決め台詞の一つとして、盛んに用いていたが、元々は、往年の人気喜劇役者・伴淳三郎が1952年頃にヒットさせた流行語で、何故、赤塚がこのような忘れ去られたギャグを自作で復活させたのか、その真意は、最後まで語られることはなかった。

ただ、古いギャグとはいえ、『レッツラゴン』連載時、小中学生の間で広く「アジャパー‼」が浸透しており、この「アジャパー‼」などは特に、何の意味合いも含まない言葉ほど、流行語として時の流れを超越する、一つの典型例と言えるだろう。

尚、『レッツラゴン』では、単なる懐古趣味の現れなのか、高勢実乗の「あのね、おっさん、わしゃ、かなわんよ」や、花菱アチャコの「もうムチャクチャでござりまする」といった往昔の流行語も、ギャグの一つとして、登場人物達に語らせており、日本の喜劇映画史を知る向きが、思わずほくそ笑むようなパロディーも、その後「アジャパー‼」に付随して描かれるようになった。


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