木全賢のデザイン相談室

デザインコンサルタント木全賢(きまたけん)のブログ

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常に勉強/大里化工

2006年08月22日 | デザイナーとの付き合い方(相談室)

<写真> 谷重樹さんとオリジナル商品


◆「常に勉強」(有)大里化工
36:【デザイン相談室】インタビュー02


 こんにちは!「工業デザイン相談室」木全(キマタ)です。デザイナーの実像・デザイナーとの付合い方・デザイナーとのトラブル回避法など書いていきます。御相談がありましたら、コメントをくださいね。

 記事の目次
 デザイン相談室の目次    デザインの考え方と運用について
 デザインのコツ・ツボの目次 商品企画とデザインワークについて
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身近なデザイン導入事例

 すみだ中小企業センターでの「デザイン導入セミナー」準備の第3回目です。

 導入セミナーですので、やはり、導入事例報告があったほうが、説得力があります。でも、大企業の大成功の事例を報告しても、「そんな凄い話は自分達には関係ないさ」と、中小企業の方の琴線には触れないだろうということで、身近な墨田区の企業のデザイン導入事例を紹介することになりました。

 2つの会社にお伺いして、インタビューをしてきました。インタビューは次のような点を中心にさせていただきました。

1)御社の物語
2)商品を開発した経緯
3)デザイン導入のきっかけ
4)販路をどのように開拓したのか?
5)新規事業を始めた効果は?(社内的・社外的)
6)今後どのような展開を考えているのか?
7)あなたにとってデザインとは?


玩具業界から家電業界に

 楓岡ばね工業(有)さんに続いて、有限会社大里化工さんにお伺いして、開発部の谷重樹さんにインタビューをしてきました。

 (有)大里化工は、昭和33年に谷和雄社長のお義父さんが創業したプラスティック射出成形メーカーです。インタビューに答えてくださった谷重樹さんは、谷和雄社長のご子息です。

圧空成形機を導入して創業した大里化工は、プラスティック射出成形に乗り出し、昭和40~50年代には、海外向けのプラスティック玩具の部品生産で成長しました。しかし、中国の進出で昭和60年頃から売上が落ち始めたため、玩具業界から家電業界に転進。家電業界は、数量が少ない割りに技術水準が高く、参入には苦労したが、その分、小ロットで精度の高い射出成形生産のノウハウを獲得して行ったそうです。

 中国の影響で、売上が落ちたのはよくある話なのですが、そこで、あきらめず果敢に玩具業界から家電業界に転進し、そこで蓄積したノウハウと自信が、現在の大里化工の新規事業に結びついています。


東京都新商品支援開発事業応募が転機に

 谷社長は昭和62年から異業種交流会に参加していたのですが、平成12年に東京都新商品支援開発事業に企画を応募したところ、企画が採用され、都の支援を受け「パソコンコードの収納ケース」を2年以上かけて開発販売した経験を通して、デザインと出会ったそうです。

 「パソコンコードの収納ケース」は、デザインに半年、開発に半年、販売に2年かかり、最初の半年間に、開発をデザイナーと共同で行なって、デザイナーの実務にふれ、谷さんは新しい知見を得ました。デザイナーは、図面を引くだけが仕事だと思っていたのが、開発アイテムの収納ケースだけではなく、パソコン周辺機器の市場動向の調査や他社調査から始まり、コンセプトの立案など、デザイン実務の実際に触れて、デザイナーの広範な役割を再認識したそうです。

 次の半年の商品開発は、谷社長と重樹さんが二人で設計開発を進め、開発自体は順調に進んだそうですが、その後の営業は、大変だったそうです。今でこそ「パソコンコードの収納ケース」は東急ハンズで売られているのですが、ほぼ、2年間かけても、あまり多くの売り先は見つからなかったそうで、販路開拓の苦労がしのばれます。

 しかし、そこで「商品は、デザインで頑張ろうが開発で頑張ろうが、売れないと意味がない」ことを実感したそうです。

 その後、平成14年に東京都中小企業振興公社城東支社の「ものづくりデザイン道場」に参加し、デザインとマーケティングについて学んだことが、今でも役に立っている。特にマーケティングの考え方には教えられることが多かったそうです。


開発コンサルタント

 その後、自社開発は少しお休みにして、平成16年に、家電メーカーとの付き合いで培った技術を元に、「商品開発のお手伝いサイト ゼロからわかるプラスティック」を立ち上げて、商品開発コンサルタントを始めました。それ以来、個人やメーカーに対して商品開発のサポート業務を行い、設計から金型開発までのコンサルタントをしているそうです。

 その中で、面白かったのが、テレビ番組「日産ニューデザインパラダイス」の試作のお手伝いをしたこと。試作の依頼は図面だけでなく、デザイナーが打合せに来て、デザインコンセプトを丁寧に解説してくれたことが、大変印象に残っている。デザインコンセプトが分かると試作作りの際にも迷いがなく、良いものができることを実感し、デザインコンセプトの大切さを認識したそうです。

 商品開発コンサルタントの仕事を通して、人脈が広がり、社外に対して自信ができ、「射出成形の谷」よりは「商品開発コンサルタントの谷」と呼ばれることがうれしいと谷さんは言います。

 メイン業務は本業の射出成形業と開発コンサルタントだが、今年になって自社開発を再開し、谷さん本人がアップル社のiPodを好きだったのでiPod専用の金属製とプラスティック製のケースを自社開発して販売している。これは、大々的に販売すると言うよりは、手作り的な感覚で、お客様とのコミュニケーションを楽しみながら、試行錯誤を重ねていきたいと考えているそうです。


常に勉強

 谷さんは、家電メーカーとの付き合いで技術を磨き、新商品支援開発事業で販路開発の難しさを知り、「ものづくりデザイン道場」でマーケティングの大切さを学び、開発コンサルタント業務での「日産デザインパラダイス」との付き合いで、デザインコンセプトも大切さを学んだ。

 自らアクションを起こして様々な経験を積み、それらをすべて実践で吸収していく谷さんの姿勢に、私は感銘を受けました。谷さんはこれからも、射出成形業は当然、開発コンサルタントも自社商品開発も、すべて自分の力で進めていこうと考えています。

 これからも、常に勉強。デザインの大切さを理解したので、今まで全く興味のなかった美術展に行き、デザイン系のテレビ番組も積極的に見て、情報を収集し、デザイン感覚を磨く努力をするようになったそうです。

 アップルコンピュータ社の社長スティーブン=ジョブスを尊敬していると言う谷さん。アップル社の商品は、コンセプトがしっかりしているから素晴らしいのだと看破しています。その通りです。

 アップル社も最初は小さなガレージメーカーでした。このような人材がきっと明日の日本の製造業を担っていくのだろうと私は期待しています。


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