<JR鎌倉駅 階段とエスカレータとエレベータ>
◆ユニバーサルデザインとは(2)
【回答】その9
こんにちは!「工業デザイン相談室」の木全(キマタ)です。デザイナーの実像・デザイナーとの付合い方・デザイナーとのトラブル回避法など書いていきます。御相談がありましたら、コメントをくださいね。
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記事の目次
デザイン相談室の目次 デザインの考え方と運用について
デザインのコツ・ツボの目次 商品企画とデザインワークについて
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■バリアフリーとユニバーサルデザイン
1月末に某福祉大学の笹山さんから、ユニバーサルデザインについてご質問をいただきました。前回、「ユニバーサルデザインとは(1)」で、人間の幸福の基本的な条件とは選択肢の多さであり、その問題を解決しようとしているのが、ユニバーサルデザインだという話をしました。
しかし、そのような考え方は、まだあまり一般化していないように思われます。身障者のためのデザインだとか、新しい使いやすさのデザインだととらえられているようですが、そういうものではありません。
バリアフリーから派生してきたようにとらえられているためにそのような混乱があるのかもしれません。
バリアフリーは車椅子の移動に関する用語です。それ以上の概念にしようという動きもありましたが、それはうまくいきませんでした。バリアフリーは車椅子でも快適に都市生活が営めるようにしようという建築に係る法整備の中から出てきた概念です。
それに対して、ユニバーサルデザインは、健常者や身体障害者という枠を超えて、誰にでも使いやすい製品や施設や環境を目指そうというデザイン運動です。提唱者であった工業デザイナーのロン・メイスがポリオを患い、車椅子を使っていたためにイメージとして、バリアフリーとユニバーサルデザインが混同されていた側面もあります。しかし、そうは言いながら、メイスが身体障害者であったことは、ユニバーサルデザインの浸透に大きな効果がありました。
■あきらめず、少しずつでも選択肢を増やす
では、誰でも使いやすい製品や施設や環境とはどういうことか。例えば、最近の駅には、バリアフリー法により、エスカレータとエレベータが整備されてきていますが、これはユニバーサルデザインの好例です。
車椅子ならエレベータがなければ、プラットホームに上がることができません。健常者にも身体障害者にも使えるという観点からみると、エレベータだけで十分です。怪我をして一時的に松葉杖をついている人、臨月間近の妊婦、海外旅行から帰ってお土産の詰まった重い旅行鞄を抱えたOLにとっても、エレベータは有難い存在です。
しかし、エレベータだけでは輸送量が限られるため、通勤時間には階段が必要ですし、地震などの緊急時に対応できるのは階段だけです。階段を上り下りするのは辛いけれど、少し急いでいる高齢者にとっては、エスカレータが便利です。
階段、エスカレータ、エレベータにはそれぞれの良さがあります。どれか一つに全ての機能を持たせるのではなく、健常者・高齢者・身障者を問わず、なるべく多くの人たちのそれぞれの状況に応えるように、なるべく多くの選択肢を用意すること。障害だけではなく、ひとりひとりの人間もゆりかごから棺桶まで様々な状況に直面します。そういう様々な場面で何が必要で何が必要でないか、要求の度合いはそれこそ多種多様です。
繰り返しになりますが、ユニバーサルデザインとは、それらの多種多様な要求にできる限り答えられるように、できる限り選択肢を増やそうという運動なのです。
しかし、すべての人のすべての状況において、常に満足のいく商品や施設や環境を整備することは大変難しいことです。しかし、それでもあきらめずに、少しずつでも選択肢を増やしていくこと、それがユニバーサルデザインの思想です。
従って、ユニバーサルデザインは、一つの商品で全ての要望に応えようというものではありません。階段、エスカレータ、エレベータにそれぞれの良さがあるように、一つ一つの製品においては、特定のユーザーの特定の状況での要望に、しっかりと応えてゆくことが大切になってきます。
■すべての人が豊かな人間関係を築くために
このあたりが理解しにくい部分なのですが、身障者向けだからとか、使いやすいからユニバーサルデザインというわけではありません。
「ユニバーサルデザイン」という言葉が良くないのかもしれません。「モダンデザイン」は、製品の色や形の問題を扱っているため、ある製品を見てその製品が「モダンデザイン」であるかどうか、判定することができますが、「ユニバーサルデザイン」は選択肢を増やそうという運動なので、ある一つの製品をとって「ユニバーサルデザイン」かどうか判定することがとても難しくなっています。
エレベータだけ取り上げれば、バリアフリーではあってもユニバーサルデザインではありません。施設の中に階段、エスカレータ、エレベータという選択肢を用意することがユニバーサルデザインなのです。
そうすることで、健常者も身障者も、お互いに気兼ねすることなく同じように駅を利用することができ、より豊かな人間関係を築くことができるようになります。それは、幸福な光景になるはずです。
その考え方を進めれば、電気を使わなくてもエレベータと同じくらい快適に上下移動できる製品を作ろうというように、新たに有益な選択肢を増やそうと努力することがユニバーサルデザインだと言うことができます。
健常者も身障者もひっくるめて、すべての人が、お互いに気兼ねすることなく幸福に暮らすために、どのような選択肢が必要なのかという基準を明確に示すことができたとき、ユニバーサルデザインが生活に定着するのだと思います。
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【回答】その9
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■バリアフリーとユニバーサルデザイン
1月末に某福祉大学の笹山さんから、ユニバーサルデザインについてご質問をいただきました。前回、「ユニバーサルデザインとは(1)」で、人間の幸福の基本的な条件とは選択肢の多さであり、その問題を解決しようとしているのが、ユニバーサルデザインだという話をしました。
しかし、そのような考え方は、まだあまり一般化していないように思われます。身障者のためのデザインだとか、新しい使いやすさのデザインだととらえられているようですが、そういうものではありません。
バリアフリーから派生してきたようにとらえられているためにそのような混乱があるのかもしれません。
バリアフリーは車椅子の移動に関する用語です。それ以上の概念にしようという動きもありましたが、それはうまくいきませんでした。バリアフリーは車椅子でも快適に都市生活が営めるようにしようという建築に係る法整備の中から出てきた概念です。
それに対して、ユニバーサルデザインは、健常者や身体障害者という枠を超えて、誰にでも使いやすい製品や施設や環境を目指そうというデザイン運動です。提唱者であった工業デザイナーのロン・メイスがポリオを患い、車椅子を使っていたためにイメージとして、バリアフリーとユニバーサルデザインが混同されていた側面もあります。しかし、そうは言いながら、メイスが身体障害者であったことは、ユニバーサルデザインの浸透に大きな効果がありました。
■あきらめず、少しずつでも選択肢を増やす
では、誰でも使いやすい製品や施設や環境とはどういうことか。例えば、最近の駅には、バリアフリー法により、エスカレータとエレベータが整備されてきていますが、これはユニバーサルデザインの好例です。
車椅子ならエレベータがなければ、プラットホームに上がることができません。健常者にも身体障害者にも使えるという観点からみると、エレベータだけで十分です。怪我をして一時的に松葉杖をついている人、臨月間近の妊婦、海外旅行から帰ってお土産の詰まった重い旅行鞄を抱えたOLにとっても、エレベータは有難い存在です。
しかし、エレベータだけでは輸送量が限られるため、通勤時間には階段が必要ですし、地震などの緊急時に対応できるのは階段だけです。階段を上り下りするのは辛いけれど、少し急いでいる高齢者にとっては、エスカレータが便利です。
階段、エスカレータ、エレベータにはそれぞれの良さがあります。どれか一つに全ての機能を持たせるのではなく、健常者・高齢者・身障者を問わず、なるべく多くの人たちのそれぞれの状況に応えるように、なるべく多くの選択肢を用意すること。障害だけではなく、ひとりひとりの人間もゆりかごから棺桶まで様々な状況に直面します。そういう様々な場面で何が必要で何が必要でないか、要求の度合いはそれこそ多種多様です。
繰り返しになりますが、ユニバーサルデザインとは、それらの多種多様な要求にできる限り答えられるように、できる限り選択肢を増やそうという運動なのです。
しかし、すべての人のすべての状況において、常に満足のいく商品や施設や環境を整備することは大変難しいことです。しかし、それでもあきらめずに、少しずつでも選択肢を増やしていくこと、それがユニバーサルデザインの思想です。
従って、ユニバーサルデザインは、一つの商品で全ての要望に応えようというものではありません。階段、エスカレータ、エレベータにそれぞれの良さがあるように、一つ一つの製品においては、特定のユーザーの特定の状況での要望に、しっかりと応えてゆくことが大切になってきます。
■すべての人が豊かな人間関係を築くために
このあたりが理解しにくい部分なのですが、身障者向けだからとか、使いやすいからユニバーサルデザインというわけではありません。
「ユニバーサルデザイン」という言葉が良くないのかもしれません。「モダンデザイン」は、製品の色や形の問題を扱っているため、ある製品を見てその製品が「モダンデザイン」であるかどうか、判定することができますが、「ユニバーサルデザイン」は選択肢を増やそうという運動なので、ある一つの製品をとって「ユニバーサルデザイン」かどうか判定することがとても難しくなっています。
エレベータだけ取り上げれば、バリアフリーではあってもユニバーサルデザインではありません。施設の中に階段、エスカレータ、エレベータという選択肢を用意することがユニバーサルデザインなのです。
そうすることで、健常者も身障者も、お互いに気兼ねすることなく同じように駅を利用することができ、より豊かな人間関係を築くことができるようになります。それは、幸福な光景になるはずです。
その考え方を進めれば、電気を使わなくてもエレベータと同じくらい快適に上下移動できる製品を作ろうというように、新たに有益な選択肢を増やそうと努力することがユニバーサルデザインだと言うことができます。
健常者も身障者もひっくるめて、すべての人が、お互いに気兼ねすることなく幸福に暮らすために、どのような選択肢が必要なのかという基準を明確に示すことができたとき、ユニバーサルデザインが生活に定着するのだと思います。
新書「デザインにひそむ<美しさ>の法則」 好評発売中
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私も人に説明するときに使わせてもらいます。行政の企画者がグランドデザインとかユニバサールデザインを語る時に、いつも、意味が住民に伝わってるのか不安になりますが、
一般人はデザインのミニマムのイメージの方を、思い浮かぶし、行政は、分かり易い具体例の説明能力がないしネ。
ただし私の開発中のユニバーサル料理の開発は、より難しくなったヨ!考えたケド、間違いのようだ。
考えたのは、大人も満足させるお子様ランチ!それじゃユニバーサルスタジオジャパンだ(笑)
コメント感謝です。
行政の方の理解というのは大切ですね。
デザインにしろ、ユニバーサルデザインにしろ、どうもお役所の好きな玉虫色のテーマになってしまう場合があって、ちゃんと内容を理解しているのかと思うことも間々あります。
是非、説明の際にお使いください。
「大人を満足させるお子様ランチ」はユニバーサルデザインではないかも。。。。やっぱり、選択肢の多さですかね。甘さや辛さを調整できるとか、香辛料が選べるとか。USJ料理も食べてみたいけど(笑)。
では!
でも満足する結論は出ません…。
コメントもなんと書こうか考えました。笑
しかし、悩む事考える事をすることは楽しいと改めて感じています。
バリアフリー、UD、私自身もまだまだ発展途上です。だからこそ、惹かれるし、やり甲斐も感じられるのだと思います…。
またまたコメント感謝です。
「悩むこと考えることは楽しい」というのは、本当にその通りだと思います。昔のコマーシャルに「みんな悩んで大きくなった」というのがあったような。
学生時代こそ、いろいろ悩んだり考えたりできる貴重な時間だと思います。そして、じっと考えるだけじゃなくて、動きながら考えるともっといいと思います。
私は、悩んだときは、人に迷惑のかからないことであれば「やらない後悔より、やった後悔」のほうが、後でいい思い出になるというか、糧になると考えています。
それと、自分ひとりでできることも限られるので、迷惑がかからないなら、なるべく多くの人を巻き込んでしまったほうが、楽しいですね。
何か疑問がありましたら、いつでもコメントください。
木全賢 拝