スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

予習:対YKK AP戦@栃木SC通信

2007-05-12 09:48:36 | 栃木SC
ドリブルで突っかけてFKを、ライン際で粘りCKを獲得。確実にラインを割るボールをも追っ掛けた。露骨な時間稼ぎをさせないようにボールを自ら拾ってはゴールキックを促がした。途中投入の意味を理解し、誰よりも貪欲にゴールを目指した。あの渇望と闘志。忘れられない。@ロッソ熊本戦


YKK陣内、右サイドから只木がスローインを投げ入れる。西川は懸命にボールを追い、体勢を崩しながらもクロスを上げた。これをニアサイドで吉田賢太郎がボレーシュート。綺麗なカタチでのゴールかに思われたが、GK中川に間一髪でシュートを弾き出された。ルーズボールは左サイドへ転がっていった。

そこへ、背番号5をつけた黄色いユニホームが猛然と迫る。無人のスペースへと走り込んだ種倉は、ゴール上段へネットを突き破らんばかりの勢いでシュートを決めた。いままで欠場した試合ぶんの気持ちをボールに叩きつけた。

リズムが一定しない試合での貴重な先制点、大量3ゴールの口火、悪夢の2連敗から脱出、長期離脱を経てのゴール、と様々な意味が込められた価値のある一発だった。

11試合ぶりに怪我から戦線に復帰した種倉は、感情を爆発させるでもなく、ニヒルな笑みを浮かべながら、抑えたトーンでゴールシーンを振り返った。

こぼれ球が眼前に転がってきた。ボールをミートする際に、2つのことが種倉の頭を過ぎった。走馬灯のように。

ひとつは、「昨年、ホームのYKK戦で決定的なヘディングシュートを外したこと」。

もうひとつは、「11試合欠場したこと」。

確かに種倉は昨シーズンの対YKK戦の前半に、若林(現・大宮アルディージャ)が上げたクロスを枠外へと飛ばしていた。流れが悪い状況で巡ってきた千載一遇の好機だった。それだけに、決めていればその後、立て続けに失点を喫し、1―2で試合を落とすことにはならなかったのかもしれない。

1年前の出来事を記憶しているということは、よほど悔しかったに違いない。でも、同じ轍は踏まなかった。今シーズンは酷似した場面でヘディングではないが、しっかりと足で試合の流れを引き寄せた。

あのゴールは単なる先制ゴールではなかった。種倉の1年越しの思いが詰まっていたゴールだったのだ。

「治りが遅くて・・・チームが上手くいっている時、悪かった時に貢献できずにいたことが辛かった」

4月に痛めた足の怪我は思いの外、重かった。しばらくはボールを蹴れない日々が続いた。その間、レギュラーを張っていたボランチのポジションには、若手の菊池と久保田が台頭してきた。焦らないはずはない。

しかし、はやる気持ちを抑えながら種倉は慎重にリハビリを推し進めた。先ずはボールを蹴れるようになること。それを目標に黙々とトレーニングを積んだ。第一段階をクリアーした後は、紅白戦で忘れかけていた感覚を思い出すように動き、ボールをさばいた。じっくりと。それはちょうど6月の頭の頃だった。

戦列に加わる日は、そう遠くはない。練習風景を眺めながら思った。ところが、なかなかレギュラーはおろか、ベンチに座ることもなかった。再発したのか。嫌な予感がした。

だが、チームが窮地に立たされたところでベテランは戻ってきた。

「ポジション的にサイド(左ワイド)はいままでやっていたので不安はなかった」。その言葉通り対面の選手の上がりを抑止しながら「攻撃好き」を自認する種倉は機を見てはゴール前に顔を出した。

「足の面に不安はあった」とはいうものの、そんなことを微塵も感じさせない鋭い切り返しからクロスを供給した。さらにゴールまで決めた。「コーチから前半だけの指示があった」ことから後半はポジションを高秀に譲ったが、45分だけで存在感を示した。

大事なところで与えられた仕事をこなす。「職人」種倉の持ち味がいかんなく発揮されていた。

ただし、それは奪われたボランチでのことではなかった。

超新星・久保田勲の話題を振ると種倉は「刺激になっている。いい選手。競争をしてポジションを奪い返す」と語気を若干ながら強めた。易々と世代交代を受け入れる気はないようだ。

「バランスを大切にね」

ボランチを務める時のプライオリティは、との問いに対して柔和なトーンに戻した種倉が出した答えだ。

「年齢と共にプレイスタイルも変わってきたからね」

ガンガン攻撃参加をして先輩選手に怒られた昔話を懐かしむように話してくれた種倉。次は出場時間を延ばすこと、その先にはやはりボランチでのレギュラー奪取を見据えていることだろう。

百戦錬磨のベテラン選手がメンバー、戦い方に閉塞感が漂っていたチームのカンフル剤となってくれることを期待したい。


衝撃的な対ロッソ熊本戦での惨事で「凹んだ」(西川)栃木SCは、敗戦を引き摺ることなく「雰囲気は良かった」(西川)とは言うものの対アローズ北陸戦も逆転で落とした。屈辱的な2連敗。

前期首位ターン、天皇杯シード権獲得は困難となってしまったが、最終目標である優勝を成し遂げるには3連敗は許されない。背水の陣で首位に立つYKKをホームのグリーンスタジアムで迎え撃った。

スタメンに種倉の名があった。本来のボランチでの出場ではないが、左ワイドで先発することとなった。苦境の最中ベテランの存在は小さくない。頼もしい男が帰ってきた。

必勝を期す栃木SCの陣容はGK原、DF照井、横山、山崎、ボランチ堀田、久保田、右ワイド只木、2シャドー佐野、西川、ワントップ吉田賢太郎だった。システムは3―6―1。

首位からなかなか陥落しないYKKは3―4―3と攻撃的なシステムで臨んだ。3トップの一角には得点ランキング上位に位置する岸田が入った。

その岸田がいきなり栃木SCゴールに襲い掛かった。ゴールキックをバウンドさせてしまった栃木SC3バックの隙を突きシュート。枠を外れるが鋭い動きを早速、披露した。

レッドカード欠場明けの照井が長谷川に尽く空中戦で屈した栃木SCは、守備からリズムを作り出せなかった。背後を狙われるボールを多発される。ハイボールの処理は覚束無かった。連敗、負けられない一戦の重圧からくる硬さがあった。

素早いプレスと、DFリーダー濱野が統率する相手3バックにも手を焼く。サイドにボールを運んでも、すぐに囲まれては潰された。前線と最後尾をコンパクトに保ったYKKは、背後を取らせないよう、カウンターを打たせないようにと絶妙なポジショニングで守備を固めた。

YKKの良質な守備に苦しみ、縦ポンサッカーに陥った栃木SCは佐野がゴールに迫るも散発的だった。意図を持った攻撃ができなかった。

ところが、今年の栃木SCは悪い流れの中でもゴールを奪えてしまう強みがある。

只木のスローインから西川がクロスを上げ、吉田賢太郎のボレーシュートはGK中川に阻止されるも、ルーズボールを種倉が蹴り込んだ。リスタートから先制に成功する。

その後は両者ともにゴール前でのシーンが増える。YKKは岸田、長谷川、濱野が、栃木SCは西川、吉田賢太郎、堀田が好機に絡んだ。YKKは只木の気迫のこもったスライディングにGK原の渾身のセーブによりゴールを割れず。栃木SCは力んでしまい逸機する。

GK原のファインセーブ連発で前半を締めた栃木SCは、守護神の奮闘に報いるべく後半の立ち上がりに追加点を得る。

右サイドを駆け上がった吉田賢太郎のグラウンダーのクロスを、DFがスライディングでクリアーにかかるがタイミングが合わなかった。ファーサイドへとボールは流れ、詰めていた佐野がプッシュ。泥臭い「佐野ゴール」で栃木SCがリードを広げる。

DFラインが相手の攻撃を警戒して引き過ぎた嫌いはあったが、ハーフタイムに「球際を激しく」と高橋監督から檄を飛ばされた選手達は、競り負けていた前半とは打って変わりボールに対する食いつきが良くなる。特に久保田の要所、要所での守備は光った。

背負った借金2を返済しようとYKKは前掛かりになる。セカンドボールを拾っては直ぐにトップにパスを預けた。セットプレイからの攻撃には迫力があった。

手綱を持って行かれそうになった栃木SC。アクシデントに見舞われる。後半の頭から入った高秀が膝を負傷して約20分でピッチを去ることに。代わりに片野が投入される。

不穏な空気がスタジアムを包むが、「いつでも行けるように準備はできていた。気負いや焦りはなかった」片野が雰囲気を一変させる。

佐野のポストプレイから抜け出し、GK中川が中途半端なポジションを取ったところを見逃さずに、「柄にもなく落ち着いていた」と狙い済ましてニアサイドを緩いゴロで破った。シュートは威力ではなくコース。ボールボーイ達にレッスンするかのような駄目押しの3点目だった。

これで勝負あり。余裕の栃木SCは加入時期が同じながら久保田に先を越された金子をピッチに送り出す。金子のパフォーマンスは正直、物足りなかった。右往左往が目立ち、試合感に乏しかった。これからコンディションを上げてもらいたい。「ツヨシ」コールに応えられる日が近いことを祈るばかりだ。

「バラバラですね」。楚輪監督が諦観するように会見で語った。YKKの攻撃は停滞した。堤を前線に上げてパワープレイに出るも実を結ばなかった。最後の最後で一矢報いようと大西が放ったミドルシュートもGK原に防がれてしまった。

無失点、3ゴールと完勝した栃木SCに歓喜の瞬間が3週間ぶりにやってきた。連敗を脱出した要因は多々あるのだろうが、一等大きかったのはメンタル面だろう。縮こまっていた前半を乗り切り、監督の喝で後半は吹っ切れた。

勝因を聞かれた高橋監督は即座に応えた。「(連敗時と)気持ちが違っていた」と。

JFL前期第16節 栃木SC3―0YKK AP 栃木県グリーンスタジアム 観衆2135名

〈栃木SC〉GK原、DF山崎、横山、照井、MF堀田、久保田、只木、種倉(→高秀)(→片野)、西川、佐野(→金子)、FW吉田賢太郎

〈YKK AP〉GK中川、DF堤、濱野、小田切、MF星出(→朝日)、景山、黄、牛鼻(→原)、FW岸田、長谷川、大西


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