スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

気持ちが感じられない。力み、息切れ。敗戦~栃木SC通信~

2005-03-28 00:52:29 | 栃木SC
〈栃木SC〉GK原、DF山崎、遠藤、横山、MF堀田、只木、種倉(→吉見)、松本、FW吉田(→稲若)、若林、佐野(→高秀)

〈佐川印刷SC〉GK斎藤、DF山本、葛野、松岡、MF岸田(→伊藤)、大杉(→東)、堀池(→安部)、上田、大槻、FW石田、町中

幕開けに相応しかった。
 
選手入場のアナウンスと同時に、メインスタンドに紙ふぶきが舞う。サポーターが用意した新たなるスタートへ際しての、激励の意味を込めた粋な計らい。陽気な春の日差しに、栃木SCのチームカーラーである黄色は見事に映えた。大袈裟ではない。スタジアムが一瞬、幻想的な雰囲気に包まれた。
 
JFL参加6年目にしてようやくJ参入を表明し、検討プロジェクトを立ち上げると宣言した今シーズン。是が非でもホーム開幕戦を勝利で飾り、JFL随一と謳われている熱烈なサポーターと、詰め掛けた1,000人を超す観衆の期待に応え、ロケットスタートを切りたいところ。
 
3―4―3の攻撃的なシステムは、昨シーズンから不変だった。ただし、3バックの中央と、3トップの左にはそれぞれ今シーズンから栃木の選手となった山崎(前SC鳥取)、吉田(前水戸ホーリーホック)が入った。
 
開幕戦の相手である佐川印刷SCには、ちょうど数ヶ月前まで栃木SCに在籍していた岸田茂樹が、3―5―2のボランチとして先発に名を連ねた。もちろん栃木サポーターからは、心のこもった温かなブーングが送られた。
 
序盤から栃木は、前線から果敢にプレスを仕掛けた。トップが早めに相手をチェイスすることで、中盤の選手がパスコースを限定することが可能となり、チームが連動して追い込みをかけられた。

また、相手と対峙しボディコンタクトを受けても、栃木の選手は競り負けなかった。球際での強さを発揮し、ボールを次々と掻っ攫う。高い位置でボールを奪取した後は、マイボールをとにかく縦に素早く供給した。

開始2分には右サイド松本のクロスから只木がシュートを放ち、4分には若林が自らドリブルで持ち込んでシュートするまでに至った。どちらとも切っ掛けは、インターセプトからだった。

そして、若林の単独ドリブルから得たCKが先制点を呼び込む。ファーサイドにボールはいったん流れるが、松本が拾いワンドリブル入れてから左足一閃。シュートは逆サイドネットに突き刺さった。

前半早々、5分の出来事だった。

シュートで攻撃を完結させる。言葉にすれば簡単だが、ゴール前にボールを運んでも、なかなか打ちきれない場面が多かった栃木。今までにないの貪欲さが、実を結んだ。

12分にFKから佐川印刷の石田に背後を突かれるも、GK原が間合いを詰めてのパンチングで事無きを得ると、主導権は完全に栃木が握った。

3トップが頻繁にポジションチェンジを行い、DFの背後を強かに伺った。特に立ち上がりから佐川印刷の右サイドと火花を散らし、サイドのイニシアチブをかけた綱引きを吉田が制したことで、栃木は左サイドを起点に攻撃を組み立てることができた。劣勢に回った佐川印刷は、苦し紛れのロングボールを前線に放り込むしか術がなかった。栃木の一方的な展開で試合は進む。

しかし、前半30分過ぎから飛ばし過ぎたのか、栃木はやや攻め疲れペースダウン。吉田の左サイドからの突破も鳴りを潜める。32分に中央の堀田から右の松本へ繋ぎ、クラウンダーのクロスに佐野がフリーで飛び込む、シュートはバーを超えた。追加点の絶好機を逸する。運にも見放され始めると、雲行きは段々と怪しくなり、流れは佐川印刷へと傾く。

FKから大杉が、大槻のスルーパスから石田が、立て続けに栃木ゴールを脅かした。ついに前半37分、試合を振り出しに戻されてしまう。右FKからDFの前へ巧みに身体を滑り込ませた山本が、ヘディングでゴールを割った。

更に、その5分後にはCKからPエリア内の混戦で堀田が、佐川印刷の選手を倒したとしてPKの宣告がなされる。必死の抗議も虚しく、判定は覆らない。

GK原は両手を目一杯に広げ圧力をかけ、サポーターも一斉に大ブーングをキッカーの大槻に浴びせかける。そのプレッシャーに負けた大槻は、ゴール右へとPKを外してしまう。頭を抱える大槻、大歓声に沸く栃木応援席。

栃木は前半終了間際のピンチを切り抜け、ハーフタイムを迎えた。

後半キックオフ直前、森山真弓(元法相)栃木県サッカー協会会長が観衆へ謝辞を述べ、選手達には激を飛ばした。

前半の終盤に失った流れは、易々と取り戻せるものではなかった。栃木はボールが落ち付かない。波に乗りきれずに、相変らずリズムは佐川印刷のものだった。

トップ下の大槻が前半のPKの失敗を忘れたかのように、運動量を増加させ、ボールを後方から誘引しては、的確にさばいた。オーバーラップした松岡のシュートを導き出した直後には、ルーズボールを拾って自らシュートを打った。

大槻とは対称的に、運動量が目に見えて落ちた栃木は足が止まった。ガス欠だ。棒立ち状態に陥り、球際での激しさも影を潜める。「球際激しく」と吉田は声を荒げたが、それは恐らく自分に対するものだったのだろう。チームでもっともボールを奪われていたのは彼だったからだ。

栃木は自然とプレスの効力が弱まり、マークに付ききれなくなった。佐川印刷はそこへ突け込み、前半のお返しとばかりに右サイドを起点に、大槻がタクトを揮い攻撃を仕掛けて来た。サイドハーフはDFラインに吸収され、後手、後手に栃木は回る。

そこで後半20分過ぎ、定刻通りに高橋監督はスーパーサブの高秀賢史をピッチへと送り出す。一気に悪い流れを改善し、自分達の元へ流れを引き寄せる算段だ。高秀は挨拶代わりに右サイドからクロスを上げ、順調な滑り出しをみせる。すんなりと試合に入り込んだ。スーパーサブとしての境地を切り開いた、昨シーズンの経験が活かされていた。

後半23分には相手陣ゴール前でインターセプトし、高速ドリブルで2人を置き去りに。あとはGKただ一人だけ。フェイントをかけて抜きにかかった――が、敢え無くGKが倒れ込みながら伸ばした手に阻まれる。

高秀に負けていられないと後半に入り存在感が薄れていた吉田が、渾身のボレーシュートを放ったが、惜しくも枠を反れる。

ベンチの目論み通りに高秀は、仕事を遂行した。ただし、ネットは揺らせず、勢いも10分弱しか持たなかった。

これは高秀だけのせいではない。中盤が悪かった。先ず細かく、細かく、パスを回すことに終始し、サイドチェンジを使った大きな展開に乏しかった。次に押し込まれていたこともあり、トップにボールを当てても、ビルドアップが遅れ、フォローに行けなかった。また、攻撃の起点である堀田がターゲットにされた。栃木を熟知している岸田に狙われた。堀田にボールが渡ると、複数で囲み挟み込んだ。

決勝点となるPKも堀田のところでボールを奪われことが直接の原因だった。Pエリア内で山崎が町中を倒してしまったプレーの判定は微妙だった。いや主審の判定は甚だ疑問が残るものだったが、堀田が狙い撃ちにされていることに気が付き、球離れを早くしていれば、周囲がフォローしていれば、防げていた失点でもあった。

後半33分、町中がPKを冷静に左隅へ沈め、佐川印刷が逆転に成功する。

限られた時間の中で最低でも同点、或いは逆転しなくてはならなくなった栃木は、吉田を下げてDF登録の高さに長ける稲若を前線へ配置し、パワーを敢行した。だが、全く効果なし。逆にカウンターを食らい、傷口を広げるところだった。珍しく高橋監督は高秀、吉見、稲若と3枚のカードを全て使い果たしたが、それも水泡に帰した。

「J参入」を公言し、後には引けなくなったシーズンの開幕戦を逆転負けで落とした。手痛い黒星発進となった。

新加入の吉田は、さすがは元J戦士と思わせる攻守の活躍でチームを牽引した。前半だけだったが・・・継続性が欲しい。同じく山崎も1対1の強さを披露したがラインコントロールには難があった、やはり横山を中央へ戻し、山崎の良さを存分に活かすにはストッパーが適任だろう。

主審の曖昧なジャッジは確かに腹ただしく、観るに耐えがたかったが、それで集中力を切らし、プレーに影響を及ぼしているようではJは遥か彼方だ。失点を喫してから、なんとしてでも、泥臭くてもいからとにかくゴールを奪ってやる、そのような意気込み、気迫が全くピッチから伝わってこなかったのが、やりきれなかった。

スマートに構えてどうする。本当に勝負の年ならば、形振り構わずに気持ちを全面に押し出して、プレーしなければならいのではないか。もっと、もっと、熱くなれ。でなければ、伝わるものも伝わらない。負けてスタジアムに散らばった紙ふぶきを回収することほど、惨めなものはない。

とにかく、ハート。気持ちを見せてくれ。

JFL開幕戦 栃木SC1―2佐川印刷SC 栃木グリーンスタジアム 観衆1117人

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