deep forest

しはんの自伝的な私小説世界です。
生まれてからこれまでの営みをオモシロおかしく備忘しとこう、という試み。

107・親友

2019-04-15 09:14:40 | Weblog
 春は粉塵、ふわふわ白くなりゆく道ぎわ、少し積もりて、紫だちたるちりボコの細くたなびきたる・・・なんて美しい光景じゃなく、金沢の春は砂ぼこりにまみれる。オレは3年生になった。
 ラグビー部では、生涯のつき合いをしたいと思える仲間が何人もできた。同級生の、成田、オータ、マッタニの三人は、親友と言っていい。
 この年にキャプテンに就任にした成田は、無口なオトナノヒト(同級だが、何浪かして入ってきたので、実際に年上なのだ)で、ひと呼んで、ミスター・ストイック。端正な顔立ちに、ザンバラ髪(若白髪だが)、無精ヒゲという、野武士風のたたずまいを漂わせている。ムキムキかつシャープに絞り込んだ肉体で、試合となると敵にひとり立ち向かっていく、掛け値無しのヒーローだ。しかも頭脳明晰で、背中に孤独感とくれば、女どもが放っておかない・・・かと思いきや、浮いた話ひとつ流したことがない。ラグビー部でバカな仲間に囲まれつつ、寡黙に過ごすのが性に合っている、という奇妙な人物だ。そんなまばゆいオーラを放っていてつき合いづらいが、根はドジで可愛いやつでもある。
 オータは逆にひとなつこく、天真爛漫で、周囲の誰をも自分のワールドに巻き込んでしまうという魅力的な人物だ。小柄で、ニワトリのようにすばしこく、ワニのように強いアゴを持つ、バックスの切り札でもある。ボールがぽんと転がれば、犬のような野生を発揮する。その一挙手一投足を見ているだけで笑えてくる、愛しいバカと言える。オレとオータとマネージャーのチカちゃんは、常に三人一緒に行動し、どこにいくにも顔を突き合わせ、お互いの恥部まで知り尽くし、本音を包み隠さずにさらしては、ゲラゲラ笑い合ったり、泣き合ったりする仲となった。ただ、相互間の恋愛衝動は絶無だったが。
 マッタニは、午後の講義の終わりを告げるチャイムが鳴ると、オレと競って一等先に部室に駆け込み、練習着に着替えて、グラウンドに躍り出る。ふたりとも、ウズウズが止められないのだ。オレはズタズタボロボロの、かつて真っ白だったはずの茶色に変色したジャージーがトレードマーク。マッタニのは、薄汚れたライムグリーン。いつも、夕刻の清潔なグラウンドには、最初にふたりのスパイク跡がつけられる。しかし、まだ集合には早い時間だ。仕方なく、手持ち無沙汰にボールのやり取りをしているうちに、オータが疾風の如くに転がり込んでくる。その後ろに立つつむじ風に巻かれながら、のっそりと成田が現れる。さらに、常日頃から濃緑のラグビージャージー姿で過ごしているメガネの丸ちゃん先輩がやってきて、だいたいこんなメンバーで練習開始となる。部員数が少ない?いやいや、わがラグビー部は、体育会的厳正ムードゼロの、ゆるーいコミュニティなのだ。練習はやりたいやつだけがやり、いざ試合!となったときにだけ、全部員がかき集められる。部員数は、試合ができる十五人ちょっきりだけ在籍していて、要するに、全員がそろわないと試合ができない。なので、試合のときだけは強制力が発動される。それでも、部員のケガや用事で試合メンバーが足りない、ということになると、野球部やらサッカー部やら彫刻科やら、最悪の場合、他の大学やらから即席に人員を借りてきて、対処をする。そして、かえってそんなやつらが大活躍するんである。弱いことこの上ないが、愉快なラグビー部ではある。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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