金山のまぼろし

全力で生きる!!

93 LSD装着

2021-05-10 18:23:57 | 幻の走り屋奮闘記エピソード2

 

 

鉄の扉制作会社を辞めて次の日、僕は嶋田君をAE86に乗せて川越市まで向かっていた。

 

今日はLSD交換をする。

 

僕が交換できるはずもないので、正式にはLSD交換してもらいにいく。

 

AE86読本を読んでいるなかでチラチラ出てくるショップがある。

 

アシクノプロスピリッツだ。

 

そこはAE86信者が多く集まるらしい。

『アシクノプロスピリッツの社長もAE86が大好きで、ショップの敷居が低い』と書いてあった。

 

 

距離は結構遠かったが嶋田君と話しながらだったので楽しく現地まで着いた。

 

イメージしていたよりもそこは小さめで少し古めの建物だった。

 

98,000円でLSDを交換してもらえる。

 

もちろん、2ウェイだ。

と言っても「FRならLSDは2ウェイ」とドリキンの本などを読んで知っているだけだった。

だから2ウェイ、1ウェイ、1.5ウェイの違いは体感してないのでわからない。

 

だが、雨の日のコーナー立ち上がりではアクセルを踏んでいるとシャーとリアからタイヤの空転音が鳴るので、きっと荷重の抜けたイン側のリアタイヤが空転しているだろうことはわかっていた。

この状態が改善すれば、荷重の抜けたイン側の空転が抑えられ、駆動力の伝わっていなかったリアのアウト側のタイヤにも回転力が伝わり、立ち上がりが鋭くなるはずだ。

 

ドリフトなら、コーナリング中のアクセルオンでリアタイヤの横滑りが長引くことになる。

 

だから、グリップでもドリフトでも戦闘力が大きく増すようだ。

 

 

数時間後、LSDが組み上がった。

 

慣らしが終わるまで全開で走らないでください、とのことだ。

初めてのアシクノプロスピリッツは料金にキッチリしている印象だった。

 

よし!

 

また僕のマシンのレベルが1つ上がった!

 

 

帰りはAE86バイブルに載っていた正丸峠という峠へ行ってみたいことを嶋田君に告げるとあっさりOKが出た。

正丸峠は秩父の方にあるようだ。

 

 

・・・

 

嶋田 「どうだ?LSD交換後の走りは?」

 

坂本 「いやー、直線は変わらないかなー。交差点を曲がる時になんか違う感じがするけど、大きく変わった感じがしないね‥。」

 

段々住宅が少なくなってコーナーが続く山道に入ってもそんなに大きく走りが変わっている感じではなかった。

 

 

途中で止まって地図を見ながら僕たちは正丸峠に向かった。

 

新緑の季節のワインディングは気持ちいい。

天井のサンルーフを開けて走ると更に気持ちよかった。

いきなりアシナガバチがサンルーフから飛び込んで来たりもしたが、楽しいハプニングだ。

 

 

なんとか正丸峠に着いた。

 

坂本 「ここからは全開だぜ!オレに付いて来れるか!?」

 

嶋田 「後ろに誰もいねーがなっ。」

 

 

余りにも狭い道でくねくねしていたので、ゆっくり走っていると後ろからよくわからない車種が攻めて来た。

すんなり道を譲って後ろから見ると相当古いビートルだった。

リアタイヤがバイクのように細い。相当昔の車だな、と思った。

 

昼間だというのにそのビートルは攻めている。

速くて追いつけなかった。

 

ブラインドコーナーだらけで対向車が来ているのか確認できないはずなのに、どうしてそこまで攻められるのか理解できなかった。

 

金山より狭く、道は小さくうねっていて走りづらい。

 

少し前は伝説の走り屋たちがしのぎを削っていたなんて凄いな、と思って走った。

ブラックラインが所々あったので、まだ凄い走り屋が走り続けているのだろうか?

 

 

今日は伝説の猛者たちが走っていた正丸峠を走ってしまった。

 

ワクワクが止まらない。

 

 

西へ来たついでに高崎の西の山の方へも行きたくなり、更に迂回して帰りたい、と嶋田君に確認すると、またOKが出た。

 

藤岡市に差し掛かり、燃料が1ゲージになったのを確認した。

満タンにしておこう。

 

少し走るとガソリンスタンドが見えて来た。

 

あそこでいいや。

 

坂本 「ガソリン入れたいからガソリンスタンドに寄っていいかな?」

 

嶋田 「おぅ。」

 

 

スタンドへ入っていくと若い男性店員が顔を前に突き出して両手を胸に当てて目を見開いてこちらをずっと見ている。

 

なんだろう?

 

男性店員 「はぁ、あは、いらっしゃいませ!」

 

なんなの‥。

 

僕は助手席の嶋田君を見た。

 

嶋田 「‥‥‥。」

 

無言でニヤついている。

 

 

坂本 「あ、レギュラー満タンでお願いします。」

 

男性店員 「はぁ、はぁ、はふっ!レギュラー満タン!かしこまりましたぁ!はひー!」

 

男性店員はハチロクの給油口にガソリンを入れ始めた。

 

 

男性店員が歩み寄ってきた。

 

男性店員 「オレ!高校生なんです!」

 

坂本 「‥はい?」

 

高校生店員 「オレ!ハチロク大好きなんです!」

 

坂本 「あぁー‥、そうなんですか。」

 

高校生店員 「お客さんの車、パンダトレノじゃないっすかー!!」

 

坂本 「あ、まぁ、そうです。」

 

高校生店員 「凄いカッコいいと思います!!」

 

あ、僕のハチロク車体価格60万でそんな高くなかったんです、けど‥。

 

坂本 「僕もこの形好きなんです。」

 

高校生店員 「うわー!憧れますぅ~!」

 

坂本 「車好きなんですね。」

 

高校生店員 「あのっ!オレ、高校3年で、卒業したらハチロク買って走り屋になりたいんです!」

 

坂本 「いいっすね。」

 

高校生店員 「あの‥、このフルバケ、超カッコいいと思います!この他のチューニングとかもされてるんですか!?」

 

坂本 「あぁー‥、LSDとか‥、入ってますけど‥。」

 

高校生店員 「うわー!LSDですか、すげー!」

 

 

あの‥、LSDは、さっき入れたばっかりで‥‥。

僕は‥、速くなくて、煽られてばっかりで‥‥。

車高調はまだ入ってないんだけどなぁ‥‥。

 

高校生店員にウソついてるようで恥ずかしい気持ちになってきた。

 

高校生店員の食いつきが凄いから僕がウソつきみたいになってるじゃん。

 

 

高校生店員 「ありがとうございましたーー!!!」

 

 

・・・

 

坂本 「僕のハチロクはフルバケが付いていて、LSDも入れてるから、さっきの話、ウソついてないよね?」

 

嶋田 「あぁ、ウソはついてないな。」

 

坂本 「そうだよね‥。」

 

嶋田 「さっきのヤツはスゲー興奮してたな。」

 

坂本 「そうだね。ハチロク大好きなんだねー。」

 

嶋田 「イニDのイツキみたいなテンションだったな。」

 

坂本 「うん。間違えてハチゴー買わないことを祈るよ。」

 

 

まださっきの高校生店員の熱が運転席の窓に残っている感じがした。

 

後ろめたい感じがしてきた。

 

でも、僕は上手く速くなる為に今日LSDを入れたんだ!

 

先に行って待ってるぜ!藤岡のハチロク少年!