金山のまぼろし

全力で生きる!!

78 R34とサイノスミサイル

2021-04-27 14:29:15 | 幻の走り屋奮闘記エピソード1

 

 

 

正直、嶋田君には手を焼いていた。

というか、嶋田君のR34ドライブに手を焼いていた、と表現したほうが適切かもしれない。

 

岡ちゃんが金山からいなくなったことで、嶋田君はやりたい放題に近い状態だった。

AE86ではR34の相手にもならない状態だし、嶋田君は金山の暗黙の了解も守らない状態だった。

僕がWarmthのリーダーで不甲斐ないから、というわけではないと思う。

 

自分勝手な人が一人で金山に走りに来ているならわかるが、僕と一緒に走っているなんて嫌だ。

 

でも、僕は嶋田君とぶつからないでいた。

 

今日も気は進まないが土曜日なので走ることになっている。

遊びで始めたのに、全く面白くなかった。

 

 

金山 PM7:00

 

嶋田 「よう!」

 

坂本 「やあ!」

 

嶋田 「今夜も走るかぁ~。」

 

嶋田君はやる気になっていた。

 

坂本 「おうよ!」

威勢のいい返事とは裏腹に僕は内心やる気はなかった。

 

そもそも、バトルできるだけのサスの硬さがなかった。

 

金山の走り屋の休む場所は頂上の駐車場と決まっている。

コースを下り切るとT字路になってUターンしかできないので、たまり場と言ったら頂上の駐車場だ。

 

僕の作戦はいつも同じだった。

何本か走って休む時に喋りっぱなしに持ち込み「あれ?もうこんな時間だ。帰えろっか。」作戦、それ一点だった。

 

一週間の中で走り屋にとってはお祭りの曜日、そして宴もたけなわの時間だ。

僕の話術だけでは嶋田君を抑えきれずまた走る流れになってしまった。

嶋田君は当たり前だけれど走りたいようだ。

 

1対1で走るには圧倒的なスピードの差があるので、ここは走り屋の密度を生かして運にまかせて渋滞気味になってくれたらいいな、と思っていたが、土曜日だというのにちょっと走り屋が多いくらいだった。

爆音で速そうな車も少なかった。

いつものレッドパールR32クルクルテールランプ集団がいないし‥。

他にも速い車たちがまだ来ていない。

 

嫌がっていても仕方がない。

僕も走り屋なので走るしかない。

 

嶋田君が列に加わり、その後ろに僕が付いた。

 

嶋田君の前の車は速く、嶋田君はなんとかその車たちに付いていってしまった。

僕はその場で止まっているわけではない。

真面目に下っているが、コース中盤に差し掛かるまでにR34のテールランプは見えなくなってしまった。

 

でも、攻めるしかない。

 

もうじきコース折り返しの右ヘアピンカーブだ。

 

あれ?

いつもならヘアピンを折り返していく車たちやそもそも嶋田君のR34が右の崖下の横のコースを走っているはずだ‥。

 

やばい!

ヘアピンのど真ん中で車が止まっている!

 

あ!

黒のR34も止まっている!

 

どうしたんだ!

 

 

減速‥

 

 

上りの車と下りの嶋田君のR34の2台が対面して止まっていた。

 

 

ん?

 

よく見るとR34の右フロントがひしゃげている‥。

 

対向車はシルバーのサイノスだ。

サイノスのフロントも凹んでいた。

 

 

‥‥やっちまったのか!!

 

嶋田君は車の中にいた。

ステアリングを握って座っていた。

 

嶋田君が以前カルタスでコースアウトした時は、嶋田君が出てこなかったので出てくるのを待っていたら、そのままの流れで僕は傍観者になって嶋田君が激怒したことがあった。

 

あんな経験は2度と嫌なので、嶋田君が車から降りて来なくても僕は近寄っていき、嶋田君に声を掛けた。

 

坂本 「大丈夫!?」

 

嶋田 「‥あの車に突っ込まれた‥。」

 

嶋田君はステアリングを握りながら気の抜けた返事をした。

 

嶋田君はまだR34の右フロントを確認していないようだった。

 

坂本 「車‥、嶋田君の、凹んでるよ。」

 

嶋田 「‥あぁ。」

 

嶋田君は降りようとはしなかった。

 

僕たちが佇んでいるとサイノスから1人の若い男性が走り寄って来た。

 

若い男 「ほんっとに、すみません!」

 

嶋田 「あぁ、大丈夫だよ。」

 

若い男 「運転している当人はダメージが大きい為、僕が代理で話に来ました!」

 

嶋田 「運転手さん大丈夫なの?」

 

若い男 「本人の体は大丈夫ですが、精神的大ダメージで話ができません!」

 

んなわけないだろ。

 

R34とサイノスが正面からぶつかって嶋田君は話せているんだ。

どんなダメージだよ!

嶋田君の方が遥かにダメージあるだろ!

 

嶋田 「そうなんだ。君たち学生?」

 

若い男 「はい、専門学生です!保険の話もしますので!」

 

嶋田 「わかったよ。君たちは何人で来たの?」

 

若い男 「4人です!」

 

ちらっと見ると運転者は男性で他に男の子が一人、女の子一人乗っていた。

 

運転者は良い所を見せようとして、飛ばしていたのだろうか‥。

 

 

嶋田 「学生生活楽しんでね。」

 

何言ってんだよ、嶋田君!

運転者を引きづり下ろしてきて、謝らせろよ!

 

運転者が怪我をしてないのに、降りてこないのは何でだよ!

 

若い男 「はい、僕たちはUターンして下にある駐車場で待ってますから、そこで話しましょう!」

 

嶋田 「わかったよ。」

 

サイノスの運転者はそのまま運転しながらUターンして下って行った。

話せないくらい大ダメージを精神に負っていて、運転はできるんだな!

 

坂本 「34は動くかな?」

 

嶋田 「エンジンはかかるから、下ってみるよ‥。」

 

 

僕がハチロクに近付いた時、後ろから男性が声を掛けて来た。

 

男性 「事故っすか?」

 

坂本 「はい、僕の友だちが突っ込まれたんですよ。」

 

男性 「出たばっかりのR34じゃないっすか。フロントいっちゃったんすか?」

 

坂本 「凹んでましたね。何とか動けそうですけど。」

 

男性 「280馬力が勿体ないっすね。」

 

坂本 「友だちのR34はNA買ったんで200馬力なんですよ。」

 

男性 「シブいですね。しかし、以前知り合いが同じように走り屋同士がぶつかって「下で待ってますよ」と言われて、そのままぶつけた人が逃げて行ったことがありましたからね。そうじゃなきゃいいっすね。」

 

坂本 「そんなこともあるんすか!怖いっすね!」

 

男性 「これからも走りを楽しみましょう。じゃ、どうも。」

 

 

サイノスが逃げてなければいいな‥。

 

嶋田君を追って僕も下って行った。

 

 

下の駐車場には既にサイノスとR34が下りていて、嶋田君と運転者以外の女の子を混ぜた3人が対面していた。

 

僕は少し離れたことろから4人を見つめていた。

近寄った時、向こうの3人はちらっとこちらを見た。

 

僕はサイノスの運転席の人影をちらっと見たがうつむいている風だった。

 

すごいハキハキしたさっきの若い男性がリードして話をしているようだった。

 

30分くらい話しただろうか、向こうの3人は一礼してサイノスに乗って、ゆっくり去って行った。

サイノスが横を通る時、運転席を見たが運転者はうつむいてどんな顔をしているのか分からなかった。

 

 

僕は横を向いて立っている嶋田君を見た。

 

 

どう声をかけたらいいのか分からなかった。

 

 

坂本 「運転者は降りて来なかったね。」

 

嶋田 「あぁ‥。」

 

坂本 「話は付いたの?」

 

嶋田 「あぁ、向こうの保険で治してもらうよ。」

 

坂本 「そうなんだ‥。」

 

暗がりで嶋田君の表情が見えなかったが、嶋田君の頬が光っていた。

 

坂本 「嶋田君‥泣いているの?」

 

嶋田 「こりゃぁ、ガソリンの有毒ガスが目に入ってよ。染みるんだ。」

 

坂本 「‥‥、そうなんだ。 染みるんだね。」

 

嶋田君が新車で買ってまだ半年も経っていない黒光りしたR34。

右フロントフェンダーと右のフロントランプはえぐり取られたように破損していた。

 

サイノスなんて、ずいぶん格下の廉価版のような車なのに、そんな車に嶋田君のR34は突っ込まれるなんて‥。

 

しかもパーティー気分で愉快な気持ちでドライブに来たサイノスにアンダー出されて突っ込まれるなんて‥。

 

 

嶋田 「岡兄さんの気持ちが分かったよ‥。」