金山のまぼろし

全力で生きる!!

24 カルタス コースアウト

2006-03-16 02:01:50 | 幻の走り屋奮闘記エピソード1
 
 

岡ちゃん 「坂本君のプレミオ、頂上の駐車場に置いてあるよね。僕はまだここにいるから2人で走ってきなよ‥。」

 
 
そうだった‥。
 
悪い人はいないだろうけど、頂上に車を置きっぱなしはちょっと心配だ。
 
 
僕は嶋田君のカルタスにまた乗せてもらい頂上へ向かった。
 
 
嶋田 「大変だな、岡兄さん。」
 
坂本 「そうだね。岡ちゃんが走り屋辞めたら僕たち2人になっちゃうよ。AE86がまだ来てないのに‥。」
 

 

金山を走り始めて数ヶ月の頃、僕のプレミオは嶋田君のカルタスを圧倒していた。

その時はいつも僕のプレミオの後ろを嶋田君はカルタスで離されながらも走っていた。

 

嶋田君は慎重派だ。というか怖がりだと思う。

以前、2人で初めてのスキーに行った時もスキーの板をハの字というかへの字にしてそろそろと下りつつ、しかも転ぶ状況では膝からそーっと崩れるようにうつ伏せに寝るように倒れていた。

僕は逆に転びそうな時は、胸からダイビングして転んでいた。

性格の違いなのかもしれない‥。

 

そんな怖がりの嶋田君もいつしかどんなシチュエーションでも車間が開き過ぎることはなく一定間隔の車間距離で僕のプレミオについて来るようになっていた。

既に嶋田君の方が速いんじゃないか?と思う時も多々あったが、そんな状況でも僕の前で走ることはなく常に僕の後ろをカルタスでついて回っていた。

 

そして、ついに‥。

どんな時でも僕のプレミオより嶋田君のカルタスが確実に速くなってしまった時が訪れた。

 

その時から嶋田君は僕の前を走るようになった。

 

それに気づいたから岡ちゃんが「嶋田君、速くなってきたよね。坂本君負けてるんじゃん。」 と言ったのだろう。

 

 

知ってるよ‥。

 

誘った側は負けるわけにはいかない気持ちがある。

 

今日は僕の心が波を打っている‥。

 

実際に嶋田君に本気で走られると僕のプレミオはついていけなかったのだ。

毎回、僕はカルタスにチギられていた。

 

競争だから仕方ない。

 

でも、その確実に勝てるようになるまで人の前を走らないという根性が気に食わなかった。

嶋田君のその根性が気に食わないからといっても、その部分に僕は意識をフォーカスしたくなかった。

 

嶋田君は水を得た魚のようだった。

 

 

 

坂本 「嶋田君、走るの速くなったじゃん、成長したね。」

 

嶋田 「俺は生まれる前から既に成長してるから。元からすげーんだよ。」

 

坂本 「あ、そうなんだ。」

 

嶋田 「そうゆうことよ。」

 

 

頂上に着いた。

 

坂本 「ありがとう。何往復か走ったら下の駐車場に戻ろっか。嶋田君は先を走りなよ。」

 

嶋田君の後ろについたまま、列の最後尾に付いた。

 

(速い車が後ろから来なければいいな‥。)

 

さっきまで雨が上がっていたがまた小雨になっていた。

 

列が動き出してスピードが乗ってくる。

嶋田君の走りを後ろから観察していると、ウエット路面も僕よりやっぱり速い。

特にコーナーが速い。

いくつコーナーを抜けてもどう考え直しても、嶋田君はやはり速い‥。

 

 

コースは中盤まで差し掛かり、もうすぐコースの特性が高速から低速に切り替わる右ヘアピンが待っている。

 

金山の高速区間と低速区間の割合は半々だった。

コースの上半分が高速で、下半分が低速だった。

 

折り返し地点の右ヘアピンの前の緩い左曲がりに差し掛かる。カルタスから5車身くらい離されていた。

 

ヘアピンの下から対向車の光があったので僕はペースダウンしたが、そのまま嶋田君はヘアピンに突っ込もうとその前の緩い左コーナーを攻めていた。

 

そのまま、嶋田君のカルタスはブレーキランプを点灯させながら緩い左コーナーをアウトへはらみ、右ヘアピンに入る前のヘアピンの内側のガードレールが切れた所に吸い込まれるようにスーッと落ちてしまった。

「あっ!」と思い減速して停車。

 

ガードレールの切れた所と樹木の間にカルタスが落ちてしまった‥。

 

・・・大丈夫か?

 

プレミオをコース傍に停めて降りてカルタスを見ていた‥。

 

暗がりの中、嶋田君はカルタスの中でなんとなく大丈夫そうだ‥。

でも、嶋田君は降りてこない。

 

 

すると続々と走り屋たちが集まって来た。

 

男性 「どうしたんすか?」

 

坂本 「事故ったみたいです‥。」

 

男性 「大丈夫ですかね。」

 

坂本 「‥どうっ、すかね‥。」

 

 

どんどん人が集まって来た。

 

僕はどうしたらいいかわからず、ただ、嶋田君の乗っているカルタスを呆然と見ていた。

 

すると下の駐車場にいたはずの岡ちゃんが下から走って来て、僕を見ながら「おーい!あれ、嶋田君のカルタスじゃない!?どうしたん!?」

 

坂本 「‥‥嶋田君が僕の前を走っていてアンダー出して道路から落ちちゃったよ。嶋田君は車内でキョロキョロしているよ。」

 

岡ちゃん 「言ってないで助けようよ。」

 

と話しているうちにベテランぽい走り屋の人が仕切り始めてくれて「大丈夫ですか!!」「押しますよ!」と周りの人たちに応援を求めた。

 

(よかった‥。)

 

その間、嶋田君はカルタスの中で真っ直ぐ前を向いてステアリングを両手で握っていた。

 

僕たちはそれに従ってカルタスのハッチバックを皆で下の道路まで押した。

意外と木の間をするするとカルタスは動き、側溝も乗り換え無事ヘアピンの出口に脱出できた。

 

出られた!

 

すると、カルタスはスーッと走り出し、何事もなかったように暗闇に走り去って行った‥。

 

あれ?

 

嶋田君、お礼とかその場にいる人たちに大声で言わないの‥?

 

脱出に協力した人たちは口々に「よかったねー。」や「お疲れ様でしたー。」と言って散っていった。

 

 

(許せん!嶋田君、皆んなにお礼ぐらい言いなよ。言いたくないならクラクションでもいいよ!)

 

 

そう思って、金山を下った嶋田君がいるであろういつもの駐車場に2人で向かった。

 

 

案の定、カルタスが停まっていた。

 

僕と岡ちゃんはカルタスに乗っている嶋田君に歩いて近付き、怒りを抑えながら「怪我は無かったかな?」

 

嶋田 「ざけてんじゃねーぞ!」

 

(‥‥え?)

 

嶋田 「さっきの事だよ。」

 

坂本 「知ってるよ。落ちたよね。」

 

嶋田 「じゃねーよ。ざけてんのかよ。」

 

(ん?意味が分かんない‥。どこの部分に怒ってるんだ‥。)

 

嶋田 「あんなのねーだろっ。」

 

坂本 「・・・何もしてないよ。」

 

嶋田 「何もしてねーじゃねーよ!他人のフリしたろ!」

 

岡ちゃん 「‥‥‥。」

 

坂本 「してないよ。」

 

嶋田 「近寄って来なかったろ!俺が落ちた時。」

 

坂本 「うん、そうだね。」

 

(他人のフリをしたつもりはないが、ただ見ていただけになってしまっていたかもしれない‥。)

 

坂本 「何していいか分からなかったから‥。いや、悪かったよ。」

 

嶋田 「悪かったよ、じゃねーよ。ざけてんのかよ!」

 

坂本 「いや、謝るよ。」

 

嶋田 「いや、謝るよ。じゃねーよ。」

 

(じゃ、なんて言えばいいんだ‥‥。ふざけてないし‥。)

 

 

坂本 「もう、ああいうことはしないようにするよ…。」

 

嶋田 「あたりめーだよ。」

 

 

 

そのまま嶋田君は駐車場からウインカーも出さずに帰って行った。

 

 

坂本 「岡ちゃん‥、なんで何も言ってくれなかったの。」

 

岡ちゃん 「いや、嶋田君が怒ってたから‥。」

 

坂本 「僕が怒られちゃったじゃん。」

 

 

岡ちゃん 「ごめん。」

 

坂本 「もぉー‥。」

 

岡ちゃん 「僕も事故ってるしみんな終わりかもね‥。」

 

(終わらないよ!)