部長 「坂本君さぁ、左手で御飯茶碗を持たないんかい?」
坂本 「はい‥。」
それは昼食の時だった。
同じテーブルで食べていたパンチパーマの部長が、僕の食べ方を指摘した瞬間だった。
僕は御飯茶碗をトレイに置いたまま御飯を右手のはしで挟んで食べていたのだ。
部長 「食べづらくないんかい?」
坂本 「あ、慣れました。」
部長 「器用に食べてるなぁ。」
坂本 「あ、はい‥。」
僕はニコリとした。
部長の発言のイントネーションからは「食べ方が汚い」というメッセージも含まれているような雰囲気だった。
もう亡くなった僕のおじいちゃんは片手の神経が切れていて、御飯茶碗をいつもテーブルの上に置いたまま食べていた。
そして僕は小さい頃から真似していたので違和感が無くなっていたのだった。
部長 「御飯茶碗を左手で持って食べようか。」
坂本 「‥はい。」
僕のマナーは金山で走り屋とすれ違う時に右ウインカーを出すことだ!
ほんの些細なことだが、食べ方を指摘されたことにイラ立っていた。
昼休みはきっちり休んで仕事の続きを午後やっていると、カメラさんがつかつかと忙しそうに歩いてきたが、顔つきが少し違っていた。
カメラさんの鼻息が荒い。
カメラ 「さっきさぁ、営業のヤツにさぁ‥‥」
と要約すれば、営業の若いけどカメラさんより勤続年数が長い男性に、仕事上で理不尽でセコい仕打ちをされたらしい話だった。
坂本 「酷いですね‥。」
カメラさん側に立った「もっともだ。」というような雰囲気で合いの手を返した。
カメラ 「あいつはセコいよな!」
坂本 「そうっすね‥。」
カメラさんが席に戻った後、僕は仕事をしながらあることを考えていた。
その本人が人の悪口を言う時に、その本人の特性を現した発言をすることがとても多いのだ。
例えば、その本人が相手のことを「セコい」と憤慨していた場合、その言っている本人自身も「セコい」人が非常に多いことに僕は気付いている。