「１枚の写真」
ゴムは飼い猫です。生まれた時から優しい家族に育てられてました
美味しいエサをもらって トイレもきれいだし 夏は涼しく
冬は暖かい日々 ゴムは冬の暖炉の前が大好きでした
何不自由のない生活です ただ家の中には人の家族は居るのに
猫はゴムが１匹だけで生きてきました
淋しいなんて事は考えた事もありませんでした
そんなある日玄関のドアを開けたままお母さんが近所の奥さんと
話し込んでるあいだに 今まで見た事の無い 家の外へ
家の周りを見てみるつもりが すべてが初めて見るものばかり
ついつい家から離れてしまって戻れなくなってしまいました
ここは何処なんだろ～？
どんどん周りは暗くなるし心細くなった時
商店街の写真館の前で照明の点いたウインドーに
写真がいっぱい飾ってあって その中に１枚「マミ」と書かれた猫の写真が・・
何てかわいいんでしょう？一目ぼれってあるんだな～
ゴムは何もかも忘れて見入ってしまいました
やがて商店街の 照明が消えて
夜が深くなっても ずっと見ていました
ゴムが居ないことに気付いた家族があちこち探して
ここにいる事を伝え聞いて探しに来てくれました
籠に入れられて連れて帰られる時も
ゴムは動く事も忘れて ただずっと写真を見つめていました
それまで家の中でゴロゴロしてるのが心地よかったゴムが
それからはスキを見付けては 家を抜け出して
写真館の前で座ってました
そんなある夜中の１２時 空には大きなオレンジ色の満月が輝き
見上げていると引き込まれそうな月でした
その時「こんばんは 私はマミ！あなたはゴムね」
写真の猫が話し掛けてきました
ゴムは写真が話し掛けた事にびっくり！
そしてその声の美しさにもびっくりでした。
「こ こ こんばんは ゴムです」
「いつも見てくれてありがとう」と言うなり
写真館のウィンドウをぴょんとすり抜けてゴムの隣へ
「あなた街の事何も知らないでしょ？
色々案内してあげるから 付いて来て」と走り出しました
ここが駅で街の中心、ここがケーキ屋さんでここがスーパー
何もかも 初めて見る風景に 少し興奮気味のトムは
楽しくって うれしくって 時間も忘れていました
ふと 気が付くと写真館の前でゴムは目が覚めました
空が薄っすらと 明るくなり掛けていて
夢を見ていたのでしょうか？悩んでいると
そこへ家族の人が迎えに来てくれてました
それからも家族の厳しい目を盗んでは
時々写真館の前に来るのですが
写真からマミ猫は出てくることはありませんでした
それでも写真館の前で うろうろしていたある夜
夜空を見上げるとオレンジ色の大きな満月です
「ひさしぶりだね」きれいな声と共に気が付くと隣に座っています
「やっと 逢えた～」いつも写真のままだったのに
「そうなの私はオレンジ色の満月の時だけ写真から
出る事が出来るのでもそれも今日が最後だけどね」
「え？どうして もう会えないの？」
「私 おとぎの国へ戻るの 昔この街に勝手に出てきちゃって」
「その時写真に撮られて戻れなくなったんだ～でも
やっとオレンジ色の満月のおかげで戻れるんだ
だから今日で会えるのは最後だよ」
「いつも見に来てくれてありがとうね」
「嫌だ別れたくない！離れたくない！」
「家族が心配するよ いいの？
だったら私と一緒に行く？」
ゴムは家族の事を思ったのですが
「一緒に行く！マミと一緒ならどこにでも行くよ」
「わかった！じゃあ私のシッポにつかまって！ 」
そう言うと２匹はどんどん空高く登って行くと
オレンジの月の中へと消えて行きました
その後 ゴムの家族が写真館の前に来ると
幸せそうにゴムがウィンドウの前で
静かに丸まって冷たくなっていました
写真館の猫の写真があったところには
「マミ」と書かれた 風景だけが映った写真が残っていました
めでたし めでたし
