†Brothers†

2017年05月09日 | ■MOVIE


マイ・ブラザー

※完全ネタバレ

とても重たくて苦しくて、でも見て良かった映画だった。
見たときの精神状態があまり良くなかったのもあったのか
いつもだと深く考えさせられるところなのだが
今回は見終わったあとパニックして、翌日もきつかった。
普通の人が見る分には、内容は重たいとはいえパニックするような
ことにはならない。

結婚して二人の娘を持つ兄サムは兵士。
強盗の罪で入っていた弟トミーが出所してきて兄に合い、
久しぶりに親もみなそろって食事となるが、
父親と弟はとても不仲で空気が悪い。
そんな中、兄はアフガニスタンへ。
ところが兄が向こうで死んだという報せが。
家族はみな悲しみに暮れ、何とか生きていこうとするが
抜け殻のように。弟が兄嫁グレースの娘たちの面倒を見たり、
グレース自身を励ましたりして、徐々に変わっていき、
すれていた彼が優しくて明るい人間になっていく。
逆に、死んだと言われていた兄は戦地でウィリスという兵士と
共にタリバンに拘束されており、監禁され拷問を受け過酷な
環境の中に閉じ込められていた。
やがてウィリスを殺すかお前が死ぬかと選択を迫られた兄は
部下を撲殺し生き延びる。だが部下を殺したことをどのように
自分が受け入れるのかはわからず、自分を許すことも当然できない。
結果的に米軍に救出されて家に帰ることが出来る。
その重たい事実に心が押しつぶされている彼は、再会を楽しみにしていた
家族から人格が変貌したように感じられる。
彼が戻ってくることを知る直前、弟とグレースはちょっと互いに
惹かれそうになっていた。二人はキスをしてしまっていて
二人の気持ちは娘たちにもなんとなく感づかれてしまっていた。

疑心暗鬼になっており、自分をどうすることもできない兄は
二人が関係を持ったのではと疑い、自分は人を殺してまで戻ってきた
というのに、と思うとどうしようもない怒りで狂いそうになる。
仕事に復帰もできず、地獄のような心境の中でついに、兄は
銃を手に暴れまわり、駆け付けた警察らの前で自分の頭に銃口を向ける。

弟が叫び続ける声が兄に届き、彼は銃を置いて警察に拘束され
病院に入ることになる。
面接に来たグレースに、何があったのかを聞かれ、とうとう兄は
それを口にする。
映画はおわる。

最後は口にできて本当に良かった。
そうでなければ、あのままの状況ではもう救いがない。
昔から弟にとって、兄は尊敬すべき人だった。
誠実でまじめで頼もしくて、そんな人が狂乱してしまうほどのことが
起きたとはいえ、何があったのかを分からない弟や周りには
大変なショックだったと思う。
どうやって兄を支えたら良いというのだろうか?
彼自身が壊れた中で落ちる寸前のところをもがいているのを
どのように救えるのだろうか。

何とか自分を取り戻そうとしている兄は死ぬか生きるかだった。
そんな中で弟の声が届いて本当に良かった。

役者がとにかくみなすごくよかった。
凄まじい演技を見せる兄役のトビー・マグワイアや
味のある演技が素晴らしい弟役のジェイク・ギレンホール、
兄嫁はナタリー・ポートマンときて、
なによりすごい演技だったのが、長女役のベイリー・マディソン。
家族の苦労を目の当たりにして、お姉さんらしく振舞おうと必死で
だけど心がついていけない様子を見事に演じていて感動する。

エンディングのU2の曲もとても良かった。
あかるいうちに家に帰れて良かったという歌詞が、
この映画のためにあったような気がした。

兄が仲間を殺せと命じられて実行してしまうシーンは悪夢そのもので
どうやって兄はこの先生きていくのか?ひどいショックを受けた。

PTSDの兄の前に現れた弟の知り合いの女性は戦争について思うことを
口にするのだが、兄の前ではあまりにも理想的過ぎて軽すぎた。
分からないのは仕方ないことだが、あのような兄の前で話す
内容ではなかったと思う。

戦地から帰ってPTSDになってしまった兵士は数えきれないほどいるだろう。
彼ら自身そしてその家族が、どれほど大変な思いをしているんだろうか。

戦争が人を大量に殺し、残酷にし、心を破壊してしまう。
いったい戦争ってなんなんだろうか。
とてもひどくて言葉にもできない。


本当に重たい映画だった。

†三國之見龍卸甲†

2017年05月09日 | ■MOVIE


三国志

※完全ネタバレ

今回の三国志は趙雲のお話。
趙雲が蜀の中で頭角を現していき、最後まで生き残った
英雄として、曹操の孫、曹嬰という女性と戦うというストーリー
になっている。五虎大将の関羽、張飛、馬超、黄忠の4人は
とりあえず速攻で亡くなっていく。そうしないと時間がないのだろう。
関羽と張飛が趙雲と共に、劉備の息子を救い出すため出発する場面が
なんだか印象づいた。

趙雲の役の俳優はとても味のある演技で魅了された。
敵役の女性もすごくきれいだし、アクションもいいし
面白かったな。

欲を言えば、今後、男前の演じる曹操が主役の映画を見てみたい 笑

ここ何年もゲームなどやっていないのだが
つい先日何年かぶりに三国無双6をやった。
張遼を無敵に育てたら満足し、それ以来やっていないのだが
もともと興味がなかったけれど、そういう風に三国志に触れる
きっかけがあったのは良かった。
何も知らないで見るより、やっぱり少しでも知っていた方が面白い。
それに張遼は相変わらず好きなのだが、6に出てきた郭淮という人物が
すごく可笑しかった。ずっとゴホゴホ言っていて、身体が悪くて
無理がきかないから、攻撃の後ばたっと倒れたりするし、
いうことも体力がないのが問題じゃないとかなんとかって、
病気が悪化して体が動かなかったあたしは少し共感してしまった 笑
無双に出てくる好きな人物は、張遼、夏侯淵、魏延、ほうとう、馬超、孫堅。
曹丕や司馬の人たちはセリフ聞くとげんなりするほど嫌い。合わない。

ほかの人たちの映画もどんどん作られたら面白いのになぁ。

今回の映画では諸葛亮の最後の趙雲への対応が本当に冷徹な軍師というか
そんな感じで、イライラした 笑

趙雲はすごく広い心を持っていて誠実に描かれていた。
兄貴分の男の裏切りに対してもそうだし、人を恨んだり、そういった
結果的に自分の心を貶めてしまうようなものを持たない強さがあった。
最後まで潔く凛としていてかっこよかった。


†Jean Michel Basquiat: The Radiant Child†

2017年05月09日 | ■MOVIE



バスキアのすべて

※完全ネタバレ

今回のバスキアの映画はドキュメンタリー。
バスキアを知る人々のコメントなどとともに
バスキアのインタビューを見ることが出来、
彼の人生を追っていく。

バスキアについての説明は割愛する。

登場する一人が、バスキアは、誰しもいろいろなことのある
人生の中で航海していくための舵を
バスキアは持っていなかったのだというような
ことを言っていた。

それがこの映画を通じて知るバスキアの人生をとてもよく
表していて強く印象に残った。

年末のときに一人でバーにいた話や
彼が孤独を深めている様子や重圧や
麻薬に溺れてしまうこと、若くして死ぬこと、
こんな孤独を抱えてしまう人が、この世界から少しでも
少なくなって心が癒されていくことを願わずにいられない。

誰かが、この人の孤独を深くから救えていたら違っていたと
言っていた。それは後からいってもどうしようもないことだが
実際にそうでもあるのだから考えさせられる。



バスキアは天才だったから、多くの美術館は彼を無視した。
権威は偉大な伝統を持っているが、いつも時代遅れなのかも
しれない。

差別についても触れられていた。

若くして億万長者になることの不幸な面についても。

ありとあらゆるバスキアの絵が紹介されていて見ているのは楽しい。
バスキア以外にもあたしの好きなポロックなどいろいろ見られてよかった。

ただ、さすがに最後のほうは泣いた。

見てよかったなぁ。やっぱりバスキアの絵が好きだなぁと改めて思う。


†Monsieur Ibrahim et les fleurs du Coran†

2017年05月09日 | ■MOVIE



イブラヒムおじさんとコーランの花たち

※完全ネタバレ

最高に良かった。思ってた以上に素晴らしかった。
モモという16歳の男の子が主人公で
近所にある食料品店の店主イブラヒムとの関わりによって
孤独なモモの人生が変わっていくお話だった。

モモは早くに母が兄のポポルを連れて出ていったので
父と二人暮らしなのだが、その父はおそらくうつ病で
モモに対し愛情が行き届かず、実に淡々と生活している。
日々仕事へ行って、疲れて帰ってくると家事をして料理を
作って待つモモがいる。モモは父に対してかまってほしい、
そういうサインをいくつも出しているのだが父は全く気付かない。
気づく余裕もないのかもしれない。

目の前の通りに毎日立つ売春婦らと寝たり(もちろん客として)
すぐそこに住んでる同世代の女の子が気になってちょっかいかけたり
あとは父親が帰ってくるのを待って料理を作って、そんな日々を過ごすモモ。

父は時々兄のように本を読めとか、兄とモモを比べたりする。
彼の孤独を癒すのは父親の愛情なのだが、それは難しいようだ。
近所の食品店に行ったモモはそこで万引きする。
それをお使いついでに何度か繰り返していた。



この店の店主イブラヒムおじさんは、モモの万引きを知っているが
優しくさりげなくほっとするような安心感でモモと接してくれる。
なんとも笑顔が優しいおじさんだ。万引きについて知っていることを口に
すると、弁償すると言って深刻になるモモに、払う必要はないんだと言って
店にある食料品をどっさりとくれる。
モモはイブラヒムに心を開いていくし、
モモの心のさみしさを埋めるかのようにおじさんはモモのいろいろな
相談相手になって、一緒に散歩へ連れ出したり、ボロボロの靴を履いた
モモに靴をプレゼントしてやったり、温かな愛情を与えてくれる。

そんな中で、ある日父親が帰宅すると、会社を首になったと告げられる。
そして父はモモを置いて出て行ってしまう。
モモにすまない、さようならと書いた手紙とお金を置いて。

一人ぼっちになったモモは父が出ていったことを誰にも言わず
ただいつも通りに過ごそうとする。父の書斎の本を次々売って現金にし
自分の好きなものを買ったりしながら。
父が帰ってくるのを待っていたのだろうか?
隣の気になってた女の子とも付き合いだしていたのだが、彼女には
ほかにも男がいたようで結果的にふられてしまう。

そして突然やってきた警察に、父親が電車にはねられて
死んだと告げられる。自殺だったのだ。
恐ろしい話にイブラヒムの店まで逃げ出すモモ。
追ってきた警察からイブラヒムが事情を聴いて、
結局イブラヒムがモモの父親の埋葬を行った。
後日母親が家に迎えに来るが、自分はモモじゃないと言って
母親を帰らせる。兄などいないと母親からその時告げられるモモ。
彼はイブラヒムのところへ行き、自分を養子にしてほしいと言う。
イブラヒムは即座に受け入れ、明日にでもと言ってくれる。

イブラヒムはモモに、笑顔になるのは幸せだからではなくて
笑顔でいるから幸せなことが起きるんだよと教えてくれていた。
養子にする件では全然認めてもらえずなかなか親子になれないのだが
二人で笑顔を作ってあきらめずに続けていくとついに養子として認めて
もらえることとなった。



イブラヒムは高級車を買い、運転免許をとって、モモを連れて旅行へと
出かける。最終目的地はトルコで、車を走らせながら、いろいろなものを
みながら、カトリックやギリシャ正教やモスクを巡ったりして
イブラヒムはそのたびに大切なことをモモに教えてくれる。
さりげなく伝えられる言葉からモモはいろんなことを心に吸収していく。
常日頃、イブラヒムは、大切な教えはコーランに書かれてあると言っていた。
コーランに興味を示しモモも読んではいたのだが、読書をしても
教えは身につかないのだとイブラヒムは言うのだ。
イブラヒムはイスラム教のスーフィーの信徒で、
モモをスーフィーの教団のところへも案内する。

そこではいわゆるスーフィーのダンスが神秘的に繰り広げられていて
モモはそこでの祈りを感じ、自分の中にあった憎しみが消えたと
イブラヒムに言った。

車の旅は続く。イブラヒムの故郷を目指していた。
あの山を越えたら故郷の村だから、ここで待っていろと
何もない場所でモモを降ろす。
笑顔で待っていろと言われたモモのところへやってきたのは、
大慌てで駆け付けた見知らぬバイクの男で、
トルコ語が分からないモモに、早く後ろに乗れとせかして言う。
何事かと駆け付けると、車の事故によって息を引き取る寸前の
イブラヒムが一軒の家の中で横になっていた。

教えることはみな教えたとイブラヒム。
モモは怯え、死なないでと涙するのだが、イブラヒムは
自分はコーランの教えがあるから死ぬのは恐れないのだと言って、
死ぬのではなく無限の世界へ旅に出るのだとモモに告げる。
旅の最後に亡くなったイブラヒム。パリに戻ったモモは
イブラヒムの遺書によって遺産をすべて相続することになる。
やがて大人になった彼はイブラヒムの店を
経営するようになっていたというお話だった。

イブラヒムは旅の途中、
「我々は鉱物 植物 動物から人間に進化した。
土やホコリから今の姿になれたんだ」と言っていた。
なんて素晴らしいセリフだろう。すごく感動した。

父親がモモにかまってくれないのを見ているときは、
気づいてあげてとすごく思った。

このお話の最高な点はイブラヒムがいちいち言うことが真髄を
ついているというか、本当に大切なことを言っていて感動する部分だ。

それに、自分はモモと一緒にいれて幸せだという。
そんな言葉を一番必要としているモモに対して
さりげなく言うことのできるイブラヒムには
本当に幸せな気持ちにさせられる。

どこにも美を見つけることが出来るイブラヒム。
純粋な心を持ったさみしいモモは本当に大切なことを
多く学ぶことが出来た。



このおじさんの最高さは、映画で行ったら赤毛のアンのマシューに
匹敵するくらいやばかった。

あたしの中には、境遇が違っているが、モモがいて
そしてイブラヒムを求めている心もある。
何も求めず信じ続け見守り続けてくれる温かな存在を。
それは誰の心にもあるものかもしれない?分からないけど。
あたしは仏教を学んでいるところで、現実に慈悲というものに救われる
心については実感がある。イブラヒムのいうことは、宗教というものを
なにかつまらないちっぽけな枠で理解する人には無意味になると思う。
宗教によっては実際に形だけ宗教っぽいがそれとはまったく違うもの、
たとえばテロリストを養成するため悪用された邪悪な思想だったりする
ものもあるが。
香のにおいのする宗教、ろうそくのにおいのする宗教、いろいろな
教えがあり、イブラヒムは、イスラム教徒ではないユダヤ人のモモに
宗教は「ものの考え方」であるという。

人にはその人の美学だったり志だったり、哲学があったりするだろう。
もちろんすべて無と思っている人もいるだろうし何も信じない人も。
それが自分と違っているからと言って、どうしたのだろう?
「宗教というものは」などと差別する人は、相手の血液型が自分と違う
というだけで差別しているようなもの。
そういうちっぽけな見方で生きていくと、人が鉱物から進化したことなど
理屈でしか理解できないような人生になってしまう気がする。

目隠しをして、様々な宗教の施設にモモが行くシーンを見て、
自分の頭で分かってるような、小さな次元でものを見ていると
何も感じられないのではないかと思った。

何も感じられないことは不幸だ。どこにも美を見つけられず
自分の心をどう立ち上がらせればよいのかも分からないまま
自分の価値を信じられないままになるのは。

素晴らしいことをたくさん教えてくれる映画だった。