虹 鹿島太郎
逃げ場もない連続大空襲で
さすがの大都会も
一日にして灰塵に帰してしまった
驟雨の過ぎ去った夜
大阪城の上にきれいな虹がかかった
私と妻子は抱きあって黙って見ていた
何もかも焼けてしまったのだ
しかしもう一つ最も恐ろしいものが
残っていた
ああ 私は家と一緒に
何故焼けてしまわなかったのであろう
「あなたこれからどうするつもり」
妻の悲しげな問いに答える力もなく
黙って妻子と別れてしまった
妻は私の病気を知っていたから
私の心の底を見抜いている筈だ
こうして十年も消息を絶ってしまうと
さまざまな不安や苦悩が襲ってくる
蠅を払いのけるように
もがいているのだ私はいつも