遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

能画26.月岡耕漁、板絵『実盛』、版画『実盛』

2022年07月27日 | 能楽ー絵画

今回は、板に描かれた能画です。

20.9㎝x28.5㎝。江戸~明治。

この品は、江戸の板絵ということで入手しました。

老武者が描かれています。しかも、シテ一人が描かれたレア物!

老武者の能と言えば、『頼政』か『実盛』、いずれも、滅びの美学が主題です。しかも、主人公は老人。『頼政』の後シテは、精悍な頼政面を着け、角ばった頼政頭巾を被っています。一方、『実盛』は、尉の面を着け、烏帽子を被っています。ですから、この絵は、『実盛』の後シテを描いたものであることがわかります。

【あらすじ】 平家の軍勢は加賀の篠原で木曾義仲に破られて敗走したが,斎藤別当実盛はただ一騎踏みとどまって奮戦した。赤地錦の直垂に萌葱の鎧というその晴姿を見て,手塚太郎光盛が名のりかけたが,実盛はわざと名のらず,手塚の家来を馬の鞍に押さえつけて首を押し切った。しかし老武者のこととてしだいに疲れが出て,ついに手塚に討たれた。(『世界大百科事典』より)

前半では、諸国行脚の遊行上人が、加賀国篠原で説法を行っていると、一人の老翁が訪れ、自分は實盛の亡霊だと言って去ります。後半、夜に上人が供養をしていると、實盛の亡霊が老武者の姿で現われます。そして、木曽義仲の前に自分の首が差し出され、洗われて、髪を染めていた墨が流れ白髪が現れたこと、手塚太郎光盛に討たれて無念の最期をとげたことなどを語り、姿を消します。

実はこの品、絵は古く思えるのですが、キャンバスの板にあまり時代を感じられないのです。

非常に分厚く絵具が塗られていて、細かなジカンが一面に入っています。これが古く感じられる理由だったのですね。

そうこうしているうちに、浮世絵師の流れを引く明治の能画の大家、月岡耕漁の能楽図絵をまとめて入手しました。

その中の一枚がこれです。

月岡耕漁『實盛』。25.5㎝x37.9㎝。明治35年。

大変よく似ています。

大きさはほとんど同じ。

装束の模様まで一緒。赤地錦の直垂を着ていますが、板絵の方の赤色は退色しています。

これはもう、決まりですね。今回の板絵は、江戸の品ではなく、明治期、能画絵師、月岡耕漁によって描かれた物です。最初にこの品を入手した時は、シテを単独に描いた江戸能画、しかも板絵でこれはレア品、と早合点しました。先回の古画に続いて、2匹目のドジョウとはいきませんでした(^^;


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
遅生さんへ (Dr.K)
2022-07-27 21:12:24
時代は若くなってしまいましても、作者名が分るというのは嬉しいですよね(^_^)
いろいろ集めていきますと、繋がってくることがありますよね(^_^) そんな時は、収集冥利につきますよね(^-^*)
そのようなことで、これも、二匹目のドジョウでしょうか(^-^*)
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Dr.Kさんへ (遅生)
2022-07-27 21:47:48
こうやってブログにするといかにも格好良く繋がっているように見えますが、実際のところ、同一であると気付いたのは、ほんの数日前です。下手すると、シテだけが描かれた板絵の能画発見!、と得意気にブログアップするところでした(^^;

ひょっとして、と第六感が働き、15年以上前に買ったきりで、まともに見ていなかった月岡耕漁の版画を眺めてビックリした次第です(^.^)

なお、この版画集は大宰府の骨董屋で買った物で、気がついてみれば所持金残りわずかになっていました(^^;
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加賀の篠原へ行きました (ウォーク更家)
2022-08-02 12:27:00
平家の軍勢が木曾義仲に破られて敗走したという加賀の「篠原の戦い」があった古戦場へ行きました。

そして、近くの多太神社に奉納されている「実盛の兜」の実物も見に行きました。

その寺の住職の説明で、手塚太郎光盛が、漫画家の手塚治虫の先祖であることを知り、大変驚きました。
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ウォーク更家さんへ (遅生)
2022-08-02 13:40:50
コメント、ありがとうございます。

実地見聞とはすごいですね。
現地で実感できる醍醐味、ウォークが達者な人の特権ですね。

手塚太郎光盛は手塚治虫の先祖なのですか。本当にビックリしました。
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火の鳥 (ウォーク更家)
2022-08-03 14:10:26
手塚治虫の漫画の代表作「火の鳥」では、時を超え「手塚治虫」自身が「手塚光盛」に生まれ変わり、木曽義仲に不審な武者(実盛)を討ち取ったと報告します。(-_-;)
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ウォーク更家さんへ (遅生)
2022-08-03 20:08:24
そうですか、さらに驚きですね。
手塚治虫自身、強く意識していたのですね。
それを自分の漫画に入れ込むのも凄いです。
火の鳥、あらためて読んでみます。
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