遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

三輪田米山の書9.紀貫之『ちはやふる』

2024年05月25日 | 文人書画

私の持っている三輪田米山の書の中で、一番、年老いた時の作品です。

 

 

『ちはや布留神乃い可幾尓はふくつも
 秋丹ハあへすうつろひ尓々り』 米山八十六翁書

「ちはやふる神のいかきにはふくつも
 秋にはあへすうつろひにけり」(紀貫之『古今和歌集』巻五、秋下)

「千早振る神の斎垣に這う葛も
 秋にはあえず移ろいにけり」

神社の垣根に生えている生命力の強い葛も、秋の移ろいには逆らえず、木々の紅葉と同じように葉色が変わってしまった

三輪田米山は、88歳まで長生きした人です。今回の品は、最晩年に近い、86歳の書です。以前に紹介した85歳の書『夏衣』に較べると、心なしか、トツトツとした感じが増しています。また、文字の横張りもおとなしくなったような気がします。

最晩年、88歳の書も残されているので、何とか頑張って入手したいと思っています(^.^)

さて、今回の書は、古今和歌集、紀貫之の和歌をしたためた物です。例によって、この歌を艶めいて解釈する説もありますが、ここは素直に、上述の意とするのが良いと思います。

神聖な神社の垣根にまとわりつく葛だから、神の力を得て、いつまでも緑色を保っているはずだ。しかし現実には、秋になると、季節の移ろいには抗しきれず、他の木々や草花と同じように、衰え、色が変わってしまった。

この葛は、神職の家に生れ、星雲の志を持ちながらも、長子として、家と神社を守る道を、ずっと一人で歩まざるをえなかった米山の姿そのものではなかったでしょうか。


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4 コメント

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遅生さんへ (Dr.K)
2024-05-25 14:34:35
これは、米山86歳の書ですか。
随分と穏やかで、丸味をおびてきましたね。
米山は88歳まで長生きしたのですね。最晩年、88歳の書も残されているのですね。是非、頑張って、最晩年の書も入手してください(^-^*)

確かに、この紀貫之の和歌の中の葛は、
「神職の家に生れ、星雲の志を持ちながらも、長子として、家と神社を守る道を、ずっと一人で歩まざるをえなかった米山の姿そのもの」
だったのかもしれませんね(^_^)
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Unknown (ぽぽ)
2024-05-25 15:06:42
遅生さんへ
いやー解説が素晴らしいです(^^)
米山さんの背景なども考えるとすごく意味深いですよね。
ただの書ではあるもののその裏側にあるものを考察するとコレクションも随分と面白いものになりますね!
そんなこともつゆしらず最初にこの書の写真を見て思った感想は、紙の保存状態が良いな。これは価値がありそうというものでした笑
なんだかお恥ずかしい(^^)
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Dr.Kさんへ (遅生)
2024-05-25 15:15:01
三輪田米山の場合、神職を全うするのは本意ではなかったのでしょうね。
長男として、やむを得ず、地方に留まり、そこで浴びるほど酒を飲んで、筆をとったのでしょう。
しかし、歳とともに少しずつまるくなっていったのですね。
それを円熟というべきか、諦観というべきか・・・人間ですから両方が混ざっている。
まさに、書は人なり、ですね(^.^)
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ぽぽさんへ (遅生)
2024-05-25 15:25:55
いやいや、ぽぽさんの言う通りです。
米山の他の書に較べると、今回の紙は圧倒的に白いです。
私も、一瞬、贋物か?と思ったほどです(^^;
米山の書は、村人が家に保管していたものがほとんどです。表具は凝っておらず、どこかに虫食いや破れがあることが多く、紙の変色もすすんでいます。実は、それが真贋見極めの一つなのです(^^;
ところが、たまに今回のような品に出合います。すわ贋物!?
でも、これだけ字数が多いと、真似て書くのは至難の技です(^.^)
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