久しぶりの面白古文書です。
以前にブログに紹介していた『吾妻美屋稀 五編全』の後半を順次アップしていきます。
『吾妻美屋稀 五編全』24丁、嘉永四年。12.1㎝x」17.8㎝。
今回は、「のみ升よひ升 酒問答升づくし」。
酒呑みと酒嫌いが、それぞれ、一升から九升まで、狂歌を読みます。
上下で対になっている所もありますが、そのまま4分割してのせます。
酒のみ狂歌
・世の中に楽ミにのむ酒なれバ のんでくらすが壱升のとく(世の中に、楽しみに呑む酒なれば、呑んで暮らすが一生の得)
・極楽ハしま黄金と聞なれど さけなき國ハアヽなに二升(極楽は、紫磨黄金と聞くなれど、酒なき國はアヽ何にしょう)
【紫磨黄金】紫色を帯びた純粋の黄金。
・雨風のよはをも何のいとひなく さけと聞たらいそぎ三升(雨風の、夜半をも何の厭ひなく、酒と聞いたら急ぎ参上)
・ならハねば諸芸する事かなふまじ 酒ばかりにハゐらぬお四升(習はねば、諸芸する事も叶ふまじ、酒ばかりには要らぬ御師匠)
・あひ押へ手元ミよふとむり酒を ひとつすけるも五升なりけり(相押へ、手元見ようと無理酒を、一つ助けるも後生なりけり)
【助る(すける)】手助けする
・花のあした月のゆふべや雪のくれ のんでくらすでおもし六升(花の明日、月の夕べや雪の暮れ、呑んで暮らすで面白くしよう)
・身のほどを弁へてのむさけならバ 七升までのかんどうもなし(身の程を、弁(わきま)へて呑む酒ならば、七生までの勘当も無し)
【七生までの勘当】人はこの世で七回まで生まれ変われるという、その七回の生の極限までの勘当。未来永遠にわたっての勘当。
・陶淵明李白がやうに酒のんで すゑの世までも名をバ八升(陶淵明、李白が様に酒呑んで、末の世までも名をば発祥)
・酒のんでいからずなかずきげんやう わらひ上戸をふ九升といふ(酒呑んで、怒らず、泣かず、機嫌よう、笑ひ上戸を福祥と言ふ)
・長命の薬ともなるさけなれバ 楽しミてのめせけん壱斗(長命の、薬ともなる酒なれば、楽しみて呑め、世間一統) 【世間一統】世間いたるところ
酒ぎらひ狂歌
・長命の薬になるか知らねども のまずにくらす人も壱升(長命の、薬になるか知らねども、呑まずに暮らす人も一生)
・呑ときハ口に辛く酔つぶれ 苦しきものをアヽなに二升(呑む時は、辛く酔いつぶれ、苦しきものをアヽ何にしよう)
・酒のんでめうと喧嘩の挨拶に おたのミならバ急ぎ三升(酒呑んで、夫婦喧嘩の挨拶に、御頼みならば急ぎ参上)
・若い衆の酒をものまずその身をバ つヽしむ人ぞ四升なりけり(若い衆の、酒を呑まずその身をば、慎む人ぞ殊勝なりけり)
・酒ゆへに身を持くづす人あらば ゐけんしてやれ是も五升ぞ(酒故に、身を持ち崩す人あらば、意見してやれ是も後生ぞ)
・すけませふお合いたそとのミ過し 後ハまなこをしろく六升(助ませふ、お合いたそと呑み過し、後は眼を白黒くしよう)
・我(われ)人も色と酒とにくすおれバ これ七升のかんどうのたね(我人も、色と酒とに頽おれば、これ七生の勘当の種)【七生の勘当】前述
・呑過し喧嘩口ろんなげうちを すれバ悪名世にも八升(呑過し、喧嘩口論投打を、すれば悪名世にも発祥)
【投打】物を投げつけて相手を打つ
・上戸にも笑ふもあれバおこるあり しかしいやなる物はな九升(上戸にも、笑ふもあれば怒るあり、しかし厭なる物は泣く性)
・酒のミといへども多くそのさけに のまるヽ人ぞ世間壱斗(酒呑と、言へども多くその酒に、呑まるヽ人ぞ世間一統) 【世間一統】前述