そんなこんなで結局、出発は、当初の予定よりだいぶ遅れてしまった。
でも、とてもすがすがしい気分だった。
「じゃあな!」
「またね!」
「ワンッ!」
おれたちにこだまするように、みんなが笑って手を振る。
「おう!」
「元気でね!」
「じゃあな。もう、こけんなよ!」
「まーーたなーーぁっ」 (※『たーまやー』の響きで)
みんながいる。笑っている。
故郷(ふるさと)、なんて言うとクサいけど。故郷は、優しかった。
おれの、胸を張って誇れる、たった一つの場所。
―――余談だが、おれたちが道の向こうに消えた、少し後のオハナシ。
「せいあさんたち、行っちゃった…」
ヒトデが道の向こうを見つめたまま、寂しそうにつぶやいた。
すると、そばでその様子を見ていたヨースケが、ヒトデに声をかけた。
「…ヒトデちゃん。君の名前って、漢字でどう書くか知ってる?」
出たっ。お得意の漢字攻撃。
「え…?」
ヒトデがヨースケを見上げた。
「“海の星”って書くんだよ。それで『海星(ひとで)』。武蔵やせいあちゃんや…オレたちが大好きな『海』と、せいあちゃんの名前と同じ『星』。だから、その…きっといつかヒトデちゃんも、誰かの“星”になれるよ」
「………っ」
クサっ。クサすぎる。言ってて恥ずかしくねーのか、ヨースケ。だけど、
「ヨースケさん…」
ヒトデは、キラキラした瞳でヨースケを見つめている。
…。2人が幸せそうだから、もう、いい。
2人と1匹で…もとい、3人で一緒に道を歩きつづけながら、傍らのせいあに、ぶすっとして言った。
「お前、あんなまどろっこしいこと、するんじゃねぇよ」
「え、何のこと」
彼女は少し驚いて、おれの顔を見上げた。どうやら、本当に分かっていないようだ。
「わざわざリズや樹里に、荷物やラウ持たせといて、あんなこと言いやがって。お前、おれのこと試したんか」
「ああ」
ようやく彼女は、ピンときたようだった。だが彼女は、いつもどおりの無愛想な表情(かお)で、平然と続ける。
「武蔵。あんた、3年前、あの街出ていくとき、リズさんにも、『おれと、この街出ないか』って言ったんだよ」
「へぁ!?」
すごいヘンな声が出た。彼女は、少しウンザリした様子で言った。
≪つづく≫
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でも、とてもすがすがしい気分だった。
「じゃあな!」
「またね!」
「ワンッ!」
おれたちにこだまするように、みんなが笑って手を振る。
「おう!」
「元気でね!」
「じゃあな。もう、こけんなよ!」
「まーーたなーーぁっ」 (※『たーまやー』の響きで)
みんながいる。笑っている。
故郷(ふるさと)、なんて言うとクサいけど。故郷は、優しかった。
おれの、胸を張って誇れる、たった一つの場所。
―――余談だが、おれたちが道の向こうに消えた、少し後のオハナシ。
「せいあさんたち、行っちゃった…」
ヒトデが道の向こうを見つめたまま、寂しそうにつぶやいた。
すると、そばでその様子を見ていたヨースケが、ヒトデに声をかけた。
「…ヒトデちゃん。君の名前って、漢字でどう書くか知ってる?」
出たっ。お得意の漢字攻撃。
「え…?」
ヒトデがヨースケを見上げた。
「“海の星”って書くんだよ。それで『海星(ひとで)』。武蔵やせいあちゃんや…オレたちが大好きな『海』と、せいあちゃんの名前と同じ『星』。だから、その…きっといつかヒトデちゃんも、誰かの“星”になれるよ」
「………っ」
クサっ。クサすぎる。言ってて恥ずかしくねーのか、ヨースケ。だけど、
「ヨースケさん…」
ヒトデは、キラキラした瞳でヨースケを見つめている。
…。2人が幸せそうだから、もう、いい。
2人と1匹で…もとい、3人で一緒に道を歩きつづけながら、傍らのせいあに、ぶすっとして言った。
「お前、あんなまどろっこしいこと、するんじゃねぇよ」
「え、何のこと」
彼女は少し驚いて、おれの顔を見上げた。どうやら、本当に分かっていないようだ。
「わざわざリズや樹里に、荷物やラウ持たせといて、あんなこと言いやがって。お前、おれのこと試したんか」
「ああ」
ようやく彼女は、ピンときたようだった。だが彼女は、いつもどおりの無愛想な表情(かお)で、平然と続ける。
「武蔵。あんた、3年前、あの街出ていくとき、リズさんにも、『おれと、この街出ないか』って言ったんだよ」
「へぁ!?」
すごいヘンな声が出た。彼女は、少しウンザリした様子で言った。
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