珍友*ダイアリー

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』最終話

2006-09-30 15:33:22 | 第八章 旅立ち
「でもリズさん、そん時、武蔵、困らせよーと思って、『あたし行かない』って、答えたらしいのよ。…そしたらあんた、口ポカンと開けて、すぐ、『あっ、そう。じゃー、おれ1人で行くわ』って、答えたんだって。リズさん、そんなあんたにゲンメツして、フッてやったって言ってたよ。憶えてないの?」
「…」
 そんなことあったっけ。…。ごめん、リズ。もう忘れた。でも、京太郎がこの世に生まれてきたから、いいじゃん。
 すると彼女は、そんなおれの思いを見透かすように、
「ま、リズさん、『どーせ、武蔵のことだから、全然憶えてないだろーけどね』って、大笑いしてたけど」
 と、皮肉をこめて言った。
 おれは図星で、ちょっとくやしかったから、彼女に聞いてみた。
「お前さぁ、あの時もしも、おれが口ポカンと開けて、『あっ、そう。じゃー、おれ1人で行くわ』って言ってたら、どうしたよ」
 すると彼女はそれには答えずに、いたずらっぽく笑うと、かわりに、彼女の大好きな歌を口ずさみはじめた。そこにすぐに、おれの野太い歌声が重なる。
「へたくそ」
 彼女はズバッと言い放った。
「うっせ」
 おれは彼女の頭を、ドアをノックするように、1回軽く小突いた。
 どうせ、ここまでしか、まだ歌えないんだけど。
 …つーか、おそらく、こいつには一生かなうまい。
 ウンザリするけど、まあ、いいや。
 ちなみに、断じてマゾのMではない。
 …誰かがつけてくれた大切な名前。
 彼女に聞いた。
「これから、どこ行こうか」
 すると彼女は、少し考えて、
「ヒマワリ、見たいな」
 と、答えた。
「よし」
 見に行こう。夏の終わりは近づいているけれど、きっとまだ咲いている。そんな気がする。
「ワンッ!」
 おれたちのすぐそばをトコトコ歩いてついてきているラウが、おれと彼女の足の間に割り込んできて、元気な声で吠えた。でも、尻尾、振っている。
 2人で顔を見合わせて笑った。
 そして
 おれたちはそっと、手を繋いだ。

 握りしめた彼女の手は、やっぱり小さくて。
 でも
 ―――なあ、せいあ。
 お前の手、今、あったかいよ。
                          ≪完≫

ご愛読、ありがとうございましたm(_ _)m
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