珍友*ダイアリー

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第七十話

2006-09-30 15:34:08 | 第八章 旅立ち
「武蔵さん」
 太一に呼びかけられて、振り向いた。彼は嬉しそうに、こう言った。
「マナがね、武蔵さんとせいあのこと伝えたら、すごく喜んでたんスよ。『いつかこの街に帰ってきたら、いろんな話聞かせてね。あ、でも、今度はお土産買ってきてね』って」
 思わず笑った。太一は続けた。でも彼は、今はもう、真面目な顔だった。
「あいつ、あの手術のとき…本当にヤバかったんです」
 “ヤバい”。その言葉の重みが、おれたちが普段使っているそれとは、全く違うのだと分かる。おれの笑顔も、すっと引いた。
「…うん」
「あいつ、ほんとは、『今年は、花火見れないね』って言ったんじゃないんです」
「え?」
 太一の声が震えていた。
「あいつ、あの時、ほんとは…『最後の花火、見たかった』って言ったんです」
「……っ」
 言葉に詰まった。見舞いに行った時の、マナの無邪気な笑顔を思い出して、胸が痛んだ。
 だけど太一は、瞳に涙を滲ませながら、明るく言った。
「だから、あの打ち上げ花火見たとき、あいつ、ほんとに嬉しかったんだと思います。マナが中央に移る日、鉄平に言った言葉、あれ、きっと本心だから」
 “死なないよ。絶対。私、がんばるから。”マナの言葉と、その時の、力強い光が宿った瞳を思い出した。
「うん」
「あいつがそんな風に思える元気が出たの、武蔵さんのおかげっス」
「え」
 太一は少し照れ臭そうに言った。
「武蔵さんが、花火用意しようと、がんばってくれたから」
「んなことねぇよ」
 ちょっと照れたけど、いや。マジで、そんなことない。だってあの花火には、たくさんの人の、マナへの思いが詰まっていた。それが夜空で弾けて、マナに光を、降らせたんだ。
「いや、マジで。武蔵さんが一番最初に茂さんにかけ合ってくれなかったら、おれたち、あいつに花火見せること、できなかった。だから…」
 太一は『本当に、ありがとうございました』と言って、頭を深く下げた。顔を上げた時の太一の笑顔は、目が赤かった。
 …。『こいつ、すごいな』と思った。人に面と向かって『ありがとう』って言えるやつ、すげーよ。太一って、妹思いで、涙もろくて、素直で。昔から、こーゆー奴なんだよな。
「ズビーーーーッ」
「!?」
 おれたちの横で、太一と同じように赤い目をした刃が、鼻を啜っていた。彼は、おれたちの視線に気づくと、くるっと後ろを振り向いて、黙った。
 …。刃。お前、花粉症だったっけ。
 思わず苦笑した。
 素直じゃねぇな、おれは。
                      ≪つづく≫

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1 コメント

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うひゃひゃ (しのぶ)
2006-07-01 14:07:39
わぁぁん切なすぎる!切ない!

マナさんの言葉、感動しすぎでポロリ

『笑顔の裏の闇』って感じでぅる②来ちゃいました・・・

打ち上げ花火見れてよかったねっっ





希望通り(え)沙夜乃復活!!

もう誰が主人公なのかゎからんくなってきました((笑”

つか、主人公ぃるのか?って感じですが(笑

でも、ぁたしも沙夜乃びーきヵモ【死/笑



トランプリン入れて欲しいッス★藁

体固くて硬直状態で落下

ってことが可能性大ですがねっ

その時はヘントコの私をどうぞョロ
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