「でもリズさん、そん時、武蔵、困らせよーと思って、『あたし行かない』って、答えたらしいのよ。…そしたらあんた、口ポカンと開けて、すぐ、『あっ、そう。じゃー、おれ1人で行くわ』って、答えたんだって。リズさん、そんなあんたにゲンメツして、フッてやったって言ってたよ。憶えてないの?」
「…」
そんなことあったっけ。…。ごめん、リズ。もう忘れた。でも、京太郎がこの世に生まれてきたから、いいじゃん。
すると彼女は、そんなおれの思いを見透かすように、
「ま、リズさん、『どーせ、武蔵のことだから、全然憶えてないだろーけどね』って、大笑いしてたけど」
と、皮肉をこめて言った。
おれは図星で、ちょっとくやしかったから、彼女に聞いてみた。
「お前さぁ、あの時もしも、おれが口ポカンと開けて、『あっ、そう。じゃー、おれ1人で行くわ』って言ってたら、どうしたよ」
すると彼女はそれには答えずに、いたずらっぽく笑うと、かわりに、彼女の大好きな歌を口ずさみはじめた。そこにすぐに、おれの野太い歌声が重なる。
「へたくそ」
彼女はズバッと言い放った。
「うっせ」
おれは彼女の頭を、ドアをノックするように、1回軽く小突いた。
どうせ、ここまでしか、まだ歌えないんだけど。
…つーか、おそらく、こいつには一生かなうまい。
ウンザリするけど、まあ、いいや。
ちなみに、断じてマゾのMではない。
…誰かがつけてくれた大切な名前。
彼女に聞いた。
「これから、どこ行こうか」
すると彼女は、少し考えて、
「ヒマワリ、見たいな」
と、答えた。
「よし」
見に行こう。夏の終わりは近づいているけれど、きっとまだ咲いている。そんな気がする。
「ワンッ!」
おれたちのすぐそばをトコトコ歩いてついてきているラウが、おれと彼女の足の間に割り込んできて、元気な声で吠えた。でも、尻尾、振っている。
2人で顔を見合わせて笑った。
そして
おれたちはそっと、手を繋いだ。
握りしめた彼女の手は、やっぱり小さくて。
でも
―――なあ、せいあ。
お前の手、今、あったかいよ。
≪完≫
ご愛読、ありがとうございましたm(_ _)m
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「…」
そんなことあったっけ。…。ごめん、リズ。もう忘れた。でも、京太郎がこの世に生まれてきたから、いいじゃん。
すると彼女は、そんなおれの思いを見透かすように、
「ま、リズさん、『どーせ、武蔵のことだから、全然憶えてないだろーけどね』って、大笑いしてたけど」
と、皮肉をこめて言った。
おれは図星で、ちょっとくやしかったから、彼女に聞いてみた。
「お前さぁ、あの時もしも、おれが口ポカンと開けて、『あっ、そう。じゃー、おれ1人で行くわ』って言ってたら、どうしたよ」
すると彼女はそれには答えずに、いたずらっぽく笑うと、かわりに、彼女の大好きな歌を口ずさみはじめた。そこにすぐに、おれの野太い歌声が重なる。
「へたくそ」
彼女はズバッと言い放った。
「うっせ」
おれは彼女の頭を、ドアをノックするように、1回軽く小突いた。
どうせ、ここまでしか、まだ歌えないんだけど。
…つーか、おそらく、こいつには一生かなうまい。
ウンザリするけど、まあ、いいや。
ちなみに、断じてマゾのMではない。
…誰かがつけてくれた大切な名前。
彼女に聞いた。
「これから、どこ行こうか」
すると彼女は、少し考えて、
「ヒマワリ、見たいな」
と、答えた。
「よし」
見に行こう。夏の終わりは近づいているけれど、きっとまだ咲いている。そんな気がする。
「ワンッ!」
おれたちのすぐそばをトコトコ歩いてついてきているラウが、おれと彼女の足の間に割り込んできて、元気な声で吠えた。でも、尻尾、振っている。
2人で顔を見合わせて笑った。
そして
おれたちはそっと、手を繋いだ。
握りしめた彼女の手は、やっぱり小さくて。
でも
―――なあ、せいあ。
お前の手、今、あったかいよ。
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