「これ、見て」
おれは彼女に、自分の左肩を指し示した。
「これ…っ」
彼女は息を呑んで、おれの左肩を見つめた。
おれの右の人差し指の先は、かつて、小さな十字架の刺青があった場所。
今は薄紅色の、薄皮がつっぱったような肌が剥き出しになっていて少しくぼんでる。周りの日に焼けた浅黒い肌の色とは、似ても似つかないピンク色。
悲しすぎるほどちっぽけで、思わず見落としてしまいそうなほど小さな、空間。
―――この場所に昔、刺青を彫ってもらった知り合いの彫師に、また無理を言って、今度は肌を削いでもらった。
金がなかった。
バイトをいくつもかけもちした。
ダチの家を泊まり歩いた。
公園のベンチで眠った夜も、バイト先でそのまま朝を迎えたこともある。
ギャンブルの類は一切しなかった。
酒もタバコも、ほどほどにした。
ほんの小さな刺青を「消す」ことが、こんなに大変なことだとは思わなかった。
傷ひとつなく産んでもらった自分の体を、自分で傷つけたことを、初めて悔やんだ。
『ガーリック』の店長に向かって得意げに笑っていた日の自分を、嗤って、罵った。
その夜は、酒にすがって気持ちを紛らせた。
目覚めた朝に後悔した。
おれのできる限りの超極貧生活。
…だから、何。
つまりは
「ずっと、お前を抱きしめたかった…」
つまりはそういうこと。
おれの腕の中で、彼女はつぶやいた。
「お金、いらないから」
そう言うと、泣きながら笑って、でもやっぱり、泣いて、おれに、抱きついた。
≪つづく≫
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おれは彼女に、自分の左肩を指し示した。
「これ…っ」
彼女は息を呑んで、おれの左肩を見つめた。
おれの右の人差し指の先は、かつて、小さな十字架の刺青があった場所。
今は薄紅色の、薄皮がつっぱったような肌が剥き出しになっていて少しくぼんでる。周りの日に焼けた浅黒い肌の色とは、似ても似つかないピンク色。
悲しすぎるほどちっぽけで、思わず見落としてしまいそうなほど小さな、空間。
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金がなかった。
バイトをいくつもかけもちした。
ダチの家を泊まり歩いた。
公園のベンチで眠った夜も、バイト先でそのまま朝を迎えたこともある。
ギャンブルの類は一切しなかった。
酒もタバコも、ほどほどにした。
ほんの小さな刺青を「消す」ことが、こんなに大変なことだとは思わなかった。
傷ひとつなく産んでもらった自分の体を、自分で傷つけたことを、初めて悔やんだ。
『ガーリック』の店長に向かって得意げに笑っていた日の自分を、嗤って、罵った。
その夜は、酒にすがって気持ちを紛らせた。
目覚めた朝に後悔した。
おれのできる限りの超極貧生活。
…だから、何。
つまりは
「ずっと、お前を抱きしめたかった…」
つまりはそういうこと。
おれの腕の中で、彼女はつぶやいた。
「お金、いらないから」
そう言うと、泣きながら笑って、でもやっぱり、泣いて、おれに、抱きついた。
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