その夜の寝物語。
2人とも、服を着たままベッドに入った。
左腕で彼女に腕枕したまま、聞いてみた。
「なー、せいあー。お前、ラウ拾ってきた時、あいつに、『オメー、あたしの飯が食えないのかー』って言ったらしいな」
「…それ、ビミョーに違う」
彼女は呆れた顔をした。
「そうだっけ」
「あたしは、『このくたばり損ないが。死にたくなかったら、食え』って言ったの」
「そうそれ。よく憶えてんな」
思い出した。
すると彼女は、ベッドの下で丸まって、すやすやと眠っているラウを振り向いた。そして、そんな彼をほほえましく見ているような声で言った。
「あたしあの時ね、自分にも言い聞かせるつもりで言ったの。…あの頃あたし、娼婦はじめて一年くらい経ってたけど、なんか疲れてて」
「へー…」
こいつにもあったんだ、そんな頃。
彼女は、おれに振り返って、微笑みながら続けた。
「でね、そんな時、ラウに出会ったんだー。あの子ね、あたしが仕事帰りに雨に降られて、軒下で雨宿りしてたら、隅っこの方にぽつんと座ってたの。同(おんな)じように、雨、見てたんだ…」
今夜はよく喋るなぁ。
そんなこと思ってたら、
「…ほんとはあの子、首輪してたの」
と、彼女がぽつんと言った。
「え」
聞き逃しそうなほど小さな声。少しうつむいた寂しそうな表情(かお)。過去を見る瞳(め)に、ちょっと似ている。
「ボロボロになって、ちぎれかかってて、それでも首に喰い込んでるの。あたし、気づいたらかけ寄ってて、首輪掴んで外そうとしてたの。警戒されて、何度も手、噛み付かれて。でも、どうしても、外してあげたかったんだ…」
「うん」
胸が、少し、痛い。
「やっとのことで外れてね。…ってゆーか、そう、ちぎれたんだ。こー、『ぶちっ』っと」
彼女は、自分の握った両の拳を、左右に引っ張るジェスチャーをした。それを見て思わず笑った。彼女も少し笑顔になって、でも、またすぐに、過去を見る。
≪つづく≫
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2人とも、服を着たままベッドに入った。
左腕で彼女に腕枕したまま、聞いてみた。
「なー、せいあー。お前、ラウ拾ってきた時、あいつに、『オメー、あたしの飯が食えないのかー』って言ったらしいな」
「…それ、ビミョーに違う」
彼女は呆れた顔をした。
「そうだっけ」
「あたしは、『このくたばり損ないが。死にたくなかったら、食え』って言ったの」
「そうそれ。よく憶えてんな」
思い出した。
すると彼女は、ベッドの下で丸まって、すやすやと眠っているラウを振り向いた。そして、そんな彼をほほえましく見ているような声で言った。
「あたしあの時ね、自分にも言い聞かせるつもりで言ったの。…あの頃あたし、娼婦はじめて一年くらい経ってたけど、なんか疲れてて」
「へー…」
こいつにもあったんだ、そんな頃。
彼女は、おれに振り返って、微笑みながら続けた。
「でね、そんな時、ラウに出会ったんだー。あの子ね、あたしが仕事帰りに雨に降られて、軒下で雨宿りしてたら、隅っこの方にぽつんと座ってたの。同(おんな)じように、雨、見てたんだ…」
今夜はよく喋るなぁ。
そんなこと思ってたら、
「…ほんとはあの子、首輪してたの」
と、彼女がぽつんと言った。
「え」
聞き逃しそうなほど小さな声。少しうつむいた寂しそうな表情(かお)。過去を見る瞳(め)に、ちょっと似ている。
「ボロボロになって、ちぎれかかってて、それでも首に喰い込んでるの。あたし、気づいたらかけ寄ってて、首輪掴んで外そうとしてたの。警戒されて、何度も手、噛み付かれて。でも、どうしても、外してあげたかったんだ…」
「うん」
胸が、少し、痛い。
「やっとのことで外れてね。…ってゆーか、そう、ちぎれたんだ。こー、『ぶちっ』っと」
彼女は、自分の握った両の拳を、左右に引っ張るジェスチャーをした。それを見て思わず笑った。彼女も少し笑顔になって、でも、またすぐに、過去を見る。
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