珍友*ダイアリー

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第六十一話

2006-09-30 15:30:10 | 第七章 海に こだまする
「…シ。武蔵!」
 せいあの声と、両肩を揺さぶられている感覚で、ハッと目が覚めた。
 視界に、暗いバスの天井と壁との接点のあたりが飛び込んでくる。
「あ…」
 吐き出す息に溶けた、小さな声がもれた。
 速すぎる胸の鼓動を押さえつけるように息を継いだまま、ゆっくりと傍らの彼女を見ると、彼女は心配そうな悲しい表情(かお)で、おれの顔を見つめていた。
「どうしたの…。うなされてたよ」
 泣き出しそうな声で尋ねられた。
「うそ。笑ってた」
「どっち」
 ウケた。同じ表情と声で、淡々と言うもんだから。
 相変わらず、器用なやつ。だが、
「汗びっしょり」
 そう言うと彼女は、おれのタンクトップの胸元にそっと手をのばした。指先がすぐに、肌に触れる。
 あ…そういえば、おれ、ほんと汗だく。
 彼女の掌は、火照った体には気持ちいい冷たさだった。
 少しだけ、汗がひいた気がした。
 呼吸が穏やかになった。
「なんの夢、見てたの」
 彼女が、おれの汗を拭うように、優しく肌を撫でながら、悲しい表情のままで尋ねてきた。
「ナイショ」
 おれは多分、きっと同じ表情(かお)で、そう答えると、彼女に腕枕していた左腕で、そのまま彼女の肩を抱き寄せた。両腕でぎゅっと抱きしめる。彼女の頭に、顔をすり寄せた。
 彼女は、びっくりするほど小さくて、細くて、柔らかくて。
 だけど、しなやかで、強かで。
 きっと、おれなんか、いなくていいのかもしれないけど、そんなこと、言わせない。
 そばに、いさせて。
「…武蔵?」
 おれが、あまりにも長い間、そうしているもんだから、彼女が不思議そうな顔をあげた。
「恐い夢、見たの?」
 優しい声だった。
 …母ちゃんって、こんな感じだったっけ。
 腕の中の彼女の顔をちゃんと見ると、彼女は、おれの顔を見て、優しく微笑んでいた。
                         ≪つづく≫

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