彼女が小さな欠伸をした。
「眠ったら?」
声をかけた。
「…うん」
彼女が、とろんとした瞳で、おれを見上げて小さくうなずく。
「ゆっくり、休んで」
びっくりした。泣きそうな顔をしてるはずなのに、自分の声は、びっくりするぐらい優しかった。
「うん」
おれの様子に気づいたのか、彼女はさきほどと同じ瞳(め)で少し笑うと、やがて、深い眠りにおちていった。
それからだいぶ長い時間が経った。いや、本当はそんなに経っていないのかもしれない。
でも時間の感覚なんて、今はもう、どうだっていいやぁ…
彼女は、おれのすぐ傍らで、すーすーと、小さな寝息をたてて眠っている。
その寝顔はやっぱり。
かーわーいー。
えー、も少し見とく?も少し見とく?…って、コレじゃ、おれ、ヘンタイじゃん。
…。
寝るか。
おれの左腕を枕にして眠りつづける彼女の顔を、もう一度見た。
そのままそっと、左手で梳くようにして、彼女の髪を撫でた。
生欠伸を噛み殺した時、ふと、彼女の左腕の傷痕が目に入った。
おれの視界の右端で、周りの暗闇よりも黒い暗闇を、深く、深く、広げている。
『お前にあの子を癒せるか?』
不意に、サラ婆の言葉が甦った。
…なあ、サラ婆。
おれ、そんなのできねぇよ。
だって、こいつの心の傷、きっと一生消えねぇもん。
けどさぁ。それでも。…こんなの、ダメ?
…おれも、一生、苦しむから。
彼女の肩を抱き寄せた。
小さな額にキスをした。
抱きしめて、目をつぶって、「彼女だけに聞こえるように」と、祈りながら、つぶやいた。
――――ずっと いっしょに いてくださいーーーー
そっと目を開けたら、涙が二筋流れた。
小さな『部屋』の中に、おれの鼻を啜る音と彼女の規則ただしい小さな寝息がきこえる
遠くの方から、彼女の寝息と同じぐらい静かな波の音が、途切れ途切れにきこえた
窓を見た。
外はもう、夜明け前。
* * *
≪つづく≫
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「眠ったら?」
声をかけた。
「…うん」
彼女が、とろんとした瞳で、おれを見上げて小さくうなずく。
「ゆっくり、休んで」
びっくりした。泣きそうな顔をしてるはずなのに、自分の声は、びっくりするぐらい優しかった。
「うん」
おれの様子に気づいたのか、彼女はさきほどと同じ瞳(め)で少し笑うと、やがて、深い眠りにおちていった。
それからだいぶ長い時間が経った。いや、本当はそんなに経っていないのかもしれない。
でも時間の感覚なんて、今はもう、どうだっていいやぁ…
彼女は、おれのすぐ傍らで、すーすーと、小さな寝息をたてて眠っている。
その寝顔はやっぱり。
かーわーいー。
えー、も少し見とく?も少し見とく?…って、コレじゃ、おれ、ヘンタイじゃん。
…。
寝るか。
おれの左腕を枕にして眠りつづける彼女の顔を、もう一度見た。
そのままそっと、左手で梳くようにして、彼女の髪を撫でた。
生欠伸を噛み殺した時、ふと、彼女の左腕の傷痕が目に入った。
おれの視界の右端で、周りの暗闇よりも黒い暗闇を、深く、深く、広げている。
『お前にあの子を癒せるか?』
不意に、サラ婆の言葉が甦った。
…なあ、サラ婆。
おれ、そんなのできねぇよ。
だって、こいつの心の傷、きっと一生消えねぇもん。
けどさぁ。それでも。…こんなの、ダメ?
…おれも、一生、苦しむから。
彼女の肩を抱き寄せた。
小さな額にキスをした。
抱きしめて、目をつぶって、「彼女だけに聞こえるように」と、祈りながら、つぶやいた。
――――ずっと いっしょに いてくださいーーーー
そっと目を開けたら、涙が二筋流れた。
小さな『部屋』の中に、おれの鼻を啜る音と彼女の規則ただしい小さな寝息がきこえる
遠くの方から、彼女の寝息と同じぐらい静かな波の音が、途切れ途切れにきこえた
窓を見た。
外はもう、夜明け前。
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