珍友*ダイアリー

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第五十六話

2006-09-30 15:32:10 | 第七章 海に こだまする
 彼女の左腕のバンダナをちらりと見て、もう1度目を合わせた。
 彼女が小さく、うなずいた。
 彼女に手をのばして、ゆっくりとバンダナをほどいた。
 目の前に、ケロイドのような、赤黒い、無数の傷痕が現れる。
 そっと触れてみると、でこぼこしていて、固かった。
 彼女の体は小さく震えていた。
 その震えを押さえるだけの力で、そっと彼女の両肩に、両手をおいた。
 傷痕に口を近づけて、ぺロッと舐めてみた。瞬間、彼女の体がビクッと動いた。
 顔をあげて、彼女の目を見た。
 ダイジョウブ。
 そう目だけで合図して、再び顔を下ろした。
 腕を掴み、傷痕に口を近づけて、噛み付く。
「……ツッ!」 
 彼女が悲痛の声をあげる。だが、おれは己の牙を抜かない。
 傷痕から血を吸いつくすように、牙と唇を離さない。
 やがて、
 彼女は声をあげなくなった。
 そして、
 感じるはずのない彼女の血の味が、おれの口の中に広がった。
 その瞬間、両目から涙がこぼれた。
 そのまま彼女の両肩をぎゅっと掴んで、左肩に顔をうずめて、咆えるようにして泣いた。
 彼女は何も言わなかった。
 おれはしばらく、自分の体の震えと嗚咽を、止めることができなかった。

 最後にそっと、傷痕に口づけた。
 顔をあげて、彼女の顔を見る。
 ごめんね
 涙で濡れた彼女の頬を、掌で拭った。
 今すぐ抱きしめたいけれど、その前に、云わなきゃいけないことが、ある。
                                ≪つづく≫

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