おれの目線が、何故かだいぶ下にあった。
―――あれ。
手ェ、ちっちぇえ。何だ、コレ。
ふと顔をあげると、そこに、おれによく似た男が立っていた。
不精ヒゲに、無造作に少しのびた髪。だけど18のおれより、まだデカくて。また更に老けてて。
息を呑んだ。
「親父…」
つぶやいて、思わず口に手をやった。
何だ、この声?高くて、なんか、くすぐったい声。
見上げると、親父は、無表情でそこに佇んでいた。
よく見ると、別れた時と同じ年恰好(すがた)。
ああ。コレ、夢なんだ。
何故か、冷静にそう思えた。
自分の右の掌を見つめる。
おれ、今、ガキになってんだ。
もう一度、親父を見上げた。同じ表情で、まだそこにいる。
鼻で嗤った。
「あんたさぁ、何、今ごろ出てきてんの。あんた、おれのこと棄てたんだよ?」
似合わねー。自分の声じゃねぇ。…自分の声なんだけど。
咳払いをして、わざとつぶした声で言ってみた。
「あ゛――。お゛れ゛」
…ダメ。ムリ。
…。どうせ夢なら。
「僕」
この方が、この声には似つかわしい。
「棄てられたのは構わないけどさぁ」
また、こんなこと。違う。…もういいや。夢だっ、夢っ。
「僕、ほんとは嫌だったよ」
親父を真っすぐ見て、言った。親父は困惑した表情(かお)をしていた。
おれ今、きっと、同じ表情(かお)。
もっと何か言いたかったけど、ムリ。
反射的にそっぽを向くと、そこにもう1人、親父と同じ背丈くらいの男が立っていた。
左の鎖骨の上に、小さな十字架の刺青。目を見張った。
「テメエ…!」
つかみかかった。でも、男の腰ほどまでしか背丈のないおれは、いとも簡単に、片手で頭を掴まれてしまった。
痛え。すげー力…。
こめかみがキリキリ痛む。
震えてのけぞりながら、でも、絶対、離さない。
見上げた顔は、おれを見下して嘲(わら)っていた。
「テメエも、せいあを棄てたんだ…」
男の顔を睨んで言った。怒りと男の力で、体が震える。腰の辺りの服をぎゅっと掴んで、足を踏んばった。
「どうせ棄てるんなら、余計な傷つくるんじゃねーよ!!」
棄てられたら、それだけで、こんなにかなしいのに。
叫んだ瞬間、おれの体が宙に浮いた。かと思うと、粘土の塊を打ちつけるみたいに、地面に思いっきり叩きつけられた。
「………ッ」
顎と体を激しく打った。うつぶせになったまま、すぐに男を見上げると、男はすでに後ろを向いて、歩き出していた。
「おい、待てよっ!!」
金切り声をあげた。痛ッ。なんで体、動かねーんだよ。
男が、おれの親父に何か言った。顔は未だ、嘲(わら)っている。
情けねぇ…
涙が滲んだ。
だけど、その涙を乱暴に拭った腕は、18歳のおれの太さだった。
立ち上がった
二人を追いかけた
男の肩を掴んで、体を振り向かせて
一度も会ったことのない、せいあの父親の顔を
渾身の力で
殴った
≪つづく≫
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―――あれ。
手ェ、ちっちぇえ。何だ、コレ。
ふと顔をあげると、そこに、おれによく似た男が立っていた。
不精ヒゲに、無造作に少しのびた髪。だけど18のおれより、まだデカくて。また更に老けてて。
息を呑んだ。
「親父…」
つぶやいて、思わず口に手をやった。
何だ、この声?高くて、なんか、くすぐったい声。
見上げると、親父は、無表情でそこに佇んでいた。
よく見ると、別れた時と同じ年恰好(すがた)。
ああ。コレ、夢なんだ。
何故か、冷静にそう思えた。
自分の右の掌を見つめる。
おれ、今、ガキになってんだ。
もう一度、親父を見上げた。同じ表情で、まだそこにいる。
鼻で嗤った。
「あんたさぁ、何、今ごろ出てきてんの。あんた、おれのこと棄てたんだよ?」
似合わねー。自分の声じゃねぇ。…自分の声なんだけど。
咳払いをして、わざとつぶした声で言ってみた。
「あ゛――。お゛れ゛」
…ダメ。ムリ。
…。どうせ夢なら。
「僕」
この方が、この声には似つかわしい。
「棄てられたのは構わないけどさぁ」
また、こんなこと。違う。…もういいや。夢だっ、夢っ。
「僕、ほんとは嫌だったよ」
親父を真っすぐ見て、言った。親父は困惑した表情(かお)をしていた。
おれ今、きっと、同じ表情(かお)。
もっと何か言いたかったけど、ムリ。
反射的にそっぽを向くと、そこにもう1人、親父と同じ背丈くらいの男が立っていた。
左の鎖骨の上に、小さな十字架の刺青。目を見張った。
「テメエ…!」
つかみかかった。でも、男の腰ほどまでしか背丈のないおれは、いとも簡単に、片手で頭を掴まれてしまった。
痛え。すげー力…。
こめかみがキリキリ痛む。
震えてのけぞりながら、でも、絶対、離さない。
見上げた顔は、おれを見下して嘲(わら)っていた。
「テメエも、せいあを棄てたんだ…」
男の顔を睨んで言った。怒りと男の力で、体が震える。腰の辺りの服をぎゅっと掴んで、足を踏んばった。
「どうせ棄てるんなら、余計な傷つくるんじゃねーよ!!」
棄てられたら、それだけで、こんなにかなしいのに。
叫んだ瞬間、おれの体が宙に浮いた。かと思うと、粘土の塊を打ちつけるみたいに、地面に思いっきり叩きつけられた。
「………ッ」
顎と体を激しく打った。うつぶせになったまま、すぐに男を見上げると、男はすでに後ろを向いて、歩き出していた。
「おい、待てよっ!!」
金切り声をあげた。痛ッ。なんで体、動かねーんだよ。
男が、おれの親父に何か言った。顔は未だ、嘲(わら)っている。
情けねぇ…
涙が滲んだ。
だけど、その涙を乱暴に拭った腕は、18歳のおれの太さだった。
立ち上がった
二人を追いかけた
男の肩を掴んで、体を振り向かせて
一度も会ったことのない、せいあの父親の顔を
渾身の力で
殴った
≪つづく≫
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