珍友*ダイアリー

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第六十四話

2006-09-30 15:29:01 | 第七章 海に こだまする
 彼女が小さな欠伸をした。
「眠ったら?」
 声をかけた。
「…うん」
 彼女が、とろんとした瞳で、おれを見上げて小さくうなずく。
「ゆっくり、休んで」
 びっくりした。泣きそうな顔をしてるはずなのに、自分の声は、びっくりするぐらい優しかった。
「うん」
 おれの様子に気づいたのか、彼女はさきほどと同じ瞳(め)で少し笑うと、やがて、深い眠りにおちていった。

 
 それからだいぶ長い時間が経った。いや、本当はそんなに経っていないのかもしれない。
 でも時間の感覚なんて、今はもう、どうだっていいやぁ…
 彼女は、おれのすぐ傍らで、すーすーと、小さな寝息をたてて眠っている。
 その寝顔はやっぱり。
 かーわーいー。
 えー、も少し見とく?も少し見とく?…って、コレじゃ、おれ、ヘンタイじゃん。
 …。
 寝るか。
 おれの左腕を枕にして眠りつづける彼女の顔を、もう一度見た。
 そのままそっと、左手で梳くようにして、彼女の髪を撫でた。
 生欠伸を噛み殺した時、ふと、彼女の左腕の傷痕が目に入った。
 おれの視界の右端で、周りの暗闇よりも黒い暗闇を、深く、深く、広げている。
 『お前にあの子を癒せるか?』
 不意に、サラ婆の言葉が甦った。
 …なあ、サラ婆。
 おれ、そんなのできねぇよ。
 だって、こいつの心の傷、きっと一生消えねぇもん。
 けどさぁ。それでも。…こんなの、ダメ?
 …おれも、一生、苦しむから。

 彼女の肩を抱き寄せた。
 小さな額にキスをした。
 抱きしめて、目をつぶって、「彼女だけに聞こえるように」と、祈りながら、つぶやいた。
 ――――ずっと いっしょに いてくださいーーーー

 そっと目を開けたら、涙が二筋流れた。
 小さな『部屋』の中に、おれの鼻を啜る音と彼女の規則ただしい小さな寝息がきこえる
 
 遠くの方から、彼女の寝息と同じぐらい静かな波の音が、途切れ途切れにきこえた

 窓を見た。
 外はもう、夜明け前。
*            *            *

                           ≪つづく≫

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