まちづくりはFeel-Do Work!考えるより感じよう、みずから動き、汗をかこう!(旧“まちづくり”便利帳)

まちづくりの支援者から当事者へ。立ち位置の変化に応じて、実践で培った学びの記録。もう一人の自分へのメッセージ。

まちづくりにおける戦略の重要性

2008-06-03 01:37:51 | Personal Views
「四つの誓い」

(1)復興のためには女性の力が必要である。そこで女性が安心して働くことができるような環境をつくるために、まず公共保育所を建てることにしよう。それが街づくりの第一歩である。
(2)街の中心部の歴史的建造物と郊外の緑は、市の宝物である。この二つはあくまで保存し、維持しよう。
(3)「投機」を目的とした土地建物の売買は、お互いに禁じ合おう。
(4)市内の職人企業の工場については、業績がよくなっても増築しないようにしよう。どうしても増築したいときは、街の景観を守るために、熟練した職人による分社化を行おう。

--井上ひさし著『ボローニャ紀行』より

これは、第二次世界大戦後、イタリアのボローニャ市民たちが創った復興のための基本方針です。当時のボローニャは、イタリア中央政府と仲が悪かったため、国の復興資金を受けることができなかったそうで、資金面を含め、自らの力で立ち直らなければなりませんでした。厳しい条件にも拘らず、いやむしろ、だからこそと言うべきか、市民によって復興に向けた度重なる話し合いが行われ、その結果生まれたのが、「四つの誓い」でした。

当時の周囲の動向を見ると、復興の只中にあった60年代のイタリアでは、力ある都市は拡大路線を基調とする政策が主流を占めていました。今でこそ、コンパクトシティという考え方が普及するようになりましたが、70年代にいち早く拡大・成長を抑える方向に都市政策を大きく転換した代表格が、ボローニャであると言われています。確かに「四つの誓い」には、(2)と(4)の中にコンパクトシティの思想を窺うことができます。

現在のボローニャは、目玉となる観光資源や大企業を持たないものの、住民の自治意識の高さ、優れた中小企業の産業ネットワーク、歴史的建造物の保存再生、文化政策の重視などで国内外に広く知られ、イタリアのまちづくりに関する文献には頻繁に登場します。

日本でも「まちづくり」に関する活発な取り組みが行われるようになりましたが、地域の中でも、対象とするテーマや規模、取組む主体がバラバラで、地域の関係者が違う方向を向いていることも少なくありません。中心市街地の活性化を謳いながら、街なかの車を排除するために整備したバイパス道路が、逆に郊外化を招く原因となったという悲惨なケースもあります。
ボローニャの四つの誓いが戦略として正しいか否かは、私には判断できませんが、少なくとも「四つの誓い」を創るプロセスが、主体的な市民を育成し、個々のベクトルを同じ方向に束ね、市民が持つ力を最大限に引き出したことは間違いなさそうです。
もし、誓いが他者によって与えられたり、誓いそのものが市民の納得いくものでなかったとしたら、ボローニャが現在のように注目されることはなかったのではないかと思います。

まちづくりにおいては、理論や理屈よりも行動が重要であることに変わりませんが、時には立ち止まって周囲を見渡し、まちづくりの戦略について考えることが必要です。
地域が目指すゴールは何か、その妨げとなる制約は何か、制約を除去するために何をすべきか、誰がやるのが最適か等、行動の位置付けや外部との関係性(役割分担と連携)、期待できる効果等について皆で議論する。目の前の問題の大きさに比べたら、一見遠回りのように感じるかもしれません。しかし、戦略がなければ、せっかくの苦労や努力も無駄に終わるかもしれません。大きな問題に取り組む時こそ、「戦略」について今一度考える必要がありそうです。

ボローニャ紀行
井上 ひさし
文藝春秋

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※タイトルこそありきたりの見出しとなっていますが、私は「まちづくり」のレポートとして読みました。さすが劇作家とあって、特に文化的側面に関する記述が豊富なことに加え、「社会的発明とは何か」と題して、ボローニャの社会起業的な取組みの紹介まで登場するとは正直驚きました。
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