命のカウントダウン2(健康余命934日)

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失神について

2024-06-26 13:56:54 | 外来診療
20代前半の女性、母親に付き添われ、硬い表情で診察室に。
相当に深刻な事態なのか、私は思わず椅子を引いてしまう。私、シビアな話は苦手なのだ。職業上とてつもなく逃げがたい話題に対峙せざるを得ない事もしばしばなのだけれども。それでも、出来たら避けたいと思っているのです。

「どうしました。」
親子で目を合わせた後で、「倒れたんです。電車の中で」と、娘さんが か細く呟いた。
「意識がなくなったんです。」
「どれくらいの時間ですか」
「一分間くらいだと思いますけど」
「電車、混んでましたか。」
「はい、まぁまぁ」

「長時間立っていたのですよね」
「はい」

「倒れる前に目の前が暗くなったりしませんでしたか」
「目の前が暗くなってチカチカ星が飛びました」

「以前にもそんなことありませんでしたか」
「以前にはなかったのですが、最近になって、何回か同じようなことが起こっています」

会話の間、脈をとっていましたが、脈に乱れはありませんでした。てんかんの既往もありません。アトピー性皮膚炎は持病として持たれているようですが、他に疾患は無いとのこと。

「反射性失神の様ですね」
「は?」
再び親子で見つめあっています。

私は、ネット検索して、このページを二人に見せました。
「端的に言うと、自律神経の調節がうまく行かなくなって、一時的に脳に血液が行かなくなって気を失ったのです。倒れて頭の位置が低くなって、脳に血が通うようになると、何もなかった様に復活する。どこも壊れてないので。」

私の話を聞きながら、PC画面を目で追っていた二人の顔に少し安堵の色が滲んだ。
「大丈夫なのですか?」
「少なくとも、重大な病気ではないです。」

「どうすれば、なおりますか?」
「歳とって、おばさんになって図太くなれば治るかな。」
「そんなぁ」
こわばっていた娘さんの顔に微笑みがこぼれました。

「これまで、混んだ電車の中で長時間立っていなければなっていないのだから、それを避ければいいのでは」
「そうか、じゃ、急行ではなく各停に乗って、座るようにします。」
「それで、問題解決やね。」

長時間座っていても失神する方おられるようですが、この方の場合、混んだ車内での長時間の立位がトリガー。多分ですが、座っていたら大丈夫だと思われます。「私は大丈夫」と思う気持ちの余裕が、トリガーを引かせないと思います。

衆人の中で、気を失って倒れてしまったという初めての経験で、自分の中で何事が起ったのか、相当びくびくして来院されたようでした。ですが、可逆的な変化であって、事態が起こることを避ける様にすれば、問題は無いとの説明を受け、納得していただいて、親子にこやかに帰路に付かれました。私も、安堵で胸をなでおろしたのでした。