都響×アプリコ
小泉和裕 & 都響 with 南 紫音
2014年11月8日(土)15:00~ 大田区民ホール・アプリコ大ホール A席 1階 1列 14番 3,600円(都響会員割引)
指 揮: 小泉和裕
ヴァイオリン: 南 紫音*
管弦楽: 東京都交響楽団
【曲目】
ブルッフ: ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26*
《アンコール》
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 作品27-2 より第1楽章*
ブラームス: 交響曲 第1番 ハ短調 作品68
東京都交響楽団が大田区文化振興協会との共催、大田区民ホール・アプリコ大ホールで開催する「都響×アプリコ」を聴く。どういうわけか都響とはまったく縁が薄いのだが、南紫音さんのブルッフが聴けるということであるなら、逃すわけにはいかない。そこで都響会員のRさんに無理を言って会員先行の発売日にチケットを取っていただいた。もちろん恒例の、最前列のソリスト正面である。
都響の公演(定期シリーズ等)自体はここ数年聴いたことがない。あるのは企画もののコンサートやオペラのピットに入った時くらいだ。とくに嫌いだからというわけでもないが、都響のプログラムにはちょっとクセがあって、馴染めないために定期シリーズの会員になっていない。そうなると時折都響を聴きたいと思っても、1回券は定価になるから高いし(他のオーケストラはほとんど会員になっているから融通が利く)、だいいち気に入った席が手に入らない。この辺りは、都響は人気があるのでN響と似たような状況なので余計にそうなる。今回の「都響×アプリコ」は年間シリーズものとは違うので、発売日に席が選べる。都響会員には先行発売があったので、会員の友人に取っていただいたという次第なのである。
大田区民ホール・アプリコには初めて来た。1,500名ほど収容できるかなり立派なホールではあるが、どれくらい稼働しているのか心配になってしまう、自治体の公民館でもあるようだ。音響は・・・・普段聴いている音楽専用ホールとき比べるべくもないが、まあ最前列で直接音を聞いている分には・・・・あまり気にしないことにしよう。
前半はいきなりブルッフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」。プログラムを見れば分かるように、前半は尺がちょっと短い。コンサート序曲が1曲欲しいところだ。
登場した紫音さんは、群青色のドレスも鮮やかに、最近では貫禄すら感じられるほどに自然体で微笑む。今年2014年の紫音さんは協奏曲の当たり年で、3月9日には日本フィルの「コバケン・ワールド」に客演してチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(小林研一郎さん指揮/サントリーホール)を、3月23日には群馬交響楽団の東京公演に客演してシベリウスのヴァイオリン協奏曲を(大友直人さんの指揮/すみだトリフォニーホール)を演奏している。そして今日がブルッフである。人気も実力もすでに一流とみるべきだろう。ちなみに、昨年2013年6月2日にはN響オーチャード定期に客演して、ブルッフを演奏している(アンドリス・ボーガさん指揮/オーチャードホール)。紫音さんがブルッフの協奏曲を初めてコンサートで演奏したのは2009年9月の日本フィルさいたま定期(飯森範親さん指揮/大宮ソニックシティ大ホール)でのこと。この曲は、紫音さんの成長のプロセスを見てきた私にとっても、想い出の曲なのである。
演奏の方は、もうまったく文句の付けようもない。紫音さんは、すでに自身の「音」を持っていて、協奏曲の時はかなりアグレッシブな演奏をする。お姫様風の見かけとはけっこうギャップがあるが、芯の強い、鋼のように強靱でしなやかな弾力のある音質で、立ち上がりの鋭い演奏だ。G線を弾く時の低音は嫋々たる深みがあるし、高音部は金属的で硬質な緊張感の高い音。低音から高音まで一気に駆け上がるパッセージは炎の迸るごとくである。
第1楽章は、小泉和裕さんがちょっと遅めに堂々と推しすする目ようなテンポで、かなりシンフォニックにオーケストラを鳴らすのに対して、紫音さんのヴァイオリンはまったく引けを取らない強い押し出しで、ロマン派そのもののようなこの曲にしてはスリリングな展開だ。重音がキキリと立ち上がる主題は、聴いている上では自信に満ちたもので、揺るぎない確信が感じられる。ところが演奏している時の表情が少々厳しく見えるのは、まだまだ気に入った音がでていないのだろうか。これが、曲が進むにつれてノって来ると、表情も微笑み混じりに変わってくるのだ。
切れ目なしで演奏される第2楽章の緩徐楽章に入ると、紫音さんのヴァイオリンが抒情性たっぷりに歌い出す。トーンを落とすオーケストラに対して、完全に主役の立場になり、このうえなくロマンティックな旋律を、芯の強い張りのある音色で、強めに押し出して来る。甘ったるい感傷はなし。そこには 未来への憧れを含みつつも、自らの将来を自らのチカラで切り拓いていこうとする意志が感じられる。背景にある強い思いが、この甘い旋律を力強いものに変えてしまうのであろう。やはりこの曲は、若い人が演奏すると良い。
第3楽章は、紫音さんのヴァイオリンがオーケストラよりも前のめりに突っ込んでいく。主題をスタッカート気味にハッキリと刻むと、それに応えて小泉さんが、切れ味鋭く対応し、ダイナミックな掛け合いとなっていく。紫音さんのヴァイオリンがよく鳴っている。とくに低音部のヴィブラートを深めの効かせた音にはゾクゾクするような感覚があるし、高音部のレガートを効かせたフレーズにはフレッシュな色気がある。全体的にエネルギッシュで躍動的。前のめりの推進力は溌剌とした若さでいっぱい。駆け抜けるようなフィナーレも素晴らしい。これはもう間違いなくBraaava!!
曲が終わった後の紫音さんのこれほど満足そうな表情は初めて見た。おそらく、ご本人も会心の出来だったのではないだろうか。天才少女もとっくに卒業し、お嬢さん芸をはるかに超越したプロフェッショナルのアーティストの姿がそこに見えた気がする。
紫音さんのソロ・アンコールは、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番」より第1楽章。実は始まる前に一緒に聴いていたYさんが「アンコールはバッハの無伴奏を聴きたい」とおっしゃったのに対して、「まさかイザイの無伴奏ソナタなんか弾いてくれないでしょうね」などと話していたので、アンコールの演奏が始まったらビックリ。1500名のホールで演奏するような曲ではないと思うが、今日は楽器がよく鳴っている。イザイもあくまでアグレッシブな演奏に終始していた。
後半は、ブラームスの「交響曲第1番」。思い起こしてみると、3年半も前になるが、「ラ・フォル・ジュルネ2011」で小泉さんの指揮で同じ曲を聴いている。直球勝負の正攻法の演奏だったと記憶しているが、今日はどうなるのだろうか。
小泉さんの音楽作りは、全体的には剛性感が強く、構造的にも堅牢である。スコアに忠実と思えるし、余分な感情が入り込む余地がないと思えるほど、剛直なイメージだ。聴きようによっては、ちょっと融通が利かないような印象もあり、あまりにもストレートすぎる。
第1楽章は、冒頭の序奏部分はゆったりと堂々と押し出してきたが、ソナタ形式の主部に入ってからは、比較的速めのAllegroをインテンポでグイグイと進めていく。リズム感はやや重い印象だが、重戦車のような推進力がある。ダイナミックレンジも広く取り、都響の抜群の演奏能力を活かして、実にダイナミックな音楽を構築しているが、抒情性はあまり感じられないため、ドラマティックという感じではない。あくまで純音楽的であり、縦も横もピタリと合った揺るぎない構造感が、一層剛直なイメージをかき立てているのかもしれない。
第2楽章は、幾分は抒情性が描かれては来るが、そもそも楽曲がそうできているのだから、あくまでスコアに忠実な音楽作りということなのだろう。途中に表れる、オーボエやクラリネットのソロなどは、インテンポで流しているとはいえ、演奏の巧さが抒情性を描き出していて、多少は彩りを加えているようだ。もう少しテンポを揺らして旋律を歌わせるようにしたらどうだろう。あまりにも律儀な演奏に徹しすぎているようにも思えた。ヴァイオリンのソロやホルンなどもちょっと窮屈そうに感じたくらいである。
第3楽章は、やや速めのテンポ設定で、軽快な推進力があった。ここでは逆に重々しさがなく、躍動的なリズム感が、瑞々しさを描き出している。
第4楽章になると、一気に厚みを増したようになり、剛直なイメージが戻ってくる。ダイナミックレンジを大きくとった序奏は重厚でメリハリが効いて期待感をかき立てるような雰囲気がよく出ていた。主部へとつなぐアルペン・ホルンに始まる部分は、やはり都響の演奏能力の高さ、個々のパートも巧いし、アンサンブルの緻密さ、金管の和音のバランスなども見事だ。主部に入り、主題が徐々に厚みと速さを増していくあたりの緊張感は、小泉さんの剛直さが活きてくる。この楽章では、強音と弱音のメリハリが一層明瞭になり、速めに固定されたテンポとの相乗効果で、ダイナミックな効果を生み出していた。再現部で迎えるクライマックスの全合奏は、一糸乱れぬアンサンブルと爆発的な音量で、小泉×都響の相性の良さを見せつける。コーダのクライマックスには、たっぷりとタメを入れて盛り上げるが、それでも堅牢な構造感は揺るがない。このブレない精神(速めのインテンポと和声のバランス)が、全曲を通してもズッシリと重い構造を創り出しつつ、重厚この上ないのに、躍動的な生命力を感じさせるのである。
曲が終わった直後に会場内からBravo!!の声が飛んだが、これは都響ファンだろう。だがもちろん、素晴らしい演奏であることは間違いない。後味もスッキリしているし、聴いた! という充実感もある。久しぶりに聴いた都響であったが、評判通りの巧いオーケストラであることを再認識した次第。機会があれば、もっと聴いて行きたいのだが・・・・。
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【お勧めCDのご紹介】
前にも一度採り上げましたが、今日のような素晴らしい演奏を聴かせていただいたからには、やはり南紫音さんのCDを改めて紹介したいと思います。最新盤は今年の6月に発売になった『ファンタジー』。紫音さんは残念なことにまだ協奏曲のCDを録音していません。これまでに3枚のアルバムをリリースしていますが、いずれもヴァイオリンとピアノのための楽曲ばかりで、ピアノは江口玲さんが共演しています。『ファンタジー』はフォーレとフランクのソナタを中心にフランス系のプログラムでまとめられています。
小泉和裕 & 都響 with 南 紫音
2014年11月8日(土)15:00~ 大田区民ホール・アプリコ大ホール A席 1階 1列 14番 3,600円(都響会員割引)
指 揮: 小泉和裕
ヴァイオリン: 南 紫音*
管弦楽: 東京都交響楽団
【曲目】
ブルッフ: ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26*
《アンコール》
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 作品27-2 より第1楽章*
ブラームス: 交響曲 第1番 ハ短調 作品68
東京都交響楽団が大田区文化振興協会との共催、大田区民ホール・アプリコ大ホールで開催する「都響×アプリコ」を聴く。どういうわけか都響とはまったく縁が薄いのだが、南紫音さんのブルッフが聴けるということであるなら、逃すわけにはいかない。そこで都響会員のRさんに無理を言って会員先行の発売日にチケットを取っていただいた。もちろん恒例の、最前列のソリスト正面である。
都響の公演(定期シリーズ等)自体はここ数年聴いたことがない。あるのは企画もののコンサートやオペラのピットに入った時くらいだ。とくに嫌いだからというわけでもないが、都響のプログラムにはちょっとクセがあって、馴染めないために定期シリーズの会員になっていない。そうなると時折都響を聴きたいと思っても、1回券は定価になるから高いし(他のオーケストラはほとんど会員になっているから融通が利く)、だいいち気に入った席が手に入らない。この辺りは、都響は人気があるのでN響と似たような状況なので余計にそうなる。今回の「都響×アプリコ」は年間シリーズものとは違うので、発売日に席が選べる。都響会員には先行発売があったので、会員の友人に取っていただいたという次第なのである。
大田区民ホール・アプリコには初めて来た。1,500名ほど収容できるかなり立派なホールではあるが、どれくらい稼働しているのか心配になってしまう、自治体の公民館でもあるようだ。音響は・・・・普段聴いている音楽専用ホールとき比べるべくもないが、まあ最前列で直接音を聞いている分には・・・・あまり気にしないことにしよう。
前半はいきなりブルッフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」。プログラムを見れば分かるように、前半は尺がちょっと短い。コンサート序曲が1曲欲しいところだ。
登場した紫音さんは、群青色のドレスも鮮やかに、最近では貫禄すら感じられるほどに自然体で微笑む。今年2014年の紫音さんは協奏曲の当たり年で、3月9日には日本フィルの「コバケン・ワールド」に客演してチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(小林研一郎さん指揮/サントリーホール)を、3月23日には群馬交響楽団の東京公演に客演してシベリウスのヴァイオリン協奏曲を(大友直人さんの指揮/すみだトリフォニーホール)を演奏している。そして今日がブルッフである。人気も実力もすでに一流とみるべきだろう。ちなみに、昨年2013年6月2日にはN響オーチャード定期に客演して、ブルッフを演奏している(アンドリス・ボーガさん指揮/オーチャードホール)。紫音さんがブルッフの協奏曲を初めてコンサートで演奏したのは2009年9月の日本フィルさいたま定期(飯森範親さん指揮/大宮ソニックシティ大ホール)でのこと。この曲は、紫音さんの成長のプロセスを見てきた私にとっても、想い出の曲なのである。
演奏の方は、もうまったく文句の付けようもない。紫音さんは、すでに自身の「音」を持っていて、協奏曲の時はかなりアグレッシブな演奏をする。お姫様風の見かけとはけっこうギャップがあるが、芯の強い、鋼のように強靱でしなやかな弾力のある音質で、立ち上がりの鋭い演奏だ。G線を弾く時の低音は嫋々たる深みがあるし、高音部は金属的で硬質な緊張感の高い音。低音から高音まで一気に駆け上がるパッセージは炎の迸るごとくである。
第1楽章は、小泉和裕さんがちょっと遅めに堂々と推しすする目ようなテンポで、かなりシンフォニックにオーケストラを鳴らすのに対して、紫音さんのヴァイオリンはまったく引けを取らない強い押し出しで、ロマン派そのもののようなこの曲にしてはスリリングな展開だ。重音がキキリと立ち上がる主題は、聴いている上では自信に満ちたもので、揺るぎない確信が感じられる。ところが演奏している時の表情が少々厳しく見えるのは、まだまだ気に入った音がでていないのだろうか。これが、曲が進むにつれてノって来ると、表情も微笑み混じりに変わってくるのだ。
切れ目なしで演奏される第2楽章の緩徐楽章に入ると、紫音さんのヴァイオリンが抒情性たっぷりに歌い出す。トーンを落とすオーケストラに対して、完全に主役の立場になり、このうえなくロマンティックな旋律を、芯の強い張りのある音色で、強めに押し出して来る。甘ったるい感傷はなし。そこには 未来への憧れを含みつつも、自らの将来を自らのチカラで切り拓いていこうとする意志が感じられる。背景にある強い思いが、この甘い旋律を力強いものに変えてしまうのであろう。やはりこの曲は、若い人が演奏すると良い。
第3楽章は、紫音さんのヴァイオリンがオーケストラよりも前のめりに突っ込んでいく。主題をスタッカート気味にハッキリと刻むと、それに応えて小泉さんが、切れ味鋭く対応し、ダイナミックな掛け合いとなっていく。紫音さんのヴァイオリンがよく鳴っている。とくに低音部のヴィブラートを深めの効かせた音にはゾクゾクするような感覚があるし、高音部のレガートを効かせたフレーズにはフレッシュな色気がある。全体的にエネルギッシュで躍動的。前のめりの推進力は溌剌とした若さでいっぱい。駆け抜けるようなフィナーレも素晴らしい。これはもう間違いなくBraaava!!
曲が終わった後の紫音さんのこれほど満足そうな表情は初めて見た。おそらく、ご本人も会心の出来だったのではないだろうか。天才少女もとっくに卒業し、お嬢さん芸をはるかに超越したプロフェッショナルのアーティストの姿がそこに見えた気がする。
紫音さんのソロ・アンコールは、イザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番」より第1楽章。実は始まる前に一緒に聴いていたYさんが「アンコールはバッハの無伴奏を聴きたい」とおっしゃったのに対して、「まさかイザイの無伴奏ソナタなんか弾いてくれないでしょうね」などと話していたので、アンコールの演奏が始まったらビックリ。1500名のホールで演奏するような曲ではないと思うが、今日は楽器がよく鳴っている。イザイもあくまでアグレッシブな演奏に終始していた。
後半は、ブラームスの「交響曲第1番」。思い起こしてみると、3年半も前になるが、「ラ・フォル・ジュルネ2011」で小泉さんの指揮で同じ曲を聴いている。直球勝負の正攻法の演奏だったと記憶しているが、今日はどうなるのだろうか。
小泉さんの音楽作りは、全体的には剛性感が強く、構造的にも堅牢である。スコアに忠実と思えるし、余分な感情が入り込む余地がないと思えるほど、剛直なイメージだ。聴きようによっては、ちょっと融通が利かないような印象もあり、あまりにもストレートすぎる。
第1楽章は、冒頭の序奏部分はゆったりと堂々と押し出してきたが、ソナタ形式の主部に入ってからは、比較的速めのAllegroをインテンポでグイグイと進めていく。リズム感はやや重い印象だが、重戦車のような推進力がある。ダイナミックレンジも広く取り、都響の抜群の演奏能力を活かして、実にダイナミックな音楽を構築しているが、抒情性はあまり感じられないため、ドラマティックという感じではない。あくまで純音楽的であり、縦も横もピタリと合った揺るぎない構造感が、一層剛直なイメージをかき立てているのかもしれない。
第2楽章は、幾分は抒情性が描かれては来るが、そもそも楽曲がそうできているのだから、あくまでスコアに忠実な音楽作りということなのだろう。途中に表れる、オーボエやクラリネットのソロなどは、インテンポで流しているとはいえ、演奏の巧さが抒情性を描き出していて、多少は彩りを加えているようだ。もう少しテンポを揺らして旋律を歌わせるようにしたらどうだろう。あまりにも律儀な演奏に徹しすぎているようにも思えた。ヴァイオリンのソロやホルンなどもちょっと窮屈そうに感じたくらいである。
第3楽章は、やや速めのテンポ設定で、軽快な推進力があった。ここでは逆に重々しさがなく、躍動的なリズム感が、瑞々しさを描き出している。
第4楽章になると、一気に厚みを増したようになり、剛直なイメージが戻ってくる。ダイナミックレンジを大きくとった序奏は重厚でメリハリが効いて期待感をかき立てるような雰囲気がよく出ていた。主部へとつなぐアルペン・ホルンに始まる部分は、やはり都響の演奏能力の高さ、個々のパートも巧いし、アンサンブルの緻密さ、金管の和音のバランスなども見事だ。主部に入り、主題が徐々に厚みと速さを増していくあたりの緊張感は、小泉さんの剛直さが活きてくる。この楽章では、強音と弱音のメリハリが一層明瞭になり、速めに固定されたテンポとの相乗効果で、ダイナミックな効果を生み出していた。再現部で迎えるクライマックスの全合奏は、一糸乱れぬアンサンブルと爆発的な音量で、小泉×都響の相性の良さを見せつける。コーダのクライマックスには、たっぷりとタメを入れて盛り上げるが、それでも堅牢な構造感は揺るがない。このブレない精神(速めのインテンポと和声のバランス)が、全曲を通してもズッシリと重い構造を創り出しつつ、重厚この上ないのに、躍動的な生命力を感じさせるのである。
曲が終わった直後に会場内からBravo!!の声が飛んだが、これは都響ファンだろう。だがもちろん、素晴らしい演奏であることは間違いない。後味もスッキリしているし、聴いた! という充実感もある。久しぶりに聴いた都響であったが、評判通りの巧いオーケストラであることを再認識した次第。機会があれば、もっと聴いて行きたいのだが・・・・。
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【お勧めCDのご紹介】
前にも一度採り上げましたが、今日のような素晴らしい演奏を聴かせていただいたからには、やはり南紫音さんのCDを改めて紹介したいと思います。最新盤は今年の6月に発売になった『ファンタジー』。紫音さんは残念なことにまだ協奏曲のCDを録音していません。これまでに3枚のアルバムをリリースしていますが、いずれもヴァイオリンとピアノのための楽曲ばかりで、ピアノは江口玲さんが共演しています。『ファンタジー』はフォーレとフランクのソナタを中心にフランス系のプログラムでまとめられています。
ファンタジー | |
南紫音,フランク,フォーレ,イザイ,江口玲 | |
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