Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/24(月)第13回東京音楽コンクール/第2次予選・弦楽部門/6名の予選通過者が決定

2015年08月24日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第13回 東京音楽コンクール 第2次予選 弦楽部門

2015年8月24日(月)11:00~ 東京文化会館・小ホール 自由席 1階 E列 18番 500円

 「第13回 東京音楽コンクール 弦楽部門 第2次予選」を聴く。昨年の第12回の弦楽部門は本選会だけ聴いたが、今年は時間の都合を付けて、第2次予選も聴いてみることにした。
 今年の開催から内容が大幅にリニューアルされた。「国際コンクール」と銘打っているわけではないが、海外在住者も参加できるようになり、各部門にも外国人の審査員が加わる。また各部門の本選出場者が6名ずつと規模が拡大された。一方、今回から毎年3部門での開催となり、ピアノ、弦楽、声楽部門はそれぞれ3年に2回開催、木管、金管部門はこれまでどおり隔年開催のままとなる。第13回である今回は、「弦楽部門」「木管部門」「声楽部門」の3部門での開催となり、第14回は「ピアノ部門」「金管部門(テューバを新設)」「声楽部門」を開催というふうにちょっと変則的になる。
 「弦楽部門」の審査員は、兎束俊之、大谷康子(審査委員長)、西田直文、長谷川陽子、藤原浜雄、ベアンテ・ボーマン、ピエール・アモイヤル(ソリスト/モーツァルテウム音楽大学教授)の各氏。各部門共通の審査員は、国塩哲紀(東京都交響楽団芸術主幹)、三枝成彰(作曲家/音楽プロデューサー)の両氏。総合審査員長は小林研一郎氏(指揮者/東京文化会館音楽監督)である。

 今年の弦楽部門はヴァイオリン7名、ヴィオラ1名、チェロ3名、コントラバス1名の合わせて12名が第2予選に臨んだ。とりあえず、私の聴いたことがある人はいなかった。以下、演奏順にざっと概観してみよう。

【1】篠山春菜さん(ヴァイオリン)1994年生まれ
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001より フーガ
 サン=サーンス:ハバネラ 作品83
 (ピアノ:梅村祐子さん)
 篠山さんは一人目ということで緊張感も高かったと思う。入念にチューニングしていたあたりに気持ちが表れていたようだ。演奏が始まると、安定した技巧の持ち主であることは分かった。バッハの無伴奏には硬さが残っていて、演奏はしっかりしているのに、どこか音楽が歌わないというか、ノリが今ひとつといったところだ。「ハバネラ」はピアノ伴奏が付いた分だけ余裕が戻って来たものと見えて、旋律は大きく歌い出しノリも良くなったが、速いパッセージなどの技巧的な部分にぎごちなさが残っていて、結果的に音楽全体が硬い印象を残した。

【2】石田紗樹さん(ヴァイオリン)1991年生まれ
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001より フーガ
 シマノフスキ:夜想曲とタランテラ 作品28
 (ピアノ:秋元孝介さん)
 石田さんのバッハはひとつひとつの音符を丁寧に弾いているという印象で、各声部がうまく溶け込まない印象で、リズム感や曲の流れにギクシャクした感じがした。見た目にも緊張した様子だったので、かなり固くなっていたのだろう。本来の力は発揮できていなかったようだ。「夜想曲とタランテラ」は速い装飾的なパッセージやフラジオレットなどの技巧的な部分にちょっと荒さがあったかも。「タランテラ」でもリズムに乗りきれていないような重さがあったような気がする。

【3】西村萌玖夢さん(ヴァイオリン)1994年生まれ
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001より フーガ
 ラヴェル:ツィガーヌ
 (ピアノ:加納麻衣子さん)
 西村さんのバッハはしっかりとした造型を持っていて安定感があるが、一方で音量が小さめで、発揮度が少ない印象であった。演奏は悪くないと思う。「ツィガーヌ」の方がメリハリが効いていて、前半のソロの部分では押し出しも強く、パッションを感じる演奏だった。ピアノが入ってきてからは、ちょっとドタバタしていたような気がする。最後まで音量は小さめであった。

 ここまでで、20分間の休憩となった。

【4】野見山玲奈さん(ヴァイオリン)1993年生まれ
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV1003より フーガ
 ヴィエニャフスキ:グノーのファウストの主題による華麗なる幻想曲
 (ピアノ:林 絵里さん)
 野見山さんのバッハは、全体的な構造感と流れが良く、旋律が鮮やかに歌い、音楽的にも豊かな印象であった。その一方でディテールで雑な部分がなかったわけではない。ヴィエニャフスキの「グノーのファウストの主題による華麗なる幻想曲」は、まず選曲のセンスが良く、カデンツァ風の超絶技巧など聴かせ所もあるし、美しい旋律を大きく歌わせる箇所も多い。技巧的なアピールと表現力で聴かせるのに効果的だ。もちろんこのような比較的珍しい曲を選んだだけのことはある弾き方で、特に旋律の歌わせ方が自然で素敵だった。若干、線の細い感じがしないでもない。

【5】島方 瞭さん(ヴァイオリン)1997年生まれ
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV1003より フーガ
 ワックスマン:カルメン・ファンタジー
 (ピアノ:河地恵理子さん)
 ヴァイオリン組はここから男性になる。島方さんのバッハは、全体の流れもスムーズで音量も豊か。ただ、どちらかというと、キチンと弾いているにもかかわらず、あまり音楽的でないというか、全体に男性的な力感はあるのに表現が淡泊で一本調子に感じられた。「カルメン・ファンタジー」は・・・・何といったら良いのだろう。技巧的な面ではかなり弾き込んできていて、十分に上手いのだが、繊細で美しいタイプの演奏であり、「カルメン」の持つ色気が感じられない。この曲は男性が弾くとどうしても違和感を感じてしまうのは、私がオペラ好きだからだろうか。

【6】山口尚記さん(ヴァイオリン)1992年生まれ
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 BWV1001より フーガ
 イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番 ト短調 作品27-1より第1、4楽章
 山口さんの2曲とも無伴奏で通した。バッハは各声部を明瞭に描くことができている反面、各声部がバラけてしまっている部分が多く、ちょっとバタついた印象であった。音量もあまり出ていない。イザイの方が曲自体に自由度が高いこともあり、コチラの方が音楽的な流れは良かったように思うが、全体に繊細すぎる印象で、インパクトに欠ける。技術的には良いのだが、イザイの先鋭的な感覚が描ききれていないような気がした。

 ここで55分間の昼休憩となった。私たちも大急ぎで食事を取る。

【7】石原悠企さん(ヴァイオリン)1993年生まれ
 J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005より フーガ
 ラヴェル:ツィガーヌ
 (ピアノ:河地恵理子さん)
 ヴァイオリンの最後となる石原さんの経歴はまったく知らないのだが、ステージ経験が豊富のようで、緊張感のない伸びやかな演奏に終始した。バッハでは弱音と強音のメリハリがはっきりしていて、単調な曲に感じさせないだけの豊かさがあった。「ツィガーヌ」ではより一層、発揮度の高い演奏をした。押し出しも強く、音色も多彩で表現の幅も広い。音量も豊か。全体にスケールの大きな、男性的な力強さがある。若干荒っぽいところもあるが、発揮度が高く、聴く側に音楽を届けようとする意志が感じられる演奏だと思った。

8】森 朱理さん(ヴィオラ)1987年生まれ
 ヒンデミット:無伴奏ヴィオラ・ソナタ 作品25-1より 第1、2、3楽章
 レーガー:3つの無伴奏ヴィオラ組曲 第2番 二長調 作品131d-2
 ヴィオラでただひとりとなった森さんは、最年長ということもあってか、演奏は完成度が高く感じられた。ヴィオラの場合は曲が特殊なものになってしまうのでヴァイオリンと比較するのは極めて難しい。ヒンデミットのソナタは、楽器がよく鳴っていて、スケール感も十分に発揮していた。技巧的な部分も申し分ないが、むしろ表現の豊かさの方がより優れているように思う。レーガーの組曲では、繊細な抒情性も発揮していて、柔らかく深みのある濃厚な音色を駆使した表現の幅も広いようである。

【9】水野優也さん(チェロ)1998年生まれ
 シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821より 第1楽章
 シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70
 (ピアノ:諸田由里子さん)
 チェロは課題曲の設定が少なかったため、第2次予選の3名とも同じ曲目になった。水野さんの演奏は、繊細な印象が強く、音量が小さい。ピアノが鳴るとチェロの音が聞こえなくなってしまう傾向が強く、ちょっと頼りない感じが拭えなかった。もっともシューベルトはそういう曲ではあるのだが。実質的に4列目で聴いていたのだから、もう少し音が来ても良いのではと思った。シューマンもロマンティックな曲だけに、水野さんの演奏は楽曲の解釈と表現としては良いのだと思うが、もう少し音が来ないと、聴く側に何も届かないと思うのである。

 ここまでで、また20分間の休憩となった。

【10】山根風仁さん(チェロ)1996年生まれ
 シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821より 第1楽章
 シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70
 (ピアノ:齋藤里菜さん)
 山根さんのチェロはとてもクセのない素直な印象で柔らかめの音色も美しく、音量も比較的豊かな方だと思うがメリハリは弱め。シューベルトはしっとりと歌わせている。一方で、弱音部の速いパッセージなどが弱くなりすぎてふっとピアノの影に隠れてしまうようなところがある。シューマンは大らかな演奏で、とても美しく旋律を歌わせていたが、後半はやや一本調子になっていた。全体的に柔らかく大らかな演奏で聴きやすいが、別の見方をすればややインパクトに欠けるといったところか。

【11】藤原秀章さん(チェロ)1994年生まれ
 シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ イ短調 D.821より 第1楽章
 シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70
 (ピアノ:開原由紀乃さん)
 藤原さんのチェロは技巧、音色、音量、旋律の歌わせ方など、豊かで奥行きが深い。色々角度から見ても隙がなく、演奏に独自のスタイルを確立しているような印象である。ダイナミックレンジも広く、繊細さを漂わせつつもハッキリと聞こえてくる弱音から、ここぞという時の強音にもガツンと来るインパクトがある。ジューベルトでは、とにかく旋律の歌わせ方が多彩で、メリハリも適度に効かせていて、単調なこの曲を飽きさせずに聴かせてくれる。シューマンは冒頭から旋律の歌わせ方が深い。旋律の美しさに頼らずに、自らのチェロで深見のある表現を創り上げているといった印象であった。開原さんのピアノも単なる伴奏に留まらない奥行きのある表現力でバックアップしている。素敵な演奏だと思った。

【12】白井菜々子さん(コントラバス)1990年生まれ
 ヴァンハル:コントラバス協奏曲 ニ長調より 第1楽章(カデンツァ:グリューバー版)
 グリエール:2つの小品 作品9より タランテラ
 (ピアノ:小森谷裕子さん)
 白井さんのコントラバスに驚かされた人は多かったと思う。とにかくコントラバスのソロ曲なんてほとんど聴く機会がないし、この2曲も初めて聴いたというくらいだから、ヴァイオリン、ヴィオラ、そしてチェロの演奏と直接的に比較・判断するのが難しい。とはいえ、白井さんの演奏は初めて聴く人を十分に納得させ感動させるだけの圧倒的な技巧と表現力を持っていた。ヴァンハルの協奏曲は(とくにコントラバスという楽器の機能を考えると)かなりの超絶技巧曲だ。ほとんどチェロを思わせる音域で、つまりコントラバスにとってはかなりの高音域の連続。それを滑らかで柔らかい音色で、音程も正確に演奏している。さらに最後は長い超絶的なカデンツァで終わるが、その演奏は華やかさすら感じる程の見事なものだ。グリエールの方は「タランテラ」というくらいだから踊り狂うような曲だが、こちらもチェロの音域に食い込み、高音部のリズミカルなパッセージやトリオ部の美しい主題の大らかな歌わせ方にも、チェロよりも豊かで深いコントラバスならではの力強い押し出しがある。コントラバスがこれほど旋律楽器として機能しているのを初めて聴いた。個人的にもコントラバスの演奏経験があるので、余計にビックリである。その思いは会場で聴いていた人たちにも共通で、今日の12名の中で一番Bravo!!と拍手が多かった。

 全員の演奏我終わったのは、16時30分くらいであった。一人一人の演奏時間は決して長くはないが、12名すべてを聴くと、さすがにぐったりと疲れた。審査員の先生方もお疲れ様でした。やはり東京音楽コンクールの特徴でもある「弦楽部門」共通の審査は、私のような素人にはなかなか比較するのが難しい。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスと4種類の楽器に対して、それぞれに課題曲も違うからである。初めの方のヴァイオリンの皆さんが次々と演奏されていくのは比較のしようもあるので何となく採点して、ランクを付けていたが、ヴィオラから後、まったく分からなくなってしまったので、今回は時系列による「結果予測」的なことを書くのはやめておこう。全12名の全曲を聴き終えた段階での感想は次の通りである。

●ヴァイオリンの7名は技術的には皆巧く、経験値によって差があったようである。最後に演奏した石原さんが発揮度は一番だったと思うが、逆に突出して優れていると感じさせる人もいなかった。
●ヴィオラの森さんには安定した豊かさがあり、チェロの3名の中では藤原さんが音楽的な表現力が優れていた。
●コントラバスの白井さんの超絶技巧には聴いていた人が皆ビックリといったところ。

 演奏が終わり、審査結果の発表までの1時間弱の間、時間に余裕があったので結果発表を待つことにした。最後に演奏されたコントラバスの白井さんがロビーに出て来られたので、少しお話しすることができた。今日使用していたのは4弦のコントラバスで、ピンを短くして楽器を低い位置に置き、上から抱え込むように構える。これはちょっと変わった構え方で、弓の当て方も弦に対して鋭角的になるなどの特徴がある。これはウィーンに留学していたときのお師匠さんのスタイルなのだとか。私としては個人的にも興味津々の話題であった。聴いていた私たちからみれば「予選は間違いなく通るでしょ」と確信していたので、こちらは気楽なものだったが、ご本人としては・・・・。それでも記念写真をお願いしたり、楽しい一時であった。

 さて、17時20分頃に審査結果が発表された。本選に進むことになった6名は以下の通りである(*は本選会で演奏される予定の曲)。

【「弦楽部門 本選会」出場者】
【4】野見山玲奈さん(ヴァイオリン)
  *チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
【7】石原悠企さん(ヴァイオリン)
  *サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲 第3番 ロ短調 作品61
【8】森 朱理さん(ヴィオラ)
  *バルトーク:ヴィオラ協奏曲(シェルイ補筆版)
【9】水野優也さん(チェロ)
  *エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
【11】藤原秀章さん(チェロ)
  *ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲 第1番 変ホ長調 作品107
【12】白井菜々子さん(コントラバス)
  *ボッテジーニ:コントラバス協奏曲 第2番 ロ短調

 以上の6名で、来る8月30日(日)の17時から東京文化会館・大ホールで開催される「弦楽部門 本選会」が競われることになる。今日の第2次予選を聴いた限りでは、個人的な勝手な思い込みでは、この人かあの人が優勝しそうな気がするが、それも敢えて書かないことにしよう。予選を通って本選入りした以上、皆さん同列ということで、30日の「本選会」を楽しみにしよう。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 8/21(金)N響スペシャルコンサ... | トップ | 8/25(火)小林沙羅/日本声楽家... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事