Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/28(土)東京音コン優勝者コンサート/西川智也/八木寿子/岸本萌乃加/周防亮介/石田啓明

2012年01月29日 23時32分06秒 | クラシックコンサート
第9回 東京音楽コンクール 優勝者コンサート
The 9th TOKYO MUSIC COMPETITION WINNERS CONCERT


2012年1月28日(土)14:00~ 東京文化会館・大ホール 指定 一般 1階 1列17番 2,000円
指 揮: 円光寺雅彦
司 会: 本村由紀子
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

 今日は少々趣旨を変えて、これから羽ばたいて行くであろう若い演奏者たちを聴いた。昨年2011年に開催された「第9回 東京音楽コンクール」の各部門優勝者の皆さんによるガラ・コンサートである。東京音コンの本選会は聴いていないので、結果的に今日のソリストの皆さんの演奏を聴くのは初めてになる。会場の東京文化会館の大ホールでは、4~5階は使用していなかったが、関係者もいるのかもしれないが概ねよく入っていて、和やかな雰囲気の中で楽しい演奏が繰り広げられた。指揮は、“お父さんにしたい指揮者・第1位”の円光寺雅彦さん。若い演奏者の皆さんには、頼りになり、演奏もしやすそうな指揮者である。管弦楽は、東京フィルハーモニー交響楽団。司会は国立音楽大学卒業の女子アナ、本村由紀子さんである。ちなみの今日の曲目は、演奏者自身の選曲ということだ。円光寺さんが若い頃には考えられないほど、現代の若手の技術水準は高いという。けっこう強烈な曲が選ばれている。演奏順に見ていくことにしよう。

●西川智也(クラリネット/木管部門第1位)
【曲目】コープランド: クラリネット協奏曲
 西川智也さんは東京藝大大学院を今年終了とのことで、既に演奏活動を開始している。コープランド(1900~1990)はアメリカの作曲家で、「クラリネット協奏曲」はジャズのベニー・グッドマンの委嘱によって1950年に書かれた。現代音楽ということもあり、弦楽5部とハープとピアノに独奏クラリネットという変わった編成になっている。1楽章構成だが、前半と後半は曲想ががらりと異なり、中間部にカデンツァがある。クラリネット協奏曲そのものを聴く機会が滅多にないのに、コープランドではまったくの初体験。初めて聴く曲の演奏にコメントするのは難しい。曲自体はとても聴きやすい素敵な曲であり、西川さんの演奏も楽しげで伸び伸びとしていたように思う。今日はソリスト正面の最前列の席だったのだが、クラリネット(しかも協奏曲)をこれほどの至近距離(3メートルくらい)で聴いたのも初めてだし、しかもベルがちょうどこちらを向いていたので…。高音部がキンキンと響きいてあまり良い音色には聞こえなかったのだが、これは近すぎたせいだと思う。演奏自体はリズム感も良く、鮮やかな色彩感があり素敵だった。

●八木寿子(メゾ・ソプラノ/声楽部門第1位)
【曲目】モーツァルト: 歌劇『皇帝ティートの慈悲』より「行きます、でも愛するお人よ」
    サン=サーンス: 歌劇『サムソンとデリラ』より「あなたの声に心は開く」
    ヴェルディ: 歌劇『ドン・カルロ』より「むごい運命よ」
 八木寿子さんは今日の演奏者の中では最年長で、コンクール応募のギリギリくらい(失礼)。やはり声楽家は身体が出来上がる年齢にならないと無理なので、当たり前といえば当たり前(後半の3名が若すぎるので、つい比較してしまった)。声楽家らしい大柄な体型だが、声質はソフトでクセがなく、優しい感じもした。メゾ・ソプラノらしい深みを湛えた声というよりは、ソプラノをそのまま低くしたようなイメージだろうか。メゾの代表的なオペラ・アリアの名曲を3曲歌った。モーツァルトは装飾的な技巧で聴かせ、サン=サーンスはゆったりと抒情的な表現力を重視し、ヴェルディはドラマティックに、とそれぞれの曲の特徴を出すことで、幅広い歌唱能力のあることもアピールできる選曲だったといえる。最前列で聴いている上では、声量もたっぶりあるし、音域の低いメゾにもかかわらず、オーレストラから突き抜ける力強さも感じられた。他の曲も聴いたみたくなる、なかなかBrava!!な歌唱であった。

●岸本萌乃加(ヴァイオリン/弦楽部門第1位)
【曲目】ワックスマン: カルメン幻想曲 ~ヴァイオリンと管弦楽のための
 岸本萌乃加さんは、東京藝大附属音楽高校の3年生。このまま藝大に進学するのかしら。いずれにしても高校生のうちに一般の大きなコンクールで優勝したことは、今後の研鑽と活動の大きな足がかりになるはず。将来がますます楽しみになってくる。今日演奏されたのは「カルメン幻想曲」でもワックスマンの方。この曲をオーケストラ伴奏で聴く機会は意外に少ないような気がする(オーケストラの定期演奏会などではまずないだろう)。ガラ・コンサートならではというところだ。もっとも今回のコンクールでは優勝者が2名だったために、今日のコンサートでは一人当たりの持ち時間が少ない(?)ようで、本来ならばもっと本格的なヴァイオリン協奏曲が演奏されるところだ。岸本さんの演奏は、高校生の女の子らしく、繊細で可憐な感じ。カルメンという妖艶なキャラクターの表現にしては音楽が清純すぎるような気もしたが、技術的にはしっかりしているし、音色も多彩なので、純音楽として聴けば、素晴らしいものがあった。欲を言えば、もう少し音量を上げたいところだ。

●周防亮介(ヴァイオリン/弦楽部門第1位および聴衆賞)
【曲目】ヴィエニアフスキ: 『ファウスト』による華麗なる幻想曲 作品20
 周防亮介さんは東京音楽大学附属高校の1年生。まだ声変わりもしていない少年だが、身長もけっこうあるし、演奏は男性的な力強さを持っている。選んだ曲もスゴイもので、とても高校1年生とは思えない。いくら若いとはいえ、演奏の方はもちろんしっかりしている(優勝するのだから当たり前だ)。カデンツァ風の技巧的なパッセージも、正確な音程とリズムで、サラリとこなしていたし、何より美しい旋律を歌わせる部分での豊かさを感じさせる音色が良い。男性的な力強さもあって意外に太い音を聴かせていし、ロマンティックな表現も技術と合わせて申し分ない。高校1年生でこの実力であるから、将来どれほど大きくなるのか、楽しみな逸材である。こちらも欲を言わせていただけば、音色にもう少し多彩さが欲しいところ…とは贅沢な望みかしら。

●石田啓明(ピアノ/ピアノ部門第1位および聴衆賞)
【曲目】プロコフィエフ: ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 作品26
 石田啓明さんは桐朋女子音楽高校(男女共学)の2年生。早く学校名を変えれば良いのに…。オーケストラと共演ができるのでコンクールで勝ちたかったという。本選会に続いて2度目の協奏曲に選んだのはプロコフィエフの3番というのも、相当なものである。目まぐるしく駆け巡る諧謔的かつ弾むようなリズム感の第1楽章から、石田さんのピアノは若さに満ち溢れ、ひたすら明快に跳ね回っている。音楽を楽しむ、という基本的なスタンスがストレスを感じさせない音楽を生み出しているようだ。第2楽章もキラキラと煌めく音色やキレの良いリズム感が楽しい。第3楽章の多彩・多様に表現力も素晴らしい。全体を通してみれば、もっと表現の振れ幅を大きくする方がよりダイナミックになると思われたが、今の時点では今日の演奏で十分だろう。彼もまた、世界へ飛び出していく大きな器を持っているのが確信できた。

 今日は「第9回 東京音楽コンクール 優勝者コンサート」ということで、5名の優勝者をソリストに、オーケストラとの共演を聴いたわけだが、とくに後半の3名は協奏曲の経験も少ないのに、見事な演奏を聴かせてくれた。若い人たちの音楽は、面倒くさい理屈抜きで、聴いている私たちを明るい気持ちにしてくれる。ひたむきで、素直で、屈託のない明快さこそ若さの特権。今日はとても幸せな気分になれたコンサートだった。皆さんにBravi!!

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