Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

8/21(金)N響スペシャルコンサート/アリス=紗良・オットの清冽な存在感のベートーヴェンピアノ協奏曲3番

2015年08月21日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
アットホーム presents N響 SPECIAL CONCERT

2015年8月21日(金)19:00~ サントリーホール S席 1階 1列 17番 7,000円
指 揮: ヨーン・ストルゴーズ
ピアノ: アリス=紗良・オット*
管弦楽: NHK交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン:「エグモント」序曲
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37*
《アンコール》
 シューマン: 3つのロマンス 作品28 から第2曲 嬰へ長調*
ベートーヴェン: 交響曲 第5番 ハ短調 作品67「運命」
《アンコール》
 シベリウス: アンダンテ・フェスティーヴォ

 アットホーム株式会社の特別協賛によるNHK交響楽団のスペシャル・コンサート。夏休みも終盤に近づき、お盆の休みを挟んで2週間ほど音楽から遠ざかっていたので、ちょっと久し振りの感じがしてやや緊張して会場に入った。企画主旨はよく分からないが、いかにも夏休みの名曲コンサートといった内容で、オール・ベートーヴェン・プログラムである。「エグモント序曲」と「運命」というベートーヴェンを代表するテーマ「苦悩を通じての歓喜」を強烈に主張する名曲に挟まれて、ピアノ協奏曲の第3番も悲劇的な苦悩に満ちたイメージの名曲。ソリストは今を時めく「裸足の天使」アリス=紗良・オットさん。・・・・・もう何も言うことはない。

 オール・ベートーヴェン・プログラムの指揮者に選ばれたのは、どういうわけかフィンランド出身のヨーン・ストルゴーズさん。もとはスウェーデン放送交響楽団のコンサートマスターを務めていた人で、指揮者に転向し、現在はヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、BBCフィルハーモニックの首席客演指揮者、ラップランド室内オーケストラの芸術監督を務めているという。もちろんまったく知らない人で聴くのは初めて。この人、ベートーヴェンが得意なのだろうか。興味津々・・・・N響がらどんな音楽を引き出すのだろう。

 まずは「エグモント序曲」。ゲーテの戯曲『エグモント』のために作曲された10曲からなる劇付随音楽の「序曲」だが、現在は「序曲」以外が演奏されることはほとんどない。その代わり、「序曲」はベートーヴェンの数ある管弦楽曲の中でも群を抜いた傑作中の傑作であり、きわめて完成度の高い曲である。
 演奏は、やはりN響だけのことはあり、弦楽の硬質で分厚いアンサンブルで序奏からズシンと響くように押し出して来る。ストルゴーズさんの指揮は、序奏部分では重々しく、そしてソナタ形式の主部に入るとやや速めで推進力のあるテンポ感に変わった。ダイナミックレンジを広く取った劇的な音楽作りは、北欧系のイメージとはやや違った感じだ。音楽自体はインテンポでグイグイと引っ張って行くのに、ダイナミック練度が広いために、意外に重いイメージになる。N響の質感たっぷりの演奏も、音楽に厚みと深身を加えていた。コーダに入って長調に転じると金管が輝かしく咆哮し、「歓喜」が高らかに歌われるが、全体の重厚感と若干の渋みによって、スッキリ爽やかにはならないところがこの曲の本質を捉えている。

 2曲目は、「ピアノ協奏曲第3番」。登場したアリスさんは、シースルーをふんだんに用いた黒の細身のドレスで、裾が長めのために足元が見えにくい・・・・・とはいえペダルを踏む足はもちろん裸足で、真っ赤なペディキュアが鮮やかであった。いつも足元のみえる最前列でアリスさんを聴くようになって(もちろんそれだけの理由ではないが)久しい。アリスさんの演奏は、2009年以来、来日する度に東京(近郊も含む)での公演はおそらくすべて聴いているとは思うが、2012年11月の東京オペラシティコンサートホールでのリサイタル以降は、すべて最前列の正面で聴いている。どういうわけか相性抜群で、最前列席が取れてしまうのだ(笑)。だから、リサイタルも協奏曲も、最短距離で、指先の動きや演奏中の表情、ペダルを踏む素足、最近では演奏中の鼻歌まで、彼女の音楽を間近で体感し続けるという幸運に恵まれているのである。


 そんなことはともかくとして・・・・演奏の方は予想に違わずなかなか素晴らしいものであった。第1楽章の主題提示部はオーケストラだけであるが、まずストルゴーズさんは抑制的にN響をコントロールしている。先ほどの「エグモント序曲」に比べればダイナミックレンジを狭いが、それでいて厚みのアルアンサンブルに変わりはなく、全体の音にも深い彩りを持っている。駆け上がるようにピアノが入って来るあたりは、アリスさんが出だしでちょっとパンチを効かせた感じ。すぐにアリスさん独特の、芯がハッキリしていて迷いのない、明るい音色のピアノが歌い出す。第2主題の弾むような明るさがとくに印象に残る。しかも大らかでスケール感が豊かだ。小さくまとまっていないところが最大の魅力だ。あたかもピアノ・ソナタのような展開部の流れるようなリズム感も素敵だ。再現部はピアノがグイグイと引っ張って行く感じで推進力がある。カデンツァは、この曲が短調であることを忘れてしまうくらいの鮮やかさで、随所にアリスさんの鼻歌が聞こえるノリの良さである。
 第2楽章はホ長調の緩徐楽章。憧れをたっぷりと乗せた抒情的な楽章である。演奏はどちらかといえば速めのテンポであろうか。ゆるみがなく引き締まっていて、生命力に満ちたピアノに、オーケストラが寄り添っていく。アリスさんの瑞々しい感性が溢れた豊かな表現力で、美しい旋律を大らかな歌わせて行く。大きな手から紡ぎ出される音は、ただ繊細で美しいというのではなくて、やはり芯がハッキリしているといったイメージ。優しく歌わせる主題であってもスケール感を失わないのである。
 第3楽章はロンド。主題を提示するピアノは、抑制的ではあるが、弾むようなリズム感と、前へ前へと進んでいくような推進力があり、それがオーケストラにも伝わって行き、曲に生命力を与えている。長調に転じる第2主題もより一層鮮やかに華やいでみせる。店まで駆け上がるような華麗なカデンツァから続くコーダはハ長調。ここでも「苦悩を通じての歓喜」が描かれている。もっとも、アリスさんのピアノからはあまり「苦悩」の色合いは感じられないが・・・・それはそれで良いのではないだろうか。こうした全体的に鮮やかな印象で描き出された第3番の協奏曲も、良いものである。それにしても、N響のコンサートにしてはずいぶんと華やいだ雰囲気になるもので、アリスさんの魅力に、普段は堅物の楽員のオジさんたちも鼻の下を伸ばしていたとか、いないとか・・・・。

 アリスさんのソロのアンコールは、シューマンの「3つのロマンス 作品28」から「第2曲 嬰へ長調」。アンコールはベートーヴェンではなかった。こうしたしっとりとした風情のロマンティックな曲は、ひと頃の超絶技巧を売り物にしていた頃のアリスさんから一皮むけた大人っぽい雰囲気が漂って来る。美しくも抒情的な演奏であった。

 後半は「運命」。ここまでベタにプログラムを組まれると、聴く方もちょっと気恥ずかしさを感じる。今日のN響の演奏は、定期公演の時とはちょっと違った雰囲気であった。あまりにもベタなプログラムのためか、ストルゴーズさんの指揮ぶりによるものなのか・・・・。

 第1楽章は、かなり速めのインテンポで、余計なことを考える暇を与えないような、猪突猛進的な演奏だ。休符の間合いやフェルマータも短めで、前のめり気味に突っ走っていく。メトロノームのような直線的な演奏はあまり好みではないので、いささか閉口しかけたが、ストルゴーズさんの猛烈熱血の指揮ぶりがかなり加熱気味で、いつもはクールなN響からけっこうホットなサウンドを引き出しているのに気づいたら、なかなか面白いと思い直すことにした。
 第2楽章も、予想した通り、速めのテンポ。ダイナミックレンジを広く採り、全合奏時の炸裂するパワーと静かな主題部分との対比が著しい。ストルゴーズさんの音楽作りは、決してテンポが揺るがない造型の堅牢なモノを目指しているようで、ある意味で非常に客観的な音楽作りのようでもある。いわゆるドイツ音楽に特有の精神性というようなものが感じられない。かといって北欧風の冷徹さ、というのでもない。スコアに忠実、ということだろうか。
 第3楽章も・・・・インテンポ。余分な間合いがない、やはり客観的な演奏に聞こえる。ところがストルゴーズさんの指揮ぶりは身振り手振りが激しく大袈裟で、見た目には暑苦しい。実際に汗だくで指揮しているのだが・・・・。
 第4楽章もかなり速めインテンポには変わらないが、ダイナミズムがなかなかスゴイ。トロンボーンを加えた第1主題の金管の咆哮は凄まじい大音量。そしてそれにも負けない分厚く力感に溢れた弦楽のアンサンブルもスゴイ。さすがはN響といったところだ。そしてスコアに忠実なら、と予想した通りに主題提示部をあっさりとリピート。あっさりといったのは、もったいをつけたようなところがなく、インテンポでサッとリピートしたからだ。もうここまで来るとストルゴーズさんの意図はハッキリした。テンポは絶対にいじらず、速度は速め、ppからffまでのダイナミックレンジは広く採り、音量も可能な限り出す。そうした彼の解釈をサラリと具現してしまうのも、さすがはN響。高品質・高出力である。つまりは推進力と迫力いっぱいの演奏で、それなりに説得力のある演奏だったと思う。個人的な好みには合わないのではあるが・・・・。

 アンコールはシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」。なるほど、そう来たか。ストルゴーズさん、ここで本領発揮ということである。アンコールのシベリウスでは「悲しきワルツ」は食傷気味なので、日本ではちょっと珍しいこの曲を選んだことは気が利いていると思った。もちろん弦楽合奏版での演奏で、N響の弦楽五分が厚く透明で、深みのあるアンサンブルを聴かせた。ストルゴーズさんは、ここではテンポを自在に揺らし、たっぷりと旋律を歌わせた。任意で追加されても良いとされるティンパニが最後に情感を大きく盛り上げた。アンコールはBravo!! これを聴いて、ストルゴーズさんの北欧ものを聴いてみたくなった。今日のプログラムが、同じベタな名曲ものでも、シベリウスの「フィンランディア」と「交響曲第2番」、間に挟まるのがグリーグのピアノ協奏曲(もちろんアリスさんで)だったら・・・・。なんだかぜんぜん違った世界が広がったような気がする。改めて思うのだが、なぜベートーヴェンだったのだろう。

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