Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/25(日)トラブルがいっぱいの「ボローニャ歌劇場/日本公演2011」を観て、オペラ公演の在り方を考える

2011年09月26日 02時36分31秒 | 音楽に関するエッセイ
ボローニャ歌劇場 来日公演2011
TEATRO COMUNALE di BOLOGNA/TOURNÉE in GIAPPONE 2011


 イタリアの名門歌劇場「ボローニャ歌劇場」の日本公演ツアーは、びわ湖公演と東京公演で、3演目11公演が行われた。期間と演目は下記の通り。びわ湖公演*は「滋賀県立芸術劇場・びわ湖ホール・大ホール」、東京公演は「東京文化会館・大ホール」である。

「カルメン」  9月10日(土)  15:00~ *びわ湖公演
        9月13日(火)  18:30~
        9月16日(金)  18:30~
        9月19日(月・祝)15:00~
「清教徒」   9月11日(日)  15:00~ *びわ湖公演
        9月17日(土)  15:00~
        9月21日(水)  19:00~
        9月24日(土)  15:00~
「エルナーニ」 9月18日(日)  15:00~
        9月23日(金・祝)15:00~
        9月25日(日)  15:00~

 招聘元はフジテレビジョンで、5年ぶりの来日公演だった。企画の進行はかなり早く、1年以上前の2010年8月には、「フジテレビクラシックファン」会員向けにチケットの予約受付を開始していた。フジテレビのコンサート事務局は、先行予約を募る際、雄壮またはFAXによる申込用紙に席種ごとに希望の席位置を書く欄があり、ある程度こちらの希望に沿った席を振り振ってくれるので、他の団体(NBS、Japan Artsなど)よりは良心的である。私は3演目セット券をB席で、他に単券ほS席で申し込み、ほぼ希望の席を確保することができた。ただし、1年前の話である。ちなみに3演目セット券には、公演プログラム引換券が付いていた。その後、11月に事務局ならびに各プレイガイド(チケットぴあ、e+など)から一般発売されたが、各プレイガイドは会員向けに先行予約も行っている。このように何段階にも分けて、前売りをしていったが、不景気ということもあってか、完売に至ようなことはなかった。

 再三触れているように、2011年3月11日に発生した東日本大震災と、その後の福島第一原発事故によって、音楽界も大混乱に陥り、外来の大型オペラ公演にも災厄が降りかかることになる。震災の3ヵ月後の6月にメトロポリタン歌劇場が来日公演ツアーを行ったのは立派な行為だった。アンナ・ネトレプコ、ヨナス・カウフマン、ジョセフ・カレーヤ、オルガ・ボロディナが出演をキャンセルすることになったが、あの時点ではやむを得ないことだったと思う。それでも公演を実現したMETに感謝の気持ちでいっぱいだった。
 ところが、さらに3ヵ月を経て、今回のボローニャ歌劇場の公演はどうだったかと言えば、かなり問題を残したような気がする。震災から6ヵ月という期間があったにもかかわらず、出演者のキャンセルが相次ぎ、しかも多くは公演直前のキャンセル発表だった(この件に関しては9/13の記事に詳細を書いたのでコチラを参照のこと)。私は諸事情により『エルナーニ』には行けなくなってしまったが、『カルメン』と『清教徒』に2回の、計3回の公演に行った。出演者のキャンセルに関しては芸術家たちの繊細な心理状態を鑑みて、大目に見るとしても、ではそれで公演の質が保たれたのかどうかは、正直言ってわからない。『清教徒』の2回は素晴らしい上演で大満足のものであったが、『カルメン』はいささかクエスチョンマーク付きだった。ちなみに『カルメン』は主役4人のうち3人が代役、『清教徒』は主役4人のうち2人が代役だった。両公演とも、プロダクションは数年前に初演されたもので、歌劇場としては慣れた舞台のはずである。
 問題は、出演者が変更になっても、公演は予定通りに行うので、チケットの払い戻しは一切行わない、という主催者の姿勢である。それはあくまで、ひとりふたりの変更の場合、通常の場合の対処のしかたであって、今回のように大震災後という異常な状況において通用させて良い対処法だったのだろうか。少なくとも、主役4人のうち3人が代役という『カルメン』は、もう想定の範囲を超えていたと思う。とくにドン・ホセ役のヨナス・カウフマンは、6月のMETの公演でもドタキャンをしていたので、多分来ないだろうとウワサにもなっていた。招聘元としては、カウフマンの来日に向けての抱負などのインタビュー記事を載せたチラシを直前まで配布していたが、案の定のキャンセル。今回はちょっと速めだったために公演プログラムの印刷には間に合ったようだが、おそらくこれが引き金となって、フアン・ディエゴ・フローレスら大勢のキャンセルが直前に発生してしまった。『エルナーニ』のタイトルロール、サルヴァトーレ・リチートラ氏の直前の交通事故死はさらに大きな穴を開けることになってしまった。


当初のチラシに載っている顔写真で、実際に来日したのは12人中、半分の6人だけ

 繰り返すが、出演者のキャンセルは、原因は日本にあるのだから(皆病気治療のためと言ってはいるが、本当は放射能汚染の国に行きたくないからだと思われる)非難するつもりはない。やむを得ないことだと諦める。だが、だといってそのまま代役を並べて公演を行い、一切の弁済は行わない、というのは如何なものか、と言いたい。6月のMETの公演に引き続き、今回のボローニャ歌劇場の公演でも、来場者全員に公演プログラムを無償配布した。3,000円相当の立派な作りである。お詫びのしるしに、ということなのだろうが、そこにはキャンセルになった出演者が何人も掲載されているので、売ることができないからであろう。また、公平さという観点から言えば、S席54,000円の人もF席10,000円の人も同じものを1冊、というのが気になる。さらに3公演セット券を1年も前に買っていた人には、公演プログラムが3冊、ということになり、公演プログラム引換券は会場で小さなチョコレート(どう高く見積もっても1,000円くらい)と交換していた。私などは、手元に公演プログラムが3冊とチョコレートがひとつ。ちょっとバカにされた気分である。
 今回のキャンセル問題は、想定外の事態であることはわかるので、緊急に対処できないこともあっただろうとは思う。しかし、前にも書いたが、招聘元と歌劇場側、あるいは出演者側と、もっと早い時点で真摯に話し合い、お互いの希望を伝え合えば違った落としどころがあったのではないだろうか。出演者の意志を確認、一旦すべてのチケットを払い戻してから、来日が確約できる人とメンバーを再構築して、価格設定を含めて再発売するということもできたはず。少なくとも、その作業をする時間はあったはずである。また既に終わってしまった公演ではあっても、チケット購入者は把握されているはずだから、一定の割合で還付するとか、金銭的な面での弁済ができなければ、これ以降の主催公演で優遇するとか、私たち観客の持つ不満に対して何かケアできることがあるのではないか、と思うのである。

 さらにもうひとつ気になることがあった。それは9月21日(水)の『清教徒』の公演である。この日は台風15号が関東地方に接近してして、午後から東京も暴風雨になっていた。都内の電車が路線によっては運休が始まっていた午後3事頃、フジテレビのコンサート事務局に問い合わせたところ、公演は予定通りに行うという。台風で行けない人には払い戻しをするのか訪ねたら、電車が動いている以上は払い戻しはしないという。外は暴風雨が吹き荒れて、傘もさせない状態にもかかわらず、である。しかも台風は近づいてきている。この対応には正直いって腹が立った。オペラの観客にはお年寄りも多いし、杖をついている方も多く見かける。そのような方たちに、上野の周辺の電車が動いているからというだけで、出かけてこいというのは無茶である。この時点で来られない人には払い戻しをすることになっていれば、無理して出かけずにすんだ人も多かったはずだ。
 結局、私は午後4時には仕事を切り上げて、払い戻しはしないという事務局とは後でケンカするつもりでオペラは諦め、帰宅の途についた。しかし時既に遅く、東京駅に着いた途端にすべての電車が止まってしまい、閉じ込められてしまった。午後5時半ころに東京文化会館に問い合わせたところ、公演は予定通りに行うという。そこで、どうせ帰宅できないのなら、上野まで行ってオペラを観ようと考えを変えた。何とか動いてはいたがギュウギュウ詰めでなかなか乗れない地下鉄を経由して、上野に着いたのが午後6時半ギリギリ。そうしたら開演を7時の伸ばすという。これは助かった。その後は、いつもと変わりなく『清教徒』が上演され、その内容は文句なしのBravo!!であった。終わったのが午後10時半頃
 その後がまた大変で、台風はすでに通過してしまい、暴風雨は収まっていたが、電車はまばらにしか動いていない。朝夕ラッシュ時以上の超満員の電車を乗り継いで、自宅に着いたのは翌日の午前2時。この事実、どのように評価すべきか。お年寄りの方たちをはじめ、皆さん無事帰れたのだろうか。危険回避という点から見れば、正午の時点で通常通り公演を行うというホームページの発表は考えられない。むしろその時点で、来られない方には払い戻すということになっていれば、私も無理をしないで早々に帰宅していたと思う。大型の台風が目の前まで来ていて、暴風雨や洪水の警報があちこちに出ていて、東京が既に暴風雨になっていて、すでに電車の運休も始まっていて、たとえ電車が動いていても帰りが保証されないような状況で、あのフジテレビの対応はヒドイとしか言いようがない。公演を行うのはかまわないが、来られない人が多いことがどんなバカでも想定されるあの状況の中で、フジテレビの判断は、「払い戻しはしない」だった。係の人は会社の方針だと明言していた。客を人だと思っていない会社の方針である。その時、私は「フジテレビなど二度と見るものか!!」と誓ったくらいである。
 結果的に会場はかなり空席が目立った。1/3くらいは空席だったのではなかろうか。そして最終的には、ホームページ上に来られなかった人には払い戻しをすると発表された。おそらく、問い合わせまたは苦情が殺到したに違いない。また、ホームページを見ない人には、お知らせがあるのだろうか。その辺も気になるところである。しかしながら、(わたしには直接関係ない話になってしまったが)「払い戻しを行う」に方針を転換したことを評価して、「フジテレビは見ない」の誓いは取り下げることにした。招聘元=主催団体の「方針」は、はたして適切だと言えるのだろうか。

 このように、細かな問題から大きな問題まで、様々な問題を残したボローニャ歌劇場の公演であった。もちろん、歌劇場側には落ち度はなく、立派な公演を実現させてくれたことに感謝したい。あの素晴らしい『清教徒』の公演は、一生忘れないであろう名演であった。芸術的ではないかもしれないが、出演者たちが世界の超一級の超絶技巧を競い合うような、ベルカントのひとつの楽しみ方を目の当たりにすることができた、至福の時を過ごすことができた。嬉しい限りである。
 その中で、主催団体による公演の在り方には、疑問な点が多く感じられる。今回のフジテレビはもちろんのこと、NBSやJapan Artsなど他の団体も、共通する課題だろうと思う。私たちもただ単なるオペラ・ファンとしてオペラを観に行くだけではない。人類の文化遺産であるオペラを、下の方で支えているのは、私たち観客だという自負がある。客が入らなければ、興行は成り立たない。客あってのオペラなのだから、観客の心理をもっと理解して欲しいものだ。現実に、震災とは関係なく、METもボローニャ歌劇場も、完売にはなっていなかったではないか。これは明らかに、商品の価値と数量が価格と釣り合っていないことを表している。正直言って、日本で見る外来オペラは高い。安い席はすぐに完売になるのだから、価値観をもっと精査して価格設定にも再考を要するところだろう。このように公演内容に対して価格が高いからこそ売れ残っているのであって、そこにさらに出演者の変更によって価値が下がるとしたら、市場の原理からいっても価格を見直す作業をすべきと思えるのである。
 いずれにしても、(震災前の)昨年2010年のロイヤル・オペラの来日公演も含めて、今年6月のMET、今回のボローニャ歌劇場、この後のバイエルン国立歌劇場に共通する出演者のキャンセル問題。解決せよとは言わないが、何らかの対応策を立てていかないと、オペラへの不信感が高まるばかり。新たなオペラ・ファンを獲得するどころか、どんどんオペラ離れが進んでしまうような気がしてならない。

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日本でのオペラ (arietta)
2011-09-28 10:05:38
お気持ち充分伝わってきますよ。どこから意見していいのやらの現況ですね。
伝統あるオペラの本場(イタリアやMET等)での上演状況は良好なのですか?
そして今の日本の現状を思うとフジさんは6月のMETから学び、気持ちよく公演に臨みたかったですね。

私はチケット持っていませんが、この秋のベルリンフィル、ウィーンフィルも気になっています。なにせ高額ですものね。
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ベルリン・フィルよりは… (ぶらあぼ)
2011-09-28 23:35:53
arietta 様
今回は思いっきりグチをこぼしてしまいました。
でもこんなことに負けてたまるか!!
どんになヒドイ目にあっても、やっぱりオペラに行ってしまうバカな私…。
ベルリン・フィルの40,000円よりはボローニャ歌劇場の54,000円の方が良いかなァ。出演する人数が多いから、ひとり当たりのコストパフォーマンスを計算してみれば…。時間で割ってみる方法もあるし…。
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同感です (kuma)
2011-09-29 14:15:25
ぶらあぼさんにしてはめずらしいですね。
しかし台風当日の夕方にJRで混乱に巻き込まれ、ずぶ濡れで帰宅した私も「公演は予定通り」には絶句しました。そこまで追い詰められてるのか?と妙な疑惑さえ感じて・・・
今回で不快だったのは「何があっても払い戻しはしない」の対応です。状況は日本人が一番解っているのですから、病気等の言い訳よりも正直な気持ちを伝えて欲しかった。私はあとヨナス不在の「ローエングリン」で、夢のような三大オペラ・イヤー(になるはずだった)は終了します。E席19000円!(最近余った良席をオペラ体験シートと称して18000円で叩き売りしてましたね)後には薄くなった財布が~周りでも「疲れた」「もう懲りた」という声が多く聞かれます。このつけは大きく残ることでしょう。
最後に、急死したリチートラ氏に合掌。また公演後で疲れているにも関わらず遅くまでサインに応じてくださった歌手の方々に感謝します。
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一部返金を? (ぶらあぼ)
2011-10-01 19:04:03
kuma様
コメントありがとうございます。
私はワーグナーが苦手なので、夢のような3大オペラ・イヤー(苦)は、この後に行くバイエルンを含めて、7演目8公演+2特別コンサートでした。いったいいくら費やしたのだろう? 考えないことにしますが(涙)、どう考えても得した感はないですよね。
NBSさんはオペラ・フェスティバルと称して、ウィーン・フォルクス・オーパー、ウィーン国立歌劇場、ミラノ・スカラ座を売り出していますが、本当に来てくれる人と確約ができてから売り出すべきですし、そしてそれらの人が来なかった場合の対応も提示しておくべきだと思います。
Japan Arts さんはキーシン・フェスティバルでアルゲリッチさんが来ない分は一部返金していますしね。
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看板歌手 (はた)
2011-10-10 17:37:19
看板歌手がキャンセルした場合、差額分は払い戻してほしい
5万円以上するチケットの購入は年金生活者にはきつい
安い席は取るのが大変だから、無理してS券を買っています
しかし、今回の清教徒やメトのドンカルロは価格とあわない
メトのドンカルロは新人公演にベテランが参加したもの
64000円ではないよ
平日の他の日はあまりチケットがうれなかったとききますが
当然です、信頼できませんから
来年のウィーン国立歌劇場は?ですね
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キチンとした対応を… (ぶらあぼ)
2011-10-10 23:01:40
はた様
コメントをお寄せいただきまして、ありがとうございます。
実際には差額といってもどれくらいに相当するのか判断の難しいところだとは思いますが、まあ主役1人につき1割程度というところでしょうか。差額を返金するという方法以外にも、主役クラスの出演者変更が合った場合は希望する方には払い戻す、という方法も考えられます。お目当ての歌手が来ないのに、確かに5万~6万円はあり得ないですよね。
私は、出演者のドタキャンや、代役でスター誕生なんていうのもオペラにはよくあることですから、そのようなリスクもオペラの一部であると考えるようにしています。主催者にお願いしたいのは、高いチケットを買ってくれた人たちへのケアです。オペラに行かないで文句を言っている人は論外ですが、一番大切なお客さんをないがしろにしてはいけません。
結局は、6月のMETも、9月のボローニャとバイエルンも、かなり空席があったことは事実。来年のウィーン・フォルクスオーパーやウィーン国立歌劇場の公演までには時間がたっふりあるのだから、キチンとした対応策を考えておいてほしいものですね。
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