Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/19(水)発表/ユンディ・リの来日中止決定で全国で14公演が中止に

2012年09月21日 02時23分41秒 | 音楽に関するエッセイ

 尖閣諸島をめぐる中国との関係悪化の影響が、ついにクラシック音楽界にも波及してきた。2012年9月22日~10月21日の1ヶ月間にわたって来日し、全国ツアーを行う予定だった、ピアニストのユンディ・リさんが来日できなくなった。招聘元のジャパン・アーツの9月19日付けの発表によると、ユンディ・リさんは「尖閣諸島問題の影響により、中国政府から訪日を見合わせるようにとの行政指導を受け、来日が出来なく」なったとのこと。これにより、ツアーの14公演が中止になる。ご本人も来日期間中に30歳の誕生日を迎え、バースデー・コンサートなども企画されていただけに、残念でならないだろう。日本国内では反中国のデモなど起こっていないし、日本人も中国人も極めて穏やかに暮らしているのだから、中国政府が中止するように「行政指導」したというのなら如何ともしようがないが、やはり政治的な軋轢が理由で、本来平和の象徴ともいえるような文化・芸術やスポーツが中止に追い込まれていくことは非常に悲しいことである。

 私は、今回予定されていたユンディ・リさんの来日公演では、ひとつだけ行く予定になっていた。それはツアー初日、9月22日(土・祝)、文京シビックホールで行われる「響きの森クラシック・シリーズ」だ。そこでは、小林研一郎さんの指揮、東京フィルハーモニー交響楽団との共演で、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が演奏される予定だった。このシリーズを年間セット券で購入した理由の1つに、この公演が含まれていたことが上げられる。
 9月20日に主催の「文京アカデミー」から封書でこの件に関するお知らせが届いた。本公演は中止にはせず、上原彩子さんが代役で曲目に変更もなく開催される。出演者の変更に伴って、チケット代金の一部が返金されるというので、主催者側の対応としては、まったく問題はないといえよう。私の場合は、年間セット券のA席なので、7,300円のところを4,100円が返金される。上原さんも好きなピアニストなので、個人的にはまったく不満はないが、何だか上原さんのギャラが随分安いみたいで、ちょっと可哀想な感じもする…。お知らせが届いたのが公演の3日前というのが、事態の緊急性を物語っているようだ。

 昨年3月11日の東日本大震災とその後の福島第一原発事故が原因となって、昨年は、海外からのアーティストたちの来日中止が相次ぎ、中止になったコンサートも数多ければ、中止にならなかったオペラなどで主役が来ないなどという事態も多く発生したりと、大混乱であった。今年になってだいぶ落ち着いたものの、逆に昨年以来、新規の来日契約が成立しにくいらしく、今年は来日するアーティストや団体が少なくなってしまった。落ち着きを取り戻しつつあるために、来年はまたオーケストラの来日ラッシュになるようだ。
 そのような中で、今や中国や韓国出身の演奏家が世界中で活躍している現在、近隣諸国との領土問題は、音楽界にとっても由々しき事態を招きつつある。それらの国々の人気も実力もある演奏家たちは、日本を活動の重要な拠点にしているし、私たちも多くの演奏家を聴きに行っている。日本のオーケストラの定期公演や海外のオーケストラの来日ツアーに参加するソリストも多い。今回のユンディ・リさんの場合も協奏曲プログラムがいくつか組まれていた。中国や韓国の演奏家が来日できないような状況が発生すると、2013/2014シーズンの定期公演や来日ツアーなどに影響が出てくる可能性がある。

 東日本大震災の後は、復興の支援のために演奏をしてくれた大勢の音楽家の方々がいらっしゃったし、放射能が怖くて着なかった人も大勢いた。だいたいにおいて音楽家の皆さんは出身国に限定された活動をするよりは、もっとグローバルな視野と活動範囲を持っている場合が多い。そしてすべての(と言って良いと思う)音楽家が紛争のない平和な世界を望んでいる。子供の頃から海外留学、プロになれば世界中を回る。○○国人ではなく、国際人になってしまうのだ。国境を越えたものの考え方がなければ、色々な国の人と同等に付き合い、刺激し合って、音楽を作っていくことなどできないにちがいない。演奏家の方々の意志が尊重される音楽界であることを望みたい。

 また昨今の不景気により、来日組(つまりチケットの値段が高い)の演奏家のコンサートでは空席が目立つような気がする。チケットの発売時に安い方の席がすぐに売り切れることをみても、景気の動向は感じ取れるし、補助金の減額や打ち切りなどで、団体の運営が厳しい状況に置かれていることも分かる。そういう環境のところで、さらにコンサートの中止が増えれば、演奏家の皆さんも徐々に演奏する場を失っていく。事態は悪くなる一方である。

 まったくの偶然ではあるが、「都民劇場・音楽サークル」の2012年度下期のうち、11月20日のサンフランシスコ交響楽団のコンサートの1回券の発売日が今日だったのである。ソリストとして参加するのはユジャ・ワンさん。わたしの好きなピアニストの一人なので、早速チケットを取ったばかり。今日の朝10時の時点では、ユンディ・リさんの件を知らなかったので、気にもしなかったが、今になって急に不安になってきた。たったの2ヵ月後のコンサートである。
 オーケストラのコンサートでのソリストやオペラの出演者などの場合は、他の出演者が大勢いるので公演自体が中止になることは滅多にない。だから特定の演奏家を目当てにチケットをとった人は、来日キャンセル=公演は代役=払い戻しはなし、というパターンが一番理不尽な思いをする。場合によっては、聴きたくもない演奏家や知らない演奏家のコンサートを高額を支払って聴かなければならなくなるのだ。主催者は同等のクラスの演奏家を代役として立ててくれるが、芸術には著しい嗜好があるものだ。同じ値段だからといって、読みたくもない小説家の本を買う人はいないだろう。
 マイナス思考からは何も生まれない。演奏しなければ音楽にはならないのだ。ユジャ・ワンさんは来てくれるだろうか。彼女の屈託のない前向きの笑顔とひたむきで明快な演奏を聴けば、モヤモヤした気分など吹っ飛んでしまうだろう。それが音楽の力だと思うのだが…。

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