パスカルの姉はこのように語ります。
これまで病弱のために学問研究から遠ざからねばならなかったのは、
(弟は)本当に苦痛だった。
しかし、キリスト者は、なにごとにも益を見出すことができるのだ。
とりわけて、苦難を益と思うことができるのだ。
それというのも、そこにおいて
十字架にかけられたイエス・キリストを知ることができるからだ。
パスカルが最初に回心したときにジャンセニストの方から勧められた
本にサン・シラン書簡集があったのです。
この書簡集は当時の主を激しく求めるキリスト者たちの間では、
争ってよまれた人気の書簡集で、人々に大きな影響力を与えていました。
★サン・シランのことば
目に見える病や衰弱とは違った、もっとひどい病や衰弱がある
とこの書で繰り返し語っています。
その意味するところは、福音書の中にイエスによって断罪され、
ついに癒されることのない病のことです。
身分、職業、性別、年齢などの違いであってもどこにも逃げられない、
私たちの人間から去らない病のことを指しています。
この病を知らない者は、ついに根本的に何も癒されないのです。
パスカルは多くの病魔に襲われて苦痛の中にいましたが、
この病苦から「高慢の根、傲りの根、罪の根」を示されたのです。
(田辺さんのコメント)
そしてパスカルはフランスに吹き荒れた
大きな政治的動乱に巻き込まれていきます。
父親が官僚だったからです。内乱で殺戮、強奪などが行われ、
騒然とする時代でした。三十年戦争(注・01)、フランス政府の内乱など
血なまぐさい中でパスカルはパンセで
こうした出来事をごく短く触れているだけです。
フロンドは、自ら正義と称するものを力に対抗させようとした
とかなり冷静に見ていたのです。
この世には、真の正義もまことの法もないということが
残酷なまで見据えているパスカルのことば。
パンセから
この世は欲情と力が君臨するところであり、秩序を守らせ、
安全を確保し、一時的にも平和を保持しようとするなら
強権をふるい不満分子を抑え込む。
力の手に正義をもたせ、剣の権力を優先させるのだ。
なぜなら内乱ほど大きな災いはない。
人は事由や権利をほしいままに主張させておくと争いは必ず起こる。
必ず、殺される人が出る。
戦争は必然である。
三十年戦争(注・01)
主にドイツ(神聖ローマ帝国)を舞台として1618年から1648年にかけて戦われた宗教的・政治的諸戦争の総称である。ドイツにおけるプロテスタントとカトリックとの対立、オーストリア,スペインのハプスブルク家とフランスのブルボン家との抗争を背景とし,オーストリア領ボヘミアの新教徒が神聖ローマ帝国に対して反乱(プラハ窓外放出事件)を起こしたことに端を発した。当初は皇帝=カトリック軍が優勢であったが、プロテスタント国のデンマーク、スウェーデンが参戦し、旧教国フランスが新教国スウェーデンを支持するに至り、もはや宗教戦争とは言えなくなり国際的戦争となった。戦争の結果、オランダとスイスが独立し、ドイツ諸侯も独立性も強化され、神聖ローマ皇帝は名目的存在となり、ハプスブルク家は大打撃を受けた[8]。アルザス地方を獲得したフランスは大陸最強国となり、北ドイツの諸要地を獲得したスウェーデンも強国となった。この戦争はフランスブルボン家およびネーデルラント連邦共和国と、スペイン・オーストリア両ハプスブルク家のヨーロッパにおける覇権をかけた戦いであった。また政治的優位性をめぐるフランスとハプスブルク家の対立だけでなく、ハプスブルク家がドイツで帝国の権威を再構築しようとしたことの延長線上にあったとも解説される。「最後で最大の宗教戦争」ともいわれ、ドイツの人口の20 %を含む800万人以上の死者を出し、人類史上最も破壊的な紛争の一つとなった。(ウィキ)