太った中年

日本男児たるもの

愚かな菅直人

2010-07-30 | weblog

田中秀征×田崎史郎 「愚かな菅直人、不気味な小沢――それにしても幼稚な民主党よ」

この大政局をズバリ読み切る

田崎 今回の参院選で民主党が突きつけられた、改選議席54に対し獲得議席44という結果は大惨敗といっていい数字です。

逆に自民党は13議席増やして51議席を獲得しましたが、これは自民党が勝ったというより、民主党が一方的に負けた選挙といえます。まさに昨年夏の衆院総選挙と正反対の結果です。

田中 自民党の勝利は民主党への鉄槌ですよ。自民党の支持団体が息を吹き返したりしたわけではないと思いますが、1人区の地方を中心に、自民党には人材が多く、そこでの圧勝が今回の結果につながっている。

田崎 1人区の全29選挙区で、自民党は21勝8敗。前回'07年は民主系の23勝6敗ですから、ここでも正反対の結果が出ました。

やり方がズルすぎる

田中 原因は民主党が危機感を持てば持つほど、労組を中心とした組織固めをやり、労組側も民主党にすがりつこうと必死になったことへの反発でしょう。

その最たるものが、自民党やみんなの党の公務員制度改革や人員削減方針を恐れた公務員組合です。

県庁や市役所で役人たちがこぞって民主党支持に動けば、民間の組織が反発するのは当然です。

政権政党というのは国民全体を代表する党ですから、その中であまりに特定の団体が力を誇示すると、他の団体の票が逃げてしまう。民主党にはそれがわかっていなかった。

田崎 そういわれると確かに頷ける点がありますね。

私が思うに、今回の敗北は菅政権の責任ではなく、民主党政権そのものの責任でしょう。菅さんの消費税発言が敗因になったという分析も多くありますが、消費税増税を打ち出した直後は賛否が拮抗した感じでしたから。

ただその後、年収によっては全額還付する案などを口にしたり、今度は逆に引っ込めたりしたことで、「中身があやふやなまま話しているな」と受け取られた。そういう政権の体質が見透かされたのだと思います。

田中 いや、民主党そのものの責任といいますが、実は民主党のそうした状況主義的体質を象徴的に持っているのが菅さんなんです。菅さんは選挙と政局を、政略だけで乗り切ろうとした。そのズルさを有権者は見抜いているんですよ。

鳩山政権の末期、菅さんは次の首相を睨んで2番手で順番待ちをしていた。そういう姿勢も有権者はちゃんと見ている。首相という立場は、本人の意識していないようなところまでさらけ出してしまうポストで、政治のプロではない人ほど澄んだ目で見るから、菅首相がどういう人物か見えてしまう。

だいたい、消費税増税のせいで負けたといいますが、議席を増やした自民党だって、同じことをいっているんです。

田崎 確かにそうです。

田中 田崎さんがおっしゃるように、菅さんが消費税発言をした直後に強い反発が出なかったのは事実です。しかしそれは突然のことに有権者が戸惑ってしまったからで、菅さんの説明を聞くにしたがって腹が立ってきた。はっきりいって、有権者の多くは増税の必要性を理解していますよ。

私だってそうだ。でも「増税の前にやることがあるだろう」というのが有権者の気持ちです。有権者が反発したのは消費税を持ち出したことよりも、それを口にした菅さんに対する不信感があったからです。

田崎 菅さんがなぜ消費税増税を打ち出したのかを忖度すると、財務省の意を汲んだということもあるでしょうが、対自民党の争点をなくすという意図があったんではないでしょうか。

あちらがいうなら、こっちもいっておこうという。また増税というインパクトで政治とカネ、普天間問題を吹っ飛ばそうという思惑もあった。その感覚は、ある種のゲーム感覚です。

つまり本質的に、「いま消費税が最大の課題だ」という覚悟を決めて打ち出しているのではなく、対自民、対世論とのゲームをする感覚で打ち出した論点だった。そう思うんですね。

田中 私は菅さんが首相になるときに大きな心配をしていたんです。それは彼には世論が全く読めないということです。

最近、ある新聞が報じていましたが、鳩山政権時に菅さんは、鳩山さんに消費税増税を勧めていたそうです。「消費税を上げれば参院選で勝てる」とね。おそらく本気でそう思っていたのでしょう。

だから首相になった直後に支持率をさらに引き上げるため、進んで消費税増税に踏み込んだ。別に勇気ある行動でも何でもなく、計算ずくの政略です。でも、それが全く外れて、世論が読めないという、首相としての資質に関わる問題まで露呈してしまった。

菅さんは首相を辞任すべきだ

田崎 ただ、消費税発言についての結果はどうあれ、計算高さは、権力者には必要な資質ではないですか。

田中 田崎さんのようなジャーナリズムの側にいる人がそういうのならいいんですが、彼は自らそういって自分の場当たり主義を正当化するところがある。

その一方で、正当性を訴えたいなら当然、開くべき予算委員会も党首討論もやらずに、国会を閉じてしまった。私はその一点で彼のことが許せなくなりました。

予算委員会や党首討論は、いかに野党から叩かれ吊るし上げられようとも、公開の場での議論ですから、愚直に自分の信念を貫くべきだし、それが正しければ首相の支持率は上がるものです。それを逃げ出してしまった。これは許し難い。

田崎 予算委員会を開かずに高支持率のまま参院選に逃げ込むというのは、参院民主党が主導した作戦です。樽床国対委員長は予算委員会を開く方針でしたが、参院民主党が反発して開けなかった。もちろん菅さんに、参院側の作戦を止めなかったという責任もあるのでしょうが。

田中 首相がやりたいといえば開けるんですよ。

私は菅さんが首相になった直後は期待していたんです。財務省に取り込まれているのではないかと報じられている最中にも、「そう見えても猫をかぶってチャンスをうかがっているだけだ」と受け止めていた。ところが消費税増税の理由にギリシャの問題を持ち出した。

ギリシャのようになればIMF(国際通貨基金)が乗り込んできてあれこれ指示されるよと。しかしこの発言は本末転倒です。彼がこの国の最高権力者なのだから、IMFがやりそうなことを先手を打って自分の手でやればいい。それをしないで、「だから消費税増税が必要だ」と訴えるのはお門違いです。全くもって不見識だ。

田崎 私も、選挙戦の最後に菅さんが「安定か混乱か」といいだしたことには少しガッカリしました。有権者は「民主党政権なら安定するのか」と疑問を抱いているのに、そこで安定か混乱かと突きつけるのは筋が違うなと思いますね。

田中 そんなことばかりいっているから、「ねじれ」が生じる結果になった。だから、解散すべきなんです。ねじれを生じさせたのは菅さんの責任なんだから。

田崎 もう一つ選挙中に気になったのは、菅さんの街頭演説を取材した人の話を聞いてみると、「確かに人は集まってくるんだけれど熱気はなかった」ということです。腕組みをして聞いている人が多くて、まるで品定めしている感じだと。

田中 聴衆がどういう姿勢で街頭演説を聞いているかっていうのは選挙の大事なポイントです。私自身の経験でも、聴衆の支持を集めているときは、後ろのほうの人はつま先立ちをして聞いている。菅さんの演説は聴衆受けしないという定評がありますが、特に今回は昨年の政権交代のときの熱気はなかったでしょうね。

田崎 あの演説の際の「皆さん、どうですか」という口調もあまり評判が良くないですね。なにか拍手を聴衆に強要しているようで。

ともかく、大方の予想を超えた惨敗で菅さんがかなり苦しい立場に追い込まれたのは間違いありません。

田中 はっきりいいますが、菅さんは首相を辞任しなければなりません。今回の選挙結果は実質的に「菅不信任」です。菅さん自身は、開票がはじまってそれほど時間が経たないうちから続投表明しましたが、それじゃあ今回の参院選は何のための選挙だったのか。結論が決まっているなら選挙をする意味がないじゃないですか。

国政選挙というのは、一人ひとりの国会議員を選ぶ機会であると同時に、政権に対する評価を下すチャンスでもあるんです。そこで菅さんは国民からはっきりとノーを突きつけられたわけです。

田崎 私はちょっと意見が違います。「民主党代表」の立場だけなら辞めるべきだと思いますが、菅さんは就任してから1ヵ月あまりしか経っていない首相です。この段階で簡単に首相を替えてしまっていいのか、もう少し様子を見たいという気持ちがどうしても働いてしまう。

首相がこれほど短期間で交代するのは、国際的に見て信用されないし、党内に菅さんに替わる人がいるのかという問題もある。参院選敗北の責任は誰かが取らなければならないでしょうが、せめて半年くらいは菅政権の様子を見守りたい。

田中 私は今は民主党の在庫一掃過程だと思うんです。確かに首相がコロコロ替わるのは国際的な評判を下げることになるでしょう。しかし、今の日本が抱えている問題は政治全般の劣化ではなく、あくまでも「首相の劣化」です。民主党の若い世代には優秀な人材もいる。

だから「国際的な体面を考えて、首相を替えちゃいけない」というだけで政権を延命させる必要は全くないと思う。どんどんページをめくればいい。

田崎 そういって次々に首相を交代させると、玉ねぎの皮むきみたいに、めくってもめくっても芯が出てこないという可能性はないですか。

田中 芯がないんだったら、その事実をみんな早く知ったほうがいいんじゃないですか。

田崎 私は現実的に見て、まずは民主党が体制を作り直す、あるいは菅さん本人に心を入れ替えてもらって当座を凌いでいくしかないだろうと考えています。

田中 いや、やっぱり解散総選挙して民意を問うのが正しい。菅さんは決断できないと思いますけど。

枝野は間違っている

田崎 今後、小沢さんがどう動くかにも注目しなければなりません。小沢さん周辺の人たちと話をすると、「2度目の検察審査会の判断がどうなるか」を非常に気にしています。検審がなければ小沢さんや小沢グループも動きようがあるのでしょうが、いまは動きにくい状況でしょう。

それに対して、現執行部が枝野幹事長や、落選した千葉法相を留任させるのは、人事をいじりたくないからです。人事を行えば、小沢さんの周辺の人たちが、幹事長に小沢さんに近い人を就けるように要求しだすことが目に見えている。

小沢さんに近い人たちの怒りは凄まじいから、いまは沸き立っているビンに、とりあえず蓋をしたままやり過ごそうとしている。

田中 菅政権は小沢"不人気"に甘えすぎなんですよ。小沢さんが「公約は守らないといけない」と発言したら、枝野幹事長が「大衆迎合だ」と批判したが、この発言はとんでもなく不見識です。だって、小沢さんの言っていることのほうが正当なんだから。

要するに枝野さんは、「小沢の言うことにはどんな内容でも、世論は反発する」と思い込んでいる。それが間違っているんです。

一般の有権者はもっと冷静。「政治とカネで追及されている小沢さんの発言でも、正しいものは正しい」と思っています。

田崎 ただ、この政権の一つの柱が「脱小沢」であることは間違いない。だから菅政権発足直後の支持率V字回復もあったし、党内的な結束も固まった。ということは、脱小沢をここで放棄するわけにはいかないし、それを堅持していくためには人事で小沢さんサイドと妥協することはできない。

もっとも、ビンに蓋をしたままだと、そのうちボンと破裂する可能性もある。菅さんは党内の様子をよくよく確かめながら、最低限、代表選を戦って勝たないと党内をまとめることさえできなくなるでしょうね。

田中 小沢さんには検審の問題が残っているけれど、それと小沢さんの主張の当否は関係ない。「4年間は消費税を上げない」という公約を反故にしようとしたことで、菅さんはみすみす小沢さんに反執行部の旗印を与えてしまった。これは後々響いてくるでしょう。

田崎 党内問題は9月の代表選がピークになりますが、ここでも小沢さんの存在が鍵になります。菅さんがなんとか党内をまとめるためには小沢カードを利用するしかない。仙谷、枝野、岡田、前原といった人たちがまとまっていられるのは、反小沢という名目があるからです。

逆にいえば、代表選までに小沢さんが民主党を離脱するようなことになれば、菅さんを支える人たちはバラバラになる可能性が高いでしょう。

田中 そもそも、菅、仙谷、枝野の3人にしてからが、信頼関係ではなく、利害関係で結ばれているだけなんだから。

どう考えても、辞めるしかない

田崎 党内運営も前途多難ですが、国会運営も混迷を極めるでしょう。衆参のねじれは深刻です。みんなの党は公務員制度改革を丸呑みするなら、組んでもいいようなことをほのめかしていましたが、民主党の支持基盤である公務員組合の反発もあって、難しい。

公明党も、自民党と選挙協力した手前、すぐに民主党と組むわけにはいかないでしょう。となると何とか案件ごとの協力を取りつけていくしかないが、これはかなり苦しい。

田中 私はみんなの党の渡辺さんには、修正して呑めるような法案なら、呑めばいいといっています。そのかわり、法案を呑むときには、「何年までに3兆円の無駄を削減する」というような覚え書きを交わす。それで民主党ができない無駄削減の公約などを、どんどん実現させればいい。

田崎 それはいい。自民党もあれだけ勝ったら、そう簡単に大連立もできないでしょうから。ただ、案件ごとのパーシャル連合では不安定な政権運営になるのは間違いないですね。

田中 少数与党として国会で揉まれて、本当の政権担当能力をつけるいい機会ですよ。しかし、消費税のように、官僚に操られているようではもう菅政権に存続する意味はない。もっとも本人は今でも取り込まれているとは思っていないでしょうが。

田崎 実際、消費税でも年収で区切って還付する案などは、財務省と打ち合わせて口にしたものではなかったようですね。第一、財務省とすり合わせしていたのなら、区切りの年収額も詰めた話になっていたはずでしょうし。

田中 悪いことに、"政治主導"で、財務官僚が喜びそうな話を先回りして言ったというのが真相でしょう。ただ菅さんが歩こうとしている道は、財務省の目指す方向と一緒。そしてそれは菅さんが目指す方向とは正反対の「弱い経済、弱い財政、弱い社会保障」に繋がる道です。

私は菅政権ができた直後から、経済の基本方針も打ち出すべきだと発言してきましたが、彼はそれもせず、「景気回復よりも財政再建」の財務官僚と同じ発想です。

菅さんが財務官僚同様に「まず増税ありき」の姿勢を貫こうとするなら、景気回復の努力や、税金の無駄遣いをなくしているフリをする一方で、着々と増税路線を敷く。そしてそれは景気に大打撃を与えますから、経済や社会保障を弱める方向にしか作用しません。

田崎 菅さんがどのような国会運営をしていくのかは、まずは7月末に召集される臨時国会での参議院議長人事が最初の鍵になります。通常なら第1党から新議長を選出することになりますが、'93年の衆院選後に自民党が第1党だったにもかかわらず、非自民の多数勢力が社会党の土井たか子さんを議長にした例がある。

今度も野党が多数派を形成して、自民党から議長や議院運営委員長が出るようなことになれば、菅政権の国会運営は立ち行かなくなります。

そう考えてみると、菅政権に打開策が見えないのは事実です。菅さんの前に立ちはだかる党内の壁と国会の壁は非常に高い。これをどうやってよじ登るのかで力量が問われますね。

田中 繰り返しますが、一番いいのは解散総選挙。菅さんに対する最後の忠告ですが、政権にしがみつくことだけはやめたほうがいい。菅さんは焦り出すと政略的な発想がどんどん前面に出てくるタイプだし、きっと人気挽回の勝負を仕掛けようと考えるはずです。でも世論が見えないからその試みは必ず失敗します。

田崎 解散総選挙になれば、党内は一気に菅下ろしになります。そして今の流れのまま解散総選挙に打って出れば、おそらく民主党は政権を失うでしょう。

田中 だからもう菅さんは辞めるしかない。鳩山さんは次の選挙には出馬しないと宣言していますから、議員を辞めるときに菅さんと小沢さんを一緒に道連れにできれば、民主党はガラッと変わるんでしょうけどね。

(以上、現代ビジネスより転載)