太った中年

日本男児たるもの

超党派の協議

2010-07-01 | weblog

「重要政策は超党派での協議で」=重要政策は官僚への丸投げで

菅直人の消費税発言のブレについて、マスコミが本格的に追及する様子がない。帰国した菅直人を待ち受けて、ぶら下がり会見で「消費税の争点隠し」に猛然と噛みつくものと期待したが、豈図らんや肩すかしを食わされた。テレビでその場面が放送されれば、確実に内閣支持率が5%下がっただろう。その代わり、菅直人が選挙対策として仕組んだ二つの会議、①新年金制度の会議と②税と社会保障の番号制度の会議について、テレビが宣伝報道をしていた。この二つは、消費税増税のための政策措置で、民主党がアリバイ工作として見せているものであり、同時に消費税増税への手続きとして慌ただしく踏んでいるステップでもある。年金制度の新設計は、昨年の鳩山マニフェストの中で公約されていたもので、消費税を財源とする設計図を国民に示し、4年後に総選挙で信を問うという計画が示されていた。これまで、年金制度について、民主党は最低保障年金を税で賄う二階建方式を唱え、財源に消費税を充てる構想を言い続けていて、制度設計は消費税増税を組み入れた内容になる内容が想定されていた。ただし、鳩山マニフェストに明示されているとおり、当初2年間は年金記録問題を解決するための集中対応期間とされ、制度設計への着手は3年目(2013年)となっていた。思えば、年金問題は、この10年近くずっと選挙の主要な争点になってきて、一元化と最低保証が論議され、その論議は常に野党の民主党がリードしてきた。

政府側にまともな年金政策がなく、それが自民党が選挙で負ける基本要因を作ってきたとも言える。民主党の勢力の拡大は、年金に対する国民の不安を背景にしていた。政府側から年金制度の構想が出なかったのは、竹中平蔵と財務省の政策思想に基づくもので、要するに、日本の公的年金制度は破綻に任せ、国民は米国の401Kを倣って自己責任で老後の面倒を見ろという考え方からだったと言える。国民年金は崩壊、厚生年金も崩壊、共済年金だけを守ればいというのが官僚の本音で、それが「構造改革」の言わざる年金制度の将来構想だった。新自由主義の理想社会は、国家の社会保障負担がゼロになる社会である。その理想社会の実現に向かって、小泉・竹中路線で全力疾走していたのであり、その先頭に立って霞ヶ関を引っ張っていた官僚が、当時は小泉純一郎の秘書官で現在は財務省事務次官の丹呉泰健である。今回、菅直人がバタバタと年金制度の設計に関する会議を開いたのは、本来、新年金制度と引き換えだったはずの消費税増税が、切り離されて一方的に打ち出された点への批判をかわすべく、体裁を整えようとして、アリバイ的にマスコミの前で会議を開き、いかにも年金制度の方も準備していますよという演出をしただけだ。しかし、この会議開催には、どうやら単なるアリバイ工作以上に深い意味がある。菅直人は、民主党の従来の年金政策の方針も放棄する意思を固め、財務省の(新自由主義)路線である「破綻と自己責任」に舵を切っている。

昨日(6/29)の会議での結論は、「超党派で議論を」であり、具体策には踏み込んでいない。毎日の記者は、「衆院選で掲げたマニフェストで掲げた内容より後退している」と批判している。消費税と同様、消費税とセットで、選挙後に自民党に抱きつく気だ。自民党と協議の場ができれば、それを根拠にして、消費税だけを引き上げ、年金制度の方をウヤムヤにできる。これは、財務省の方針である。財務省は、消費税を基礎年金の財源に充当する気は皆無なのだ。社会保障の財源ではないのである。財務省にとって、消費税はあくまで一般歳出の財源であり、今回の増税は法人税の減税を天埋めするためのものである。毎日の記事では、会議で最低保障年金の金額を出さなかったのは、それを出すと消費税の増税幅の具体論になり、それを避けたためだと書いているが、この観測は間違っている。最初から消費税を年金財源に回す気がなく、自民党と抱きつくことで、新年金制度の設計や構築そのものを捨てる布石なのだ。自民党のマニフェストを見ると、やはり年金に関しては具体的な政策は何も提示されていない。苦笑してしまうが、「年金制度については政争の具とすることなく、超党派による協議機関を早期に立ち上げる」とある。菅直人はこれに抱きついたのだ。今週末の政治討論では、この「抱きつき」が話題になるかもしれない。注意するべきは、この「超党派による協議」とか、「党派を超えた議論」の意味である。最近、消費税を含めて、「超党派の協議」が頻繁に言われ、マスコミもそれを翼賛する報道を繰り返している。

昨夜(6/29)の古舘伊知郎も、「国の重要な政策だから超党派の協議は当然」と言った。「超党派の協議」の意味は何なのか。これは、財務省主導で政策の全てを決めるという意味だ。政党は政策の個性を持たなくていいという意味である。「協議」とは、「談合」の意味である。討議や検証を経ない無思考の合意の意味だ。「癒着」の意味に近い。すなわち、渡辺喜美が批判して言っているところの、財務省が書いているから民主と自民の税制公約が同じになるという指摘が正鵠を射ている。そもそも、国会とは国の重要政策をめぐって政党が協議し論争する場ではないか。菅直人が呼びかけている「協議」とは、国会の場での正式な議論ではなく、国会の外(料亭の個室)で政策の中身を固めるという意味であり、議論から社民や共産は外して纏めるという意味であり、消費税や年金で二党で対立するのは止めようという提案である。具体策は財務省に委ねるという意味であり、結論的には自民党の案に乗っかるという意味以外の何ものでもない。民主党と自民党は具体策を検討するのは止め、赤坂の料亭で酒を飲み、制度の具体案は官僚のフリーハンドに任せる。民主と自民の政治家は、それをどうやって国民を騙す言説にしてマスコミに撒かせるかを考えるのだ。酒を飲みながら、国民を騙す知恵を捻るのである。結局、消費税に続いて、年金も自民党に抱きつきとなった。重要政策の大連立が着々と布石されて行く。選挙が終われば、消費税と年金で政策大連立の「協議」が立ち上がる。その「協議」の合意を根拠に、消費税10%増税が決定される。

昨日(6/29)は、年金制度の会議と共に、税金と社会保障の個人情報を一つに纏める共通番号制度の検討会も開かれている。夜のテレビのニュースでも報道されていた。 これは、消費税を増税する際に、低所得者に還付をする措置を講じる上で、個人の所得を正確に把握する必要があり、そのために急に議論が浮上したものである。菅直人が消費税増税を打ち上げて逆に批判を浴び、選挙への影響を回避するべく、6/21に対処策を言い出したときは、低所得者への配慮として、複数税率と還付の二つの方式を言っていた。両方とも口から出まかせの気配が濃厚だったが、この会議を見ると、複数税率の方はさっさと引っ込めた模様である。マスコミの報道は、政府のガイドするままに単に「共通番号」の概要だけ説明し、二つの方式のうち、軽減税率がオミットされた問題について焦点を当てない。先週の報道では、どちらも行政の準備に数年かかり、導入までは2、3年かかると言われていた。ところが、驚かされたのは、今日の朝日の7面で、共通番号制度の政策を紹介する記事の見出しが、「首相『具体案年内めど』」なのである。つまり、共通番号制度の具体案の方針を年内に決めると言っている。無論、この見出しは朝日の編集幹部が菅政権の幹部の意向で撒いている情報で、意図的な政策告知である。還付をするかどうかは別に、先に共通番号制度の導入を決め、消費税増税の環境を整備するという意味だ。おそらく、軽減税率方式だとインボイス制度の導入に時間がかかり、導入を決定すると混乱も生じるので、軽減税率は採用せず、還付だけを「低所得者用の配慮」の候補にしたのだ。

この記事を見て、誰もが直感するのは、菅直人と財務省の決意が固く、今年中に消費税の増税決定を断行し、来年度から引き上げが実施されるという見通しである。共通番号制度そのものの導入までは、3年から4年かかるとなっていて、実際は、それほど簡単には導入されないだろう。グリーンカードの例もあり、必ず資産家の側から妨害が出る。財務省が共通番号制度に本気かどうかも疑わしい。消費税増税の環境整備として「導入」だけ決め、どこかの時点で曖昧に葬り去るのだろう。日本の場合、その政策を「3、4年後に実現する」と言った場合は、1年後には骨抜きにして反故にするという意味だ。いずれにせよ、この共通番号制度についても、菅民主党は選挙後に自民党に連携を呼びかけ、年金・消費税と並んで「協議」の場を設置しようと動いている。重要な政策が、悉く民主・自民の「協議」で合意される。それは、鳩山マニフェストの政策が廃棄処分される裏返しでもある。年金と消費税の次に「協議」の対象となるのは、道州制と外国人移民と憲法改正だろうが、その前に、消費税と年金の前に、真っ先に「協議」で合意するのは、衆院定数の削減である。今度の選挙で、消費税は議論の対象になっているが、定数削減は関心を集める争点になっていない。マスコミやネットで世論調査もされていない。おそらく菅執行部は、選挙終了と同時に、勝っても負けても、間髪を置かず議員定数削減に着手するはずで、その「協議」の場は一瞬で実現するだろう。反対は社民と共産だけで、国新も削減に賛成している。今度の参院選は、有権者としては何が何だか分からない奇妙な選挙になっている。選挙結果がどう出ても、有権者の消費税増税への拒絶感は変わらないだろう。

何が民意かわからぬまま、民主党の代表選と衆院選に縺れ込みそうな予感がする。

(以上、世に倦む日日より転載)