ナツメでも、クロサワでもないが、こんな夢をみた。
ある街の法廷での事である。「オーライ」と呼ばれた被告が裁かれようとしている。彼は稀代のワルでその悪行に街の人々はうんざりしていたのだ。「有罪だ!有罪だ!」と叫ぶ人の声にオーケストラの音楽が重なりミュージカルのワンシーンのようになった。「オーライ、オーライ」と歌いながら傍聴席の人々は手にガラスの破片を持ち、振り回している。音楽が最高潮に達したとき、人々はクルリと振り返り傍聴席の後ろを歩いていた一人の男に向かいそのガラスの破片を投げつけた。ガラスは男の顔に綺麗に刺さったが、肝心の男は痛がらずただただ驚愕した顔をしている。「あれはオーライの兄貴だよ」と隣にいたオヤジが僕にささやいた。
僕はオーライがどんな悪さをしていたのか調べるため法廷を出て、彼の家に行った。
彼の家にはまだ両親が住んでいた。両親は息子が犯罪者になった事をあまり悪びれる様子もなく、さまざまな悪行を僕に話した。が、その内容はといえば、線路の柵を超えて列車を見たり、沼地で魚を取ったりと子供の悪戯と大差ない他愛もない事ばかりだった。僕はオーライと、彼を罰したこの街の人々に興味を抱き、この後いろいろと調べ歩いた。しかし出てくることといえばオーライの悪戯の話ばかりであり、しかもそれを話す街の人々は別段怒っている様子もなく、淡々と語っている。
僕はオーライ本人を観察したほうがよくわかるのではないかと思い、再び裁判所の門をくぐった。
法廷の扉をあけるとあいかわらずオーライはしかめっ面で傍聴席を睨んでいる。僕は彼が話すことを一言一句聞き漏らすまいと傍聴席の最前列へ移動しようとした。その時、突如傍聴席から音楽が鳴り出した。見ると傍聴席の最後列にはヴァイオリンやトランペットなどオーケストラが陣取っており、どこかで聴いた記憶のある音楽を演奏しはじめた。人々は手にガラスの破片を持ち、「オーライ、オーライ」と歌いだす。音楽が最高潮に達した瞬間、法廷の人々が僕にに向かってガラスを投げた。無数のガラス片が自分へ向かい飛んでくる様を見ながら「ああ、俺がオーライの兄だったんだな」となぜか無性に悲しくなった。