自分という事だけではなく、あらゆる意味でおおきな節目となった2011年最後に作曲した作品であり、2012年最初の初演作品となった「ギャマットミックス」の初演がおわりました。
坂野は前日から前ノリして、どってん博物館のリーダー(館長さん)の高橋若菜さんのお宅に泊まりこみ初演にそなえました。お昼に本厚木でメンバーのボブくんと今回のソリストであり日本屈指のヴィブラフォニストである服部恵さんと合流、ランチの後リハーサルを行いました。事前に録音を送ってもらい、演奏に注文をつけたり修正したりしていたので、特に付け加える事もないと思っていましたが、直接リハーサルに参加する事で自分の作品を客観的に捉えなおす事ができ、もう一歩掘り下げる事ができました。
個人的な事なので誰にも話していませんでしたが、この「ギャマットミックス」を作曲していた時、「怒り」という感情が一番強かったと思います。震災やその後におこった原発の問題、政府の対応、国際問題、被災地への支援の形、個人的な体調などなど、とにかくやるせない気持ちを抱えた中での作曲は肉体的にも精神的にも本当に苦しかった。しかし、そういった作家個人の陰の部分から作られた音楽を見事に浄化し、演奏の喜びや音楽の面白さ、そして音楽家や作曲家が社会とコミュニケートする一番オリジナルな姿を作曲した本人に教えてもらったと思います。また、今回ソロを弾いていただいた服部恵さんはヴィブラフォン奏者というよりも音楽家として圧巻でした。技術はもちろん超一流ですが、作品に対する取り組みの姿勢、集中力の作り方、そして何より音楽を演奏する喜び、聴いてもらう幸せを演奏という形で自分以外の人に提示する事ができる演奏家だと思います。これは打楽器アンサンブル「どってん博物館」の皆さんにも共通することでした。打楽器アンサンブルという古典的なレパートリーが少ない音楽形態では、他ジャンル比べ新作に取り組む機会が多く「心」が自由になる反面、しばしばその音楽にたいして刹那的な演奏、解釈が多いように思います。これ自体は悪い事ではありませんが、どんなによく出来た作品でも空気の振動をあまり経験していない音楽は人間でいう赤ん坊のような存在です。なるべく空気の振動を経験させ、演奏家が培った過去の空気感を入れなければなりません。これは現存する作曲家の僻みなのかもしれませんが、ベートーヴェンやドビュッシーの演奏ではごく当たり前に行われている空気感の入れ込みが新作では蔑ろにされている事が多いと思います。「どってん博物館」の演奏は既成の作品はもちろん、新作に対してもきちんと呼吸し、立って歩き、トイレに行き、笑い、悲しむ感情を込めていると思います。服部恵さんにせよ、どってん博物館にせよ演奏家の人たちは常に技術的な課題を自らに課しそれを克服すべく日々精進しているのだと思います。しかし、この「音楽が音楽として成熟してゆくために練習し演奏する」という真摯な態度はなによりも素晴らしいと思いました。うるうる。
本番のコンサート自体もバラエティに富んだ内容だったと思います。JFCの作曲賞でグランプリを受賞された宮内さんの新作は一本の線が揺れて離れてゆき立体的な音場を作る作品で一見前衛的な演奏形態と響きを持っていましたが、雅楽のように一本の旋律線が楽器や演奏家というプリズムを通すことによりカラフルで多層的な音楽になるような、むしろ日本の古典音楽がもっている日本人の精神性に根ざした音楽でした。坂野はあまりの美しさに暫し恍惚としていました。くらくら。またボブくんの筆によるポップでキュートなトリオ作品をじっくり堪能できました。とくに二曲目はトリオの醍醐味を味わえる作品でした。構成の巧みさに舌をまきました。きゅんきゅん。牛島さんの名作「TEBASAKI」を聴けたのもうれしかった。も~聴いた後、頭の中からフレーズがとれなくて困りました。その後指揮しなきゃならなかったので、結構本気で困っていたぐらいです。ぐるぐる。
楽しい打ち上げの後神奈川に戻り館長宅でさらに飲みなおし就寝。翌日、正木さんは用事があるため早朝に東京へ帰ってしまいましたが、若菜ちゃんとボブくんとラーメンをたべ海老名に送ってもらいました。
レポートにならない雑感でした。