優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

別れの後 四 「ニューヨークで③」

2005-06-27 10:35:33 | 別れの後
六月の終わりにジュンサンは退院した。
一週間に一度通院することを条件に主治医から許可が下りたのだ。
その際もなるべく早く手術をした方が良いと勧められたが、ジュンサンは同意しなかった。

[イ氏が用意してくれた病院近くのマンションの一室]
マンションへ行ってみると、生活に必要なもののほかに、製図用の作業台、デスク、パソコンなどがすでに用意されていた。

部屋に入る。
初めて持った自分の家が思い出された。
ユジンと二人で家具を配置し、これから創る未来に夢を膨らませていたあのとき…。

なぜだろう?全く違う部屋なのに。
白いソファ…。
あの部屋にあったソファも白だった。
ユジンの好きな白…。
一緒にクッションを並べたね。
いたずらして君の手を握ったりして・・・。

ジュンサンはフッと微笑んだ。
白いソファを指でなでながら、
「ユジン、ここで君の家を造るよ。最後までできるかわからないけれど…、君も一緒にやってくれるよね」

部屋の傍らには、ミヒの心遣いだろうかピアノが置かれてあった。

♪♪♪「初めて」♪♪♪

拍手が聞こえた。
「ジュンサン、今でも結構弾けるわね」
いつの間にかミヒがドアのそばに立っていた。

「ピアノなんかいらないと思ったんだけど、そうやってたまに鳴らすのも気晴らしになるかしらと思って。邪魔だったかしら?」
「いいえ、嬉しいです。十年間弾いてませんでしたけれど、子供のころに覚えたことって忘れないもんですね。
こうやってピアノを弾いていると、僕はやっぱり母さんを憎んでいたんじゃなくて母さんが恋しかったんだなって思いますよ。
本当に憎んで、嫌いだったらピアノなんかには触れなかったでしょうね」
「ありがとう、ジュンサン」

[8月 ジュンサンのマンション]
マルシアンのキム次長が尋ねてきた。
「よお、ミニョン久しぶり。体の具合はどう?
仕事でこっちに来たもんだから、ちょっと顔を見に来た。
イ会長から言われたんだが、なんか俺に頼み事があるんだって?」
「ええ、先輩。今コーヒーでも淹れますから」
「何だよ、俺がやるよ。理事様に淹れていただくなんて畏れ多いよ。第一、病人だ」
「大丈夫ですよ。先輩は座っててください」

「全部自分でやっているのか?」
「いえ、毎日朝晩家政婦さんが来てくれて、身の回りのことはほとんどやってくれています。
僕が無茶していないかもちゃんとチェックしながらね。
無理をすると母さんがうるさいですから、毎日のんびりやってますよ。どうぞ」

「そうか。で、頼みって何だ?」
「これです」ジュンサンは完成した部分の図面を見せた。
「あぁ、むこうを離れる前に描いていたやつだな。これをどうする。建てるのか?」
「まだそこまでは考えていません。あの時はとにかく模型から図面を起こしただけだったので、今細かい手直しをして使える図面に少しづつ仕上げているところなんです。
出来上がったものから先輩に送りますから、時期が来たら建築できるようにマルシアンで保管しておいてもらえませんか」
「それだけで良いのか?土地を探すとかその他の手配は良いのか?大体、誰からの依頼なんだい、これ?前も仕事じゃないって言っていたが」

「・・・・・・・・・」
「全く。相変わらず肝心なところは口が堅いよな。まあいい、わかったよ」
「いつも無理言ってすみません。先輩」
「いいよ。お前の無理難題は慣れっこさ。
 …ところで、ミニョン。
ユジンさんとは全然連絡を取り合っていないのか。
ユジンさん一人でパリにいること、お前知らないんだろう」

「サンヒョクと一緒じゃないんですか」
「やっぱりそうか。
ユジンさんも全然連絡を寄こさないもんだから、ジョンアさんも心配しているんだ」
「何でサンヒョクは一緒じゃないんですか」

キム次長は経緯を手短に話すと
「サンヒョクさん、ニューヨークへ行けって飛行機のチケットまで用意して、…だからサンヒョクさんは一緒にフランスへ行くはずがないんだ。
・・・そうか、ユジンさんは全てのことを承知で、もうお前と離れていなければならない理由は何もないはずなのに、お前のところへは行かずパリへ行ったんだな」

キム次長とジュンサンは、しばらくの間黙ったままだった。
それぞれの思いをめぐらせていた。

「ユジンさんは、…サンヒョクさんではなく、お前と生きる道を選んだんだ。
そうじゃないのか?今は離れ離れになっていてもだ。
お前を信じて、手術の成功を信じてフランスへ行ったんじゃあないのか?

……イ・ミニョン!お前はユジンさんの心に答えてやらないのか?」

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