オータムリーフの部屋

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多発テロを防げるか

2015-11-14 | 国際

【ロンドン時事】パリで13日に発生した銃撃や爆弾による同時多発テロは、イスラム過激派による犯行の可能性が濃厚だ。1月に起きた風刺週刊紙シャルリエブド襲撃事件に続くイスラム過激派のテロだとすれば、フランスを含む欧州でテロの危険性が一段と高まっている現実が再び露呈したことになる。これまで犯行声明などは出ていないが、自爆テロが実行され、犯人が「アラー・アクバル(神は偉大だ)」と叫んだことを証言する声がある。フランスは、米国が主導する有志連合の一員としてイラクやシリアで過激派組織「イスラム国」への空爆に参加している。シャルリエブド事件の教訓もあり、欧州でもとりわけテロ対策を強化し、警戒を強めていた。それにもかかわらず、シャルリ事件を上回る大規模テロを許したことは、今後も同様のテロの発生を否定できなくなった。フランスはもちろん、欧州各国の治安当局も大きな衝撃を受けたことは間違いない。
今年に入って欧州にはシリアなど中東からの難民が殺到中だ。欧州の「イスラム世界との近さ」を浮き彫りにしている中での事件となった。(2015/11/14-10:05)

テロの警戒の中でなぜ簡単に乱入と襲撃を許してしまったのか。これはフランスだけの問題ではない。社会に不満を持つ若者たち、孤立感を抱いた人たちが、過激な思想に共鳴する傾向は世界各国で強まっている。
そうした若者たちの一部はイスラム国など過激派組織に加わり、その数は80か国1万5千人とも言われている。ヨーロッパからも3千人を超える若者がイスラム国に加わり、フランスだけでも千人近いと言われている。さらに今、問題となっているのは、シリアやイラクで戦闘行為を経験した後、祖国に戻ってきた若者たちや、国内で過激な思想に染まった若者たちの犯行、いわゆるホームグロウンテロの脅威だ。


欧州の多くの国では、「イスラム国」に参加するためシリアに向かう人の30%が(キリスト教などから)イスラム教に改宗している。数カ月前から、(世界中の)専門家たちは、パリでこのようなテロは起こると予想していた。テロリストたちのプロフィールを見ればよくわかることだが、彼らは驚くほど多様だ。社会の隅で生活するような人もいれば、社会に完全に溶け込んでいる人もいる。表面的に同化しているように見えても個人的、心理的に違和感をぬぐえない若者もいる。家庭が崩壊していたり、学校生活でうまくいかなかった人が、過激化しやすい傾向はある。ただ、一方で大学出の優秀な人、中流家庭出身者もいる。

40年前のドイツ赤軍を思い起こすと、その構成メンバーは中流ないしは上流の家庭の若者だった。家庭などの環境に絶望していたからではなく、20歳という理想を追う年頃で、正義感も強く、過激派グループに入り込んでしまった結果だった。日本の連合赤軍やオウム真理教の若者たちも恵まれた環境に育った者たちだった。
社会への同化の過程がうまくいっていれば、確かに過激に走るのを多少抑えられるが、万能薬ではない。国の外交政策もホームグロウンテロを生み出す原因だ。イラクやアフガニスタン、シリアに兵士を派遣している国は当然、狙われる。今回も口実として使われたようだが、実際は差別や偏見、社会に巣食う閉塞感、不公平感などが若者を突き動かすのではないだろうか。
人当たりがよく、正義感が強く、けんかはほとんどしないが、する時は他人のために戦う、年下の学生がいじめられていると、彼らのために立ち上がる好青年も多いと言う。昨年、フランス南西部トゥールーズのユダヤ人学校などで7人が死亡した銃撃事件の容疑者で、警察に射殺されたアルジェリア系フランス人のモハメド・メラ(当時23)もそうした1人だった。当初は組織に属さなない「一匹狼(ローンウルフ)」とされていたが、仏警察のその後の発表で、メラがアフガニスタンとパキスタンに旅行していたこと、2010年に少年に斬首場面のビデオを見せたとの疑いで情報機関に取り調べを受けていたことが分かった。

最後に、これが一番重要だが、伝染病のように過激思想を広め、聖戦を実行しようとする「ジハーディスト」のカリスマ的人物が存在する。インターネットで過激思想を伝搬しようと思ってもうまくいくものではない。
コンピューターの前に座っているからといって、過激化はしない。モスクで出会って友達になり、数人で一緒にサッカーをしたり、一緒に説教師の話を聞いたりして、次第に過激化していく。インターネット上では、過激な説教のリンクやビデオ、サイトなどを教え合う。つまり、インターネットによってジハーディズムの世界に入り込み、心酔してしまうことはあっても、たった1人で過激化することは少ない。

しかし、いずれにせよ、過激化はイデオロギーによっている。過激化した1人を捕まえても、その後にまた2人の過激な人物が現れる。問題は、決してなくならない。

欧米の安全保障当局が長年懸念しているのは、自国の移民コミュニティーに暮らす市民が海外に出掛け、祖国でイスラム系組織の最前線に接触する可能性だ。ボストン爆破事件のツァルナエフ兄弟は、1990年代に第一次・第二次チェチェン紛争を見て育ち、その後、ロシア南部にイスラム過激派が拡大するのを目の当たりにしたのだろう。カーネギー国際平和財団のスティーブン・タンケル客員研究員は、「これまでの情報では、祖国を離れた若者であるタメルラン・ツァルナエフ容疑者は不満を抱え、周囲に馴染めず、不幸な人生を送っていたとみられる。そして、過激かつ過度に単純化したイデオロギーの中に、自分の問題への慰めや説明を求めたようだ」と分析する。さらに、「そのイデオロギーは、米国での自分の不幸や失敗を誰かの責任にする形で説明するだけでなく、祖国で苦しむ人たちと彼を結び付けた。」と分析する。

新しい世代も育ちつつあると言うのは、米国留学やロンドンで生活した経験を持つパキスタン紙「ドーン」のコラムニスト、フマ・ユサフ氏。この世代は、母国の都市化や移住による一家離散で家族、民族、種族、言語に関するアイデンティティーと切り離された上、西洋化された無宗教層にも共感できないでいるという。ユサフ氏によると、彼らは保守的で、不平等を経験し、アイデンティティーが欠落し、過激派の論理以外には政治的な表現を見い出せないという。

9.11以降の戦争によって、欧米がイスラム教徒を殺害しようと積極的に世界に出向いているという論理が本当らしく聞こえるのだろう。2011年にウサマ・ビンラディン容疑者が米部隊に殺害された後、アルカイダが勢力を持たないと考え、自分たちが退廃的で堕落した欧米に対して立ち上がる必要があると考えるのかもしれない。

多様性を重視してきたヨーロッパは、格差の拡大とともに、移民排斥の動きが活発化している。テロを封じ込める特効薬はない。結局、過激化とは、今の社会の一部なのだ。若者が過激な思想に染まらないように、差別や偏見のない社会を築き、いかに若者たちを社会に取り込んでいくか、世界全体が問われている。ある若者は、「アルカイダは滅んだ」と語り、「これはイスラム教の闘争ではなく、腐敗や帝国主義、シオニズムに対する世界の闘争だ」と訴えた。


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